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日本の食を安心で、持続可能なものにするには? そのヒントを求めて榮倉さんと千葉の農園に向かった
―― 丹精込めて育てた野菜、こだわりの肉や魚などを生産者から消費者へ届けるオンライン直売所「食べチョク」。代表の秋元里奈さんは、2017年に弱冠26歳で、このシステムを立ち上げた。農産物などの流通を根底から変えるこの仕組みは、食の安全や食品ロスに配慮する人々の意識の高まりを受けて利用者を増やし、急成長している。
榮倉 榮倉 今日はお会いできてうれしいです。じつはこの2年くらい食の問題について、いろいろ考えることがあって、同世代の秋元さんにぜひお話を伺いたいと思っていました。
秋元 ありがとうございます。
榮倉 そもそも秋元さんが食べチョクを始めようと思ったきっかけは何だったんですか?
秋元 私の実家が農家で、少量多品種の野菜を作っていたんですけど、採算が合わなくて、私が中学生のときに廃業してしまったんです。その理由を考えたとき、やはり農家が自分で農産物の価格を決められないという今の流通の仕組みが課題になっているなと感じたんですね。
榮倉 通常、農作物はいったん中央卸売市場に運ばれて、そこで競りにかけられて値段が決まるんですよね。
秋元 そうです。だから農家の方が手間暇かけて作ったから高い値段をつけたいと思ってもできない。それで赤字になってしまうこともあります。別の流通ルートをつくることで、生産者の方が自分で価格を決めて販売できるようにしたいと考えたのが、食べチョクの発想の原点でした。
榮倉 確かにせっかくおいしい野菜を作っても、価格に反映されないのは、生産者にとって残念ですよね。たとえば今日、案内していただいた食べチョクの生産者「ベジLIFE!!」さん。先ほど畑で採れたての野菜を味見させていただきましたが、どの野菜もみずみずしく甘みがあり、すごくおいしかったです。無農薬というのも安心ですし、多少割高でも、ここの野菜を食べたい方はたくさんいらっしゃると思いました。
秋元 そうなんですよね。でも、農家の中には口下手で、そのよさをうまくアピールできず、自分で販路を拡大するのが難しい方々もいる。だからとにかく生産者の方の魅力を伝えていくことでファンをつくり、その人たちと気軽にコミュニケーションできるサイトがあったらいいなと感じてスタートしました。
榮倉 秋元さんが以前、インタビューで生産者の方々のことを「クリエイターとして見ている」と言っていて、そういう視点がすごく素敵だなと思いました。スーパーに野菜が並ぶことにも日頃から感謝していますが、生産者をリスペクトする気持ちをもって消費者に届けるというところが大事だと思いました。
コロナ禍以降、登録生産者が2年で10倍以上に増加
榮倉 食べチョクは、最初、秋元さんひとりで始められたと聞いています。すごいバイタリティですね。
秋元 ひとりでマルシェなどに行って、この農産物のコンセプトは素敵だなと思ったら、「畑を見せてください」と一軒一軒訪ねて、協力をお願いして。当初は誰も期待していなかったので、皆さん、「頑張ってるから助けてあげるか」くらいの反応でしたね(笑)。実際、その頃は注文もあまりなくて、「あと1週間で資金が尽きてしまう!」といったこともありました。
榮倉 それはひやりとしますね。それが上向きになったのは、何がきっかけだったんですか。
秋元 コロナ禍ですね。食べチョクを利用する消費者も増えたし、登録生産者も一気に増えました。コロナ前は、約700軒だったのが、今は8100軒を超えています。
榮倉 10倍以上! すごい。コロナ禍で、買い物に行くのもままならない時期がありましたし、外食できないぶん、家のごはんを充実させようという人が増えたんでしょうね。
秋元 また、生産者さんにも大きな意識の変化がありました。これまでは、顧客が誰かもわからず出荷していたけれど、コロナ禍で外食産業がストップしたとき、消費者に直接販売できる販路があることの重要性に皆さん、気づいたんですね。
榮倉 なるほど。
秋元 それで多くの生産者が消費者との接点を持ち始めたところ、今まで当たり前にやってきた環境への取り組みが、すごいセールスポイントになると気づいたり、これまでは基準のサイズに合わずに破棄していた野菜を食べチョクで販売すれば、食品ロス削減に役立てるということがわかったわけです。
榮倉 SDGs時代の消費者の意識の変化を受けて、生産者のマインドも大きく変わったわけですね。
秋元 そうですね。今の消費者は、「どう作られたものなのか」というところに関心を持つ人が増えていますよね。特に若い人たちは、「ものがいい」というだけでなく、生産者の理念に共感できるかというところを重視する傾向が強くなっていて、それが社会を変えつつあります。
榮倉 本当にそうですね。これからの夢を伺ってもいいですか?
秋元 日本の農家の方の平均年齢が68歳と高齢化しているんですね。高齢の生産者の方にもちゃんと使ってもらえるサービスにしていきたいし、次の世代につなげるように代替わりの支援をして、農業の持続可能性を高めていけたらと思っています。
1991年神奈川県生まれ。慶應義塾大学理工学部を卒業後、DeNAに入社。2016年、株式会社ビビッドガーデンを設立。2017年、こだわり生産者によるオンライン直売所「食べチョク」をリリース。
1988年、鹿児島県生まれ。2004年に俳優デビュー。映画『余命1ヶ月の花嫁』をはじめ、話題のドラマや映画などで活躍。昨年から世界同時配信されている、Amazon Originalドラマ「モダンラブ・東京」第2話に出演。