【榮倉奈々と未来への学び】自然と向き合う家、鶴岡邸を訪ねる

榮倉さんとともに地球の未来を考える本連載。今回訪れたのは、自然と共存する家・鶴岡邸。その斬新なデザインに隠された革新的な仕組みとは?

鶴岡邸と榮倉奈々
コート¥231,000・ボディスーツ¥85,800・パンツ¥85,800・靴¥96,800/CLIFF co.ltd.(FUMIKA_UCHIDA) ピアス¥46,000・リング(2点セット)¥173,000/トムウッド プロジェクト(トムウッド)

今回訪れたのは……鶴岡邸

鶴岡邸

東京都練馬区の石神井池に面する鶴岡邸は、建築家・武田清明の設計による2階建ての個人住宅(2021年竣工)。人工物と自然とのバランスを考えた建築を目指す、武田氏の理念を体現した邸宅だ。かまぼこ型のアーチの"ヴォールト天井"が最大の特徴で、下のイラストの断面図のように各階の天井や柱には土が入っている。雨が降るとヴォールトに沿って、雨水が屋上から下に流れ、土の柱を通って、地下の地中に循環していく仕組み。また、ヴォールトは大中小3種類のサイズがあり、土の深さも20~90㎝と場所によって深さが変わることで、さまざまな植物を植えることが可能に。屋上を含め、100種類以上の植物が育ち、自然と溶け合うような景観となっている。

暮らしの中で、自然を身近に感じる工夫が随所に

鶴岡邸の外観

ユニークな外観に立ち止まって中をのぞく人も。「建てた当初は、朝食の納豆ご飯も全部見られていましたが(笑)、今は植物が育って目隠しの役目を果たしてくれています」(武田さん)

鶴岡邸の丸窓と榮倉奈々

ヴォールトの半円を生かした美しい丸窓。椅子の下は収納スペースになっていて機能的

武田清明の制作したプロダクト

「風景としての植物よりも、暮らしに役立つものを」と、ハーブ、キンカン、ベリーなど食べられる植物が多く植えられている

中・右 新潟県の糸魚川で探してきた無加工の石を使ってプロダクトも制作している武田さん。石の重みで固定するスタンドライトやブックエンドなど、均一でない石の形が個性を生み出す

鶴岡邸の内装

 建物の内外は、砂利が表面に浮き出るようにした「洗出し」のコンクリートで造られているため、経年劣化が目立たない作りに 

 窓のレールの下に敷いた砂利は、結露対策。家の中と外の境目を曖昧にする視覚効果も

鶴岡邸と榮倉奈々

さまざまな植物が茂る屋上。ハンモックや月見用デッキもあり、みんなの憩いの場所

武田清明と榮倉奈々のインタビュー

武田清明と榮倉奈々

鶴岡邸は自然の力を最大限に生かしているんですね
榮倉さん

NANA EIKURA
1988年、鹿児島県生まれ。2004年に俳優デビュー。映画『余命1ヶ月の花嫁』をはじめ、話題作に多数出演。10月21日(金)より世界同時配信されているAmazon Originalドラマ「モダンラブ・東京」第2話に出演中。

人間より自然のほうが合理的だったりするんです
武田さん

お話を聞いたのは……武田清明さん
1982年、神奈川県生まれ。イーストロンドン大学大学院修了。2008〜’18年隈研吾建築都市設計事務所を経て、武田清明建築設計事務所設立。2022年住宅建築賞、日本建築学会作品選集新人賞など受賞歴多数。

――科学誌『ネイチャー』によると、2020年に地球上の人工物の質量が、生物の質量を超えたという。「建築家として考えさせられるものがありました。自然と人工物とのバランスをこれ以上、壊さないために何かできることはないだろうかと考えた」と武田清明さん。そこで設計したのが、土をいだき、水が循環し、植物が呼吸する家。緑豊かな石神井公園に臨む鶴岡邸を榮倉さんと訪ねた。

榮倉 とても印象的な建物ですね。童話に出てくるおうちのように全体が植物で覆われていて、窓からは公園の池で泳ぐ水鳥が見えて。自然に溶け込むような空間で、とても落ち着きます。今1階は、武田さんがオフィス兼セカンドハウスとして使っているということですが、カフェと間違えそうな素敵な雰囲気ですね。

武田 実際に間違えて入ってこられたご婦人たちがいました(笑)。事務所のイベント中だったんですが、丸窓のところに座ってコーヒーを注文して、「砂糖、ちょうだい」というから砂糖もお出しして。 

榮倉 武田さん、お優しいです!(笑)  そもそもどうしてこのような家を建てようと思われたんですか?

武田 もとは施主の鶴岡さんの要望から始まっているんです。最初にいただいた建物のイメージイラストが「キノコハウス」というもので(笑)、ドームのような空間に住みたいという内容だったんですね。それともうひとつが屋上に木を植えたいということでした。単に芝生を植えるだけなら土の深さは20cm程度で済みますが、中木程度の樹木を植えるには60cmくらいの深さが必要です。それで、このふたつのリクエストにこたえるにはどうしたらいいか考えた結果、たどり着いたのが半円状のヴォールト天井でした。

榮倉 鶴岡邸のシンボルでもあるアーチ型の天井ですね。

武田 はい。この天井にすることで、鶴岡さんが求めるドームのような包まれた空間が演出できるし、また、土の浅い部分と深い部分を作ることができるので、中木程度なら植えられるんですね。

榮倉 つまりこのアーチ型の天井の中に土が入っているということですね。

武田 はい。1階と2階の天井と柱に土が入っています。建物自体が植木鉢になっているんですね。(上のイラスト参照)

榮倉 さらにそこに雨水を通して循環させていると聞いて驚きました。その発想はどこから生まれたんでしょうか。

武田 そもそも石神井公園の池は地下水で循環しているらしいんです。通常、建築物は、そういう自然の循環を止めてしまうものなんですが、鶴岡邸では、屋上で降った雨が、もう一回地面に戻って、最後には池に返っていくという水の循環を作りたいなと思ったんですね。

雨水と土、育った植物の荷重を考えて構造計算されている

榮倉 素晴らしい考えですね。ほかにもこういった循環型の家ってあるんですか?

武田 ないと思います。

榮倉 すごい、世界初! でも、前例がないぶん、ご苦労も多かったのでは?

武田 そうですね。普通、家は雨を外に追い出す形に造りますけれど、ここでは、逆に家にため込む形になるので、その雨水の荷重、土の荷重、そして植物が大きくなったときの荷重を考えて、構造計算しないといけなくて、大変でした。

榮倉 かなりの重さに耐えられるように設計されているんですね。

武田 でも、住んでわかったことですが、建物が土にくるまれて洞窟のような空間になっているので、冬でも暖かいんです。もともと土を入れたのは植物のためですが、結果的に人間の暮らしにも土はすごく役立っているんです。

榮倉 なるほど。自然の力を最大限に生かす建物になっているんですね。

武田 それは庭木も同じで、植木は夏に茂り、冬に葉が落ちます。だから夏は太陽を遮ってくれて、冬は光がたくさん入ってくる。一方、人間が作ったルーバー(日よけ)は、人が日差しに合わせて角度を変えなければならない。人間の作ったものより、自然のほうが合理的だったりするんです。人間の力に頼りすぎるのではなくて、もっと自然の力を信じた家造りをしていいんじゃないかと思います。

榮倉 人間中心ではなくて、視点を変えるといろんなことが見えてきて、面白いです。そういえば、さっきお庭を拝見していて感じたのですが、灯籠の横にバナナの木があったりして、日本ではないみたいだなって。もしかしてこれも武田さんの意図がありますか?

武田 はい。ここは公園から鳥が植物の種を運んできて、根づくものもあるんです。だからこちらが「和風庭園」と決めて作ると、外から入ってくるものが邪魔者になってしまう。最初から「ごちゃ混ぜ」にしておくことで、自然に公園と混じり合っていけばいいなと思っています。

榮倉 まさに多様性ということですね。外から入ってくるものを受け入れる寛容さが今の時代、失われつつありますけれど、この家には、そういう垣根がないところに共感します。私もいつかこんな家でのびのびした暮らしを送りたいです。

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