指に宿るファンタジー【ベア ボンジャスカ】#96

イタリアンジュエラーのBEA BONGIASCA(ベア ボンジャスカ)のリングを初めて見たとき、映画『モンスターズ・インク』(2001)に出てくるセリアというキャラクターのことを思い出した。全身紫色で、グリーンのウロコ模様のワンピースを着たスタイリッシュなモンスターなのだが、ギリシャ神話のメドゥーサみたいに髪の毛がヘビになっていて、それぞれが意思を持って動いたり鳴いたりする。リングのキャッチーなルックスといい、ポップなカラーリングといい、ぐにゃりとしたフォルムといい、一度見たら忘れられない吸引力があり、セリアに通じるものがあると思った。

指に宿るファンタジー【ベア ボンジャスカの画像_1

ブランドを象徴するこの不思議な造形は、「Baby Vine Tendril(ベイビー ヴァイン テンドリル)」という名前のリング。和訳すると「小さな蔓」という意味になる。くねくねと自由な曲線を描くアーム部分には、シルバーのベースにエナメル塗装がほどこされている。装着すると、まさに植物の蔓のように指に巻きついて見える。ヘビでこそないけれども納得のネーミングだ。

アームの先端には、マーキスカットのペリドットが頭をもたげるようにセットされている。あらゆる角度から光を取り込みながらキラリと輝く様子は、まるでひとつ目のモンスターのよう。今にも動き出しそうな躍動感がある。キッチュな光沢を放つエナメルと、みずみずしい輝きをたたえるペリドットのミスマッチ。そのプレイフルな佇まいは、さながらウェアラブルなアートピースだ。

指に宿るファンタジー【ベア ボンジャスカの画像_2
リング〈K9YG、シルバー、エナメル、ペリドット〉¥97,900

ところで、冒頭で触れた『モンスターズ・インク』は子ども向けのSFファンタジー映画だが、異質なものに恐怖を抱き、排除しようとする、まさに人間社会の本質がモンスター目線でコミカルに描かれている。人間の子どもは「触れてはならない存在」とされるモンスター社会の差別と偏見の中でも、主人公のモンスターと人間の子どもとの間に交流が生まれ、家族のような愛が芽生えていき、最終的には差別の根源となる意識そのものに変革が起きる。じつに希望に満ちた結末だ。

ベア ボンジャスカのリングも、ジュエリーでは“異質”とされるエナメルとクラシックな色石を巧みに融合させ、モダンかつユーモラスに昇華させているという点において、『モンスターズ・インク』のストーリーと共鳴する部分がある。身につければ、凝り固まった視点をぐにゃりと変えるような鮮烈な気づきを与えてくれるかもしれない。例えばあくびを連発してしまうほど退屈な会議でも、憂鬱でため息が絶えない朝の通勤電車でも、このユニークな意匠がふと視界に入ると、その瞬間に思いもよらない空想世界が広がるかもしれない。なんてことのない日常に、ほんの少しだけスパイスをきかせるパワーを秘めたリング。いわばそれは、自分の手の上だけで楽しめる小さなファンタジーなのだ。


ロンハーマン(ベア ボンジャスカ)
https://ronherman.jp/
0120-008-752
 

 

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。