2020.02.17

一人でも多くの人に読んでほしい、伊藤詩織さんが見つめる未来

「簡単につぶされるちっぽけな存在、と思い知らされた恐怖を知っているからこそ、誰にも耳を傾けられない小さな声を届けたい」

photography:Mie Morimoto
photography:Mie Morimoto

2月22日発売のSPUR4月号では、ジャーナリストの伊藤詩織さんにインタビューを試みました。ちょうどその1週間前まで、西アフリカで取材をしていた詩織さん。彼女が今追いかけているのは、女性器切除(略称FGM)の問題です。FGMとは、女性器を切除したり縫い閉じる通過儀礼で、西アフリカのシエラレオネ共和国では実に9割の女性が体験しています。この過程で命を落とす子どももたくさんいるという、国際的に注目されている問題です。2017年に民事訴訟を起こし実名で会見して以来、苛烈なバッシングが続き日本での暮らしも困難になる中、詩織さんは粛々と「自身が伝えるべきジャーナリズム」を追求し続けていたのです。

もちろん、2019年12月18日に勝訴したのちも詩織さんは性暴力の傷を乗り越えたわけではありません。性暴力の被害者をサバイバーと呼ぶことがありますが、「サバイバーという言葉には違和感があリます。決して終わりはなく、生き延び続けていく、サバイビングしているという感覚なんです」。去年の4月に日本にいた際に、桜を眺めていたら急に涙が止まらなくなったといいます。なぜだろう?と記憶を辿ると、「被害にあった日、桜がとてもきれいに咲いていたことを思い出して。自分でも無意識のうちに4年間桜を避けていたのかもしれませんが、とにかく何がフラッシュバックのトリガーになるか、自分でもわからないんです」。今まで言われて一番うれしかったことは、「ここまで生き延びてくれてありがとう、という言葉」。今、詩織さんが改めて語る性暴力被害における対応の問題点、そして彼女が見つめる未来。雑誌では勝訴後初めてのインタビューということで、じっくり語っていただきました。

印象的だったのは、海外での報道のされ方と、日本での報道のされ方の温度差についてを尋ねたとき。事実をダイレクトに伝える海外のメディアに比べて、明らかに日本のメディアは及び腰の報道をしていました。「でも、実は現場レベルでは、この件についてきちんと伝えたい、と思っている記者の方がたくさんいることがわかったんです。現場の記者の方がそう思っていても、会社が大きくなればなるほど、デスクや編集長の段階で記事が通らない。『伊藤さんが著書を出したから、その書評という形で記事を出せました』とか、『海外が報道したから、こちらでもできることになりました』という声をたびたびいただきました」と詩織さん。

シュプールはファッション雑誌ですが、伊藤詩織さんの声を届けることは今、最重要であると考えています。なぜなら多くの人の目に触れるファッション雑誌だからこそ、一度「なかったこと」にされた彼女の声を、今まで興味のなかった人々にまで広く伝えることができるから。そしてそういった声に耳を傾けることは、自分たちの生活に密接に関わってくることだからです。今回の企画で撮影を担当してくださった写真家の方も、「ずっと、なぜファッション雑誌が伊藤さんへインタビューをしないのだろう、と思っていました。彼女の声を無視することは、女性の権利を自らひっこめてしまうことだと思う。だから、シュプールから撮影の声がかかって、とてもうれしかったです」と言ってくださいました。3時間のインタビューを終えて、心から思います。女性も、男性も、この問題と無関係な人は一人もいません。この世界で生きる、一人でも多くの人にこの特集を読んでもらいたい。そう願っています。

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