榮倉さんとともに地球の未来を考える本連載。今回訪れたのは、自然と共存する家・鶴岡邸。その斬新なデザインに隠された革新的な仕組みとは?
雨水と土、育った植物の荷重を考えて構造計算されている
榮倉 素晴らしい考えですね。ほかにもこういった循環型の家ってあるんですか?
武田 ないと思います。
榮倉 すごい、世界初! でも、前例がないぶん、ご苦労も多かったのでは?
武田 そうですね。普通、家は雨を外に追い出す形に造りますけれど、ここでは、逆に家にため込む形になるので、その雨水の荷重、土の荷重、そして植物が大きくなったときの荷重を考えて、構造計算しないといけなくて、大変でした。
榮倉 かなりの重さに耐えられるように設計されているんですね。
武田 でも、住んでわかったことですが、建物が土にくるまれて洞窟のような空間になっているので、冬でも暖かいんです。もともと土を入れたのは植物のためですが、結果的に人間の暮らしにも土はすごく役立っているんです。
榮倉 なるほど。自然の力を最大限に生かす建物になっているんですね。
武田 それは庭木も同じで、植木は夏に茂り、冬に葉が落ちます。だから夏は太陽を遮ってくれて、冬は光がたくさん入ってくる。一方、人間が作ったルーバー(日よけ)は、人が日差しに合わせて角度を変えなければならない。人間の作ったものより、自然のほうが合理的だったりするんです。人間の力に頼りすぎるのではなくて、もっと自然の力を信じた家造りをしていいんじゃないかと思います。
榮倉 人間中心ではなくて、視点を変えるといろんなことが見えてきて、面白いです。そういえば、さっきお庭を拝見していて感じたのですが、灯籠の横にバナナの木があったりして、日本ではないみたいだなって。もしかしてこれも武田さんの意図がありますか?
武田 はい。ここは公園から鳥が植物の種を運んできて、根づくものもあるんです。だからこちらが「和風庭園」と決めて作ると、外から入ってくるものが邪魔者になってしまう。最初から「ごちゃ混ぜ」にしておくことで、自然に公園と混じり合っていけばいいなと思っています。
榮倉 まさに多様性ということですね。外から入ってくるものを受け入れる寛容さが今の時代、失われつつありますけれど、この家には、そういう垣根がないところに共感します。私もいつかこんな家でのびのびした暮らしを送りたいです。