【Meryll Rogge】メリル・ロッゲにインタビュー。「変わらないもの、それは、感情による人々のつながり」

世界で活躍する8人の視点。デザイナーが未来に紡ぐもの

一流のモードの作り手たちは今どんなことを考えて、何を見据えているのか?クリエイティブな才能を発揮し続ける8人に、未来への希望を聞いた

世界で活躍する8人の視点。デザイナーが未来に紡ぐもの

一流のモードの作り手たちは今どんなことを考えて、何を見据えているのか?クリエイティブな才能を発揮し続ける8人に、未来への希望を聞いた

メリル・ロッゲプロフィール画像
Meryll Roggeメリル・ロッゲ

アントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学んだ後、マーク・ジェイコブスに7年間師事。2014年にベルギーに戻り、ドリス ヴァン ノッテンのウィメンズのデザインチームでヘッドを務める。2019年に自身のブランドをスタート。

飛び抜けて目新しくはないけれどどこか新鮮で、「こんな服が欲しかった!」と思わせる。そんなメリル・ロッゲのコレクションの底力は、彼女のオープンマインドに帰するだろう。
「一つのことには固執しません。インスピレーションは見聞きするあらゆるものの蓄積」とメリルは言う。
「強いて言えば、常に惹かれるのは1960年代以降のカラー写真。最近はチューリッヒの美術館までデイヴィット・アームストロングの写真展を見に行きました」

写真を見るとき、彼女のユニークな着眼点は、細部にズームインすることもある。2024-’25年秋冬コレクションでは、ナン・ゴールディンの写真で被写体が座っていたソファの柄を着想源に、ペイズリープリントを展開した。一方、同コレクション全体をインスパイアした写真の一連は、トビアス・ツィローニによる1980年代後半のユースカルチャーシーン。
「色を見直し、テクニカル、ユーティリティ、そしてスポーツウェアのアプローチを加えて、機能的かつ軽やかな仕上がりに」と、メリルはデザインプロセスを説明してくれた。また、実際にヴィンテージを参照することも多々あるが、彼女にとっては古きよき産物の進行形を思い描くことは一種のエクササイズだ。
「素材やシェイプをちょっと変えることが、新しさにつながるんです。たとえば最新コレクションのファーストルックでボンバーズに合わせたスカート。タキシードパンツをちょっとひねることで生まれた、新しいタイプのアイテムです」

こんな柔軟性は、彼女の拠点に対する考え方にも表れている。メリルのスタジオはベルギーの小都市ゲントにほど近い村の、一軒家。
「"田舎"にこだわったわけではなく、広いスペースを低家賃で借りられる実用的な観点から、ここに落ち着いたんです。小さな子どもを育てるのにも適している。結果的にはブティックのショーウィンドウやストリートスタイル、イベントへのインビテーションといった、注意を散漫にする要素から距離を置いて、クリエーションに集中できる環境です。だからと言ってずっとここにとどまると決めているわけではありません。2、3年ごとにライフスタイルをガラッと変えたいたちなので、もしかしたら今後は都市に移るかも」

プライべートと仕事の両方において、肩肘を張らない軽やかさを持つメリル。今年40歳を迎える彼女は、デジタル社会に適応しつつアナログ時代を知っている最後の世代として、ファッション界における自身のポジションを明確に見つめている。
「人工知能の導入や、まるでスーパーボウルのようなメガショーをすることには興味がありません。私はこれからも普通の人間として仕事をしていくし、私のショーはエンターテインメントではなく、服を見せる機会であり続けます。ファッションとはエモーションを意味すると考えているし、私はエモーションによる人々のつながりを信じていますから」

【Meryll Rogge】メリル・ロッの画像_1

スタジオはベルギーのゲント(アントワープの隣町)郊外にある一軒家

【Meryll Rogge】メリル・ロッの画像_2

目下のお気に入りルック、シワ加工のサテン地シャツとラッフルつきパンツを着たメリル。色違いで黒、赤、ペールイエローと全色揃えて着回している

【Meryll Rogge】メリル・ロッの画像_3

樹脂に収まった亀のオブジェは、東京のフリーマーケットで購入。見るたびにハッピーな気持ちにしてくれるから、スペルミスも気にならない