メゾンの卓越したクラフツマンシップ、比類なき完璧なデザイン、素材への飽くなき追求……。時代を超えタイムレスな輝きを放つ名品には必ず、“愛され続ける理由”がある。連載「人生を彩る名品図鑑」では、そんな名品が名品たる所以を徹底解剖。
今回紹介するのは、エルメスのジュエリー、「シェーヌ・ダンクル」。
錨鎖にインスパイアされた、エルメスを代表するモダンジュエリー
エルメスの4代目、ロベール・デュマが生み出した傑作
6世代にわたりファミリーでその伝統と歴史を守ってきた、フランスが誇るラグジュアリーメゾン、エルメス。4人の娘の父であったエルメス3代目のエミール・エルメスは、後継者として娘婿を指名。そうして義父からのバトンを受けエルメスの4代目代表となったのが、ロベール・デュマだ。
エルメスの目覚ましい発展の立役者でもあったロベールは、初代「カレ」や、後に「ケリー」の名で知られるようになるハンドバッグなど、メゾンを代表するアイテムを次々に発表。そんなカリスマ的手腕を持ち合わせたロベールが手がけた名作のひとつとして外せないのが、ジュエリーラバーを魅了し続ける「シェーヌ・ダンクル」だ。
フランスのノルマンディー地方を散策していた時、船を停泊させる際に用いる錨鎖(アンカーチェーン)に目を奪われたロベール。チェーンのバランスのとれた美しいフォルムと硬質な素材がジュエリーのモチーフになると閃いた彼は、1938年、錨鎖にインスパイアされたシルバーブレスレット「シェーヌ・ダンクル」を発表する。そのモダニティを極めたエターナルな存在感のジュエリーは当時大きな衝撃を与え、瞬く間に人気を獲得。メゾンのアイコンジュエリーとして、確固たる地位を築いていった。
チェーンをジュエリーのモチーフにするというユニークな発想から生まれた「シェーヌ・ダンクル」だが、実はエルメスは1837年に創業して以来、バックル、ハーネス、馬銜といった馬具製作を通じて、チェーン加工の技術を磨いてきた。強さとしなやかさを兼ね備えたエルメス独自のチェーン加工技術が生かされた「シェーヌ・ダンクル」は、完璧なフォルムとバランスを両立したまさに逸品。馬具工房をルーツとするエルメスだからこそ生み出せた、傑作ジュエリーといえるだろう。
また「シェーヌ・ダンクル」がメゾンの長い歴史の中でも特別なピースとして位置付けられる理由として、“エルメス初のシルバージュエリー”であったことも挙げられる。シルバージュエリーはカジュアルなイメージを持たれることも多いが、エルメスでは、シルバーをゴールドと同様に貴金属として扱い、全てのアイテムをゴールドジュエリー専門の工房で、熟練の技を持つ職人が手作業で作り上げている。そしてその姿勢に至った背景にあるのが、やはりエルメスのルーツでもある“馬具”だ。馬具はもともとシルバー製であったことから、エルメスは馬具製作を通してシルバーの性質と魅力を知り尽くし、その知見をジュエリー製作に落とし込むノウハウを持っていた。
「シェーヌ・ダンクル」がゴールドジュエリーにも劣らない高いクオリティと芸術的な美しさを放つ理由には間違いなく、エルメスのシルバーに対するリスペクトがある。“シルバージュエリー=ラグジュアリー”という概念を打ち出すことに成功した「シェーヌ・ダンクル」は、単にエルメスの歴史の中で重要なコレクションというだけでなく、ジュエリー史においても重要な意義を持つコレクションといっても過言ではないだろう。
ピエール・アルディが紡ぐ、「シェーヌ・ダンクル」の新たなる物語
80年以上も前にはじまった「シェーヌ・ダンクル」の物語。その歩みは止まることなく、現在この航海の舵を取るのは、2001年にエルメスのジュエリー部門のクリエイティブ・ディレクターに就任したピエール・アルディだ。
建築家、舞踏家、そして舞台美術家の一面も持つ彼は、デザインにおいて完璧なフォルムとボリューム、そして動きを追求する独創性にあふれた名クリエイター。彼をディレクターに抜擢した、メゾンの5代目ジャン=ルイ・デュマの「ヴァンドーム広場にはないジュエリーを創造してほしい」というオファーに見事に応え、「シェーヌ・ダンクル」においても、モダンな世界観を踏襲しながら、独自のエッセンスを加えてきた。
ピエールがこれまでに発表した「シェーヌ・ダンクル」の派生シリーズは、「ファランドール」(2004年)、「フィネス」(2010年)、「シェーヌ・ダンクル・アンシェネ」(2012年) 、「サック・ビジュー」(2012年)、 「シェーヌ・ダンクル・パンク」(2017年)、「シェーヌ・ダンクル・カオス」(2022年)を含め、10種類以上。
例えば「シェーヌ・ダンクル・パンク」では、パンクの象徴でもある安全ピンをモチーフに取り入れた、エレガントな中にもエッジが効いたジュエリーを提案。また「シェーヌ・ダンクル・カオス」では、「シェーヌ・ダンクル」のコマに、繊細なチェーンとベゼルセッティングのダイヤモンドを組み合わせた芸術性の高いジュエリーを発表するなど、それぞれのシリーズにピエールのユニークな感性を反映させてきた。
1938年に生み出されたアイコニックな美しさを守りながらも、進化を止めない「シェーヌ・ダンクル」。身につける人を冒険という名の航海へ誘ってくれるこの革新的なジュエリーは、人生の岐路に立った時や、自分自身を鼓舞したい時に、揺るがない強さと挑戦するマインドを授けてくれるはずだ。
SPUR.JP厳選! 「シェーヌ・ダンクル」カタログ8選
シルバーブレスレットから始まった「シェーヌ・ダンクル」のコレクションだが、現在はシルバーのほかにホワイトゴールド、ピンクゴールド、イエローゴールドなど、さまざまなカラーのゴールドを用いたジュエリーもラインナップ。また多彩な派生シリーズが生まれ、アイテムもネックレス、リング、ブレスレット、ピアスなど豊富に揃っている。
さらに独創的なルックスとは裏腹に、卓越した職人技によって叶えられたなめらかなつけ心地も人気の秘訣。そんな魅力あふれる「シェーヌ・ダンクル」から注目のアイテムを、SPUR.JPが厳選紹介!
チェーンのコマを縦向き・横向きに並べた遊び心あふれるダブルリング。1つつけるだけで手もとをスタイリッシュに彩る、モダンなデザインが魅力。
華奢なチェーンと煌めくベゼルセッティングのダイヤモンドが絡み合う、アートピースのような「シェーヌ・ダンクル・カオス」シリーズのリング。エルメスの豊かなクリエイティビティと卓越性を味わえる逸品。
シルバーとピンクゴールドのチェーンが並んだ、スタイリッシュなデザイン。コマの大きさが2種のチェーンでさりげなく異なるのも特徴。リズミカルな表情の違いが、モードなムードを加速させる。
チェーンのコマを伸ばし、安全ピンの形に仕上げた「シェーヌ・ダンクル・パンク」シリーズのブレスレットは、コンテンポラリーな雰囲気が魅力。ドラマティックなフォルムで、インパクトのある手もとに。
ペンダントトップの眩い輝きが、リュクスなアクセントをプラス
チェーンのコマとトグル・クラスプのモチーフをペンダントトップに採用した、アイコニックなデザイン。コマを埋め尽くすパヴェダイヤモンドが壮麗な輝きを放つ。
「シェーヌ・ダンクル」のエレガントでモダンなムードの中に、パンクのエッセンスを忍ばせた個性あふれるロングネックレス。ミニマルなデザインで、どんなファッションにも絶妙にマッチする。
オープンワークが織り成す「シェーヌ・ダンクル・ディヴィンヌ」のイヤーカフは、ゴールドとダイヤモンドで幾何学模様を描いた、太陽のように眩いデザイン。どんな耳にもフィットする形状で、耳の縁の好きなところに装着が可能。
思わず目を奪われるグラフィカルなフォルムを形作るのは、細かく編まれた優美なゴールド。ボリュームと繊細さの二面性を秘めた、唯一無二のデザイン。