【頻尿、尿もれ……】 出産後、更年期世代だけじゃない! “尿”にまつわるお悩みの原因&対策を泌尿器科医二宮先生に聞きました

映画の途中でどうしてもトイレに行きたくなる、出産を機に咳やくしゃみの拍子に尿もれするようになった……。20〜30代の間でも意外に多い、尿にまつわるお悩み。事が事だけに人には言えず、ひとりで悶々としている人も多いはず。

「まずはその悩みが病的な原因によるものなのか。それとも心的ストレスや生活習慣からきているものなのか。それをきちんと理解することが大切です」と話すのは、泌尿器科医の二宮典子先生。さまざまな要因が考えられる問題だけに、思うところがあるのなら放置は厳禁。病気の可能性にいち早く気づくためにも、膀胱の悩みに振り回されないベターライフをおくるためにも。今こそ、“おしっこ悩み”と向き合おう!

 

みんなはどんなことで悩んでる? 女性に多い「おしっこ悩み」の症例

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尿もれが始まった際は、ただ様子を見ていても改善することはありません。何が原因でもれているのか、自分の症状をきちんと理解して正しい対処法を。

尿もれに悩む女性の約5割が、急に尿意を覚えてトイレに間に合わずにもらしてしまう「切迫性尿失禁」。約8割がせきやくしゃみ、大笑い、トランポリン、立ち上がるなど、日常の動作によって腹圧がかかった際に少量の尿が出てしまう「腹圧性尿失禁」とされています。前者は排尿に関する脳の指令がうまく伝達できていない。後者は加齢や出産、肥満などによる、尿道周辺の筋肉の緩みなどが原因として考えられます。上記の症状が併発する「混合性尿失禁」の人も全体の3割程度みられる模様。





泌尿器科医二宮先生に聞く「おしっこ悩み」Q&A

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2023年2月SPUR.JPで「身体の悩み」を募集したところ、頻尿・尿もれは第3位という結果に。20〜50代などすべての世代が悩んでいるというデータも。

「この尿意はおかしい?」と思ったときにまずやるべきことや、そもそもなぜ頻尿や尿もれは起こるのか。その原因と対策を二宮レディースクリニック院長・二宮典子先生にインタビュー。健やかな膀胱を育むためのヒントがここに!

 

Q1.若い人でも頻尿や尿もれに悩んでいる人は意外と多いのでしょうか?

生殖機能が完成される第二次性徴の頃から30歳くらいまでが、人は体力的にもっとも充実しています。本来であればその時期には頻尿や尿もれは起こりづらいのですが、間違った生活習慣や、過度なストレス、ダイエットなどが原因で若くても泌尿器系の悩みを抱える人は一定数います。その年代で診療に来られる方も近年増えているように思いますね。生まれつき排尿に関しての能力が低い方や膀胱以外の疾患による場合もあるので、恥ずかしいことと思わずにおかしいと思ったら病院へ。頻尿・尿もれで疑うべき症状は膀胱炎から子宮筋腫、糖尿病や脳梗塞などさまざまです。

Q2.成人女性の排尿の目安は1日何回くらいでしょうか? 何回以上になると頻尿と言えるのでしょうか?

頻繁に尿意を感じることでその人が悩んでいるのであれば、それはもう頻尿と呼べる状態です。厳密に決まりはないのですが、目安を述べるのなら“起きている間に1日10回以上排尿する人”、“排尿から2時間もたたないうちに切迫した尿意を感じる人”、さらにその状態で“尿意を我慢しようとすると少量でももれてしまう人”は一度泌尿器科に行ってみることをおすすめします。

さらにもうひとつチェックすべきは“就寝中、毎晩のように度々トイレに起きてしまうかどうか”。1時間につくられるおしっこの量の目安は50cc弱。膀胱の容量が200ccだとしても、単純計算で4時間強は持つことになります。さらにトイレに行きたくなるとき大抵の人はコップに水が溜まってゆく様子を思い浮かべますが、実際の膀胱の形状は水風船のようなもの。筋肉なので収縮もするし、膀胱内部の圧力が高まれば腎臓もつくる尿量を少なくするよう調整をはじめます。そのことからもわかるとおり、膀胱の機能が正常であれば寝ている6〜7時間にしょっちゅう尿意で起きるということは本来ないはず。なので毎晩のようにトイレに1、2回トイレで起きるという人は、やはり病院に行ってみてください。(寝る前に水やビールをガブ飲みしているのであれば、もちろんまずはそれを控えてみて!)

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膀胱を物にたとえるならば、ガラスのコップではなく水風船。筋肉なので中に溜まる尿の量に応じてある程度膨らむことができます

Q3.膀胱の状態をセルフチェックする方法はありますか?

市販の計量カップなどを使い、朝一番のおしっこの量を量ってみてください。日中より朝一番のおしっこの方が量が多い、という人はわりといます。Q2でもお話ししたように、外的ストレスがなく膀胱もリラックスしている就寝中は尿を溜めやすいからです。寝ている間にトイレに行くこともなく、起きてすぐの排尿で200cc以上出るのであれば、膀胱がきちんと尿を溜められているというひとつのバロメーターになります。それなのに日中頻繁に尿意を感じるという人は、水分の摂りすぎや緊張、冷え性、便秘による刺激を尿意と錯覚しているなど、何か別の原因があるのかも。

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「排尿日誌」などのワードで検索すると、毎日の排尿量や水分摂取量を記録できるアプリもあるので是非活用を。

Q4.摂取する水分量が同じくらいでも、頻繁に尿意を感じる日とそうでもない日があるのはなぜでしょうか?

ズバリ、尿意を感じる要因が多岐にわたっているからです。ある程度おしっこが溜まると脳に指令が伝わり、膀胱の筋肉がぐっと硬くなって尿意につながります。外気の温度や発汗量、体調や緊張、排便の状態などにより、腎臓の尿の生成量も膀胱の圧が高まるタイミングも変わる。毎日同じでないことはむしろ当たり前なのです。

Q5.抜けづらい会議中や絶対に席を外したくないライブや映画の間など、行けないと思うとトイレに行きたくなります。精神的なものなのでしょうか?

過度に緊張すると体に圧がかかって膀胱が縮み、下向きに力がかかりがちになります。さらに排泄行為をすると全身がリラックスするため、本能的に過度な緊張から逃れようとして尿意を感じやすくなります。トイレに立てる状況であれば一度くらいは行ってもよいですが、それができなくて困るという場合、「この尿意はまやかしである!」と自覚するのはひとつの手段です。精神論のようですが、なぜそうなるかを理解して自分自身を納得させることは、脳の伝達にも影響を及ぼします。そして体を動かすような音楽系のライブは鼓動が早くなったり交感神経が活発になったりして、本来は尿意を感じにくくなるはず。それでもトイレに行きたくなるときは「席を外したくない!」という精神的なプレッシャーによるものと考えられるので、深呼吸したりアロマオイルを塗ったり、何か別の方法で気持ちをほぐしましょう。映画や舞台鑑賞、クラシックのコンサートなどは状況がまったく違っていて、体が冷えやすかったり、飲み物を摂りすぎてしまうということが考えられます。一口に席を立ちにくい、抜けづらいシーンと言ってもなぜ尿意を感じるかの要因はまちまちなので、それを考えたうえでベストな対策をとりましょう。

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精神的な理由で尿意を感じていると思うときには、膀胱の状態を思い浮かべるなどして「本当はまだ余裕がある!」と自分に言い聞かせてみるのもひとつの手段。

Q6.尿意を感じたときに多少我慢する方が、膀胱が鍛えられて頻尿になりにくいのでしょうか?

Q2・3のセルフチェックで問題がなく、膀胱の状態が正常な人の場合、尿意を感じてすぐor感じる前にトイレに早めに行く習慣をなくすというのは頻尿予防に有効だと思います。尿意を感じた時点で膀胱が満タンということはなく、単純計算でもそこから1、2時間の余裕はあるはずです。なので「この作業がひと段落してから行こう」など、日頃から排尿を焦らないクセをつけておきましょう。膀胱も筋肉なのでトレーニングが可能。普段まったく鍛えていないで急に尿意をコントロールしようと思っても難しいです。さらにいうと小さい頃からよく耳にしてきた“おしっこを我慢する”という言い回しが「トイレに行かなくては!」という強迫観念を脳に植えつけているように思います。単に“尿意をキャッチ”している状態なのだと、発想から変えてみてはいかがでしょうか。

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「すぐに出さないと体に悪い!」「我慢しなくちゃ!」という発想をそもそも変えてみよう。尿意に対してシリアスになりすぎず、「あ、今きたな〜」くらいのゆるい気持ちで。

Q7.加齢による頻尿・尿もれを防ぐ手立てはありますか?

自覚症状はさておき、40歳以降からは生殖機能とともに排尿機能も悪化し始めます。予防&改善のためには、全身の健康状態を整えることが最も大切です。

①定期的な運動習慣・②十分な休息と睡眠・③健康的な食事・④不要なストレスの回避を今まで以上に心がけて。当たり前のことばかりですが、きちんと意識することが大切です。実は便秘は頻尿の原因に直結していて、直腸や肛門の近くに便が残っていると無意識のうちに骨盤が緊張して錯覚的に尿意を引き起こします。それを防ぐためにもまず、バランスのよい食生活をはじめとする上記のことには本腰で取り組みたいところ。そのうえで排尿に関するトラブルがある場合は早めに専門医に相談を。

Q8.「おしっこ悩み」を防ぐために、控えた方がいい食べ物・飲み物はありますか?

酸っぱいものや保存料の多いものは膀胱を刺激するほか、ワインやビール、コーヒーなどに多く含まれるカリウムは膀胱が積極的に排出しようとする代表的な物質です。これらのものを控えて和食を中心にするのが泌尿器系にいいことはもちろんですが、現代に生きている以上、それを完璧にやるのもなかなか難しいですよね。ストイックになりすぎず、まずは毎朝のコーヒーをラージからスモールサイズにしてみるなど、できることから始めてみて。

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毎日のコーヒーの量を減らしてみるなど、日常の中で無理なくできる取り組みを。美容のために水を多く摂る人もいますが、泌尿器科の観点からいうとそれで頻尿になるのは当たり前です!

Q9.出産後、くしゃみやジャンプなどのちょっとした刺激で尿もれするようになりました。骨盤の緩みを改善すれば治るのでしょうか?

赤ちゃんの頭を出すために出産時は骨盤の間がグラグラになり、出産後もその緩みがすぐに戻ることはありません。それによって尿道の角度が維持できなくなり、垂直に近くなって尿をせきとめにくくなるのが尿もれの原因です。骨盤矯正やセルフでできる骨盤ストレッチも流行っていますが、個人的には速攻で緩みを締められる万能な方法はないと思っています。子育てをしながらできる現実的な取り組みとして、まずは膝がゆったり前を向くようにきちんと座る。重たいものを片側だけで持ったりせず、左右の重心がバランスのよい立ち方をするなど、まずは日常の姿勢をただすことから心がけてみてはいかがでしょうか。骨盤の開きを助長するような姿勢をしなければ、徐々に緩みは引き締まってきますよ。

Q10.終わりの見えない尿もれに悩まされていて、今すぐどうにかしたいです。改善方法はありますか?

ちょいもれが続いている場合には、尿道の中にインティマレーザーを打つのがよいでしょう。尿道や膣の細胞を活性化させてコラーゲンを再構築し、弾力性を復活させるというものです。次の出産を考えている人でも施術ができ、メンテナンス感覚で定期的に打つのに向いています。1回10万円前後のところが多く、泌尿器科や経験値の高い婦人科で受けるのがおすすめです。パッドでいうと1日に20g以上の尿もれを感じていて、なおかつ次の出産を考えていない人は手術を受けるという方法も。人工物で尿道の角度を引き上げるので、1回で高い効果を得られるのが特長です。ただし何回も行うことはできないので、再び緩みを感じてきたら追加でレーザーを打ったりして機能を維持してゆく必要があります。泌尿器系以外の原因で尿もれしている可能性もあるので、いずれにせよきちんと病院で診察を受けてから施術を検討してください。

 

お話を伺ったのは……

二宮典子先生

大阪・心斎橋にある「二宮レディースクリニック」の院長として、泌尿器科・婦人科・性機能の診療、医療用アートメイクの施術を行う。人にはなかなか相談しにくい女性特有のお悩みをズバッと解決するYouTubeチャンネル『ココシカ診療所』は、チャンネル登録者数3.9万人を突破。今年の1月に出版した著書『女医が教える潤うからだづくり』(主婦の友社)では、デリケートゾーンのトラブルや更年期によるホルモンバランスの乱れの解消&ケア方法を、女医ならではの視点でわかりやすく解説している。頻尿・尿もれについても触れているので要チェック!



ハッピープラス アカデミアでは、二宮先生による「デリケートゾーンとプレジャーを学ぼう」というテーマで講座を開催アーカイブ視聴できますので、気になる方はチェックを!