ときめきやキュンに続くヒーローへの新たな感情表現
〝少女漫画でのヒーローの役割〟を聞くと、河原さんは「主人公にとっての好きな人であり、物語を一緒に生きてくれる存在」と答えた。
「少女漫画で描かれる物語とは、主人公の人生です。そこに影響を与える人物としてのヒーローの役割はとても大きいと私は思います。主人公がヒーローに抱く感情は〝ときめき〟や〝キュン〟などいろいろありますが、今の主流は〝メロい〟。ヒーローが持つメロさは、今の少女漫画の恋愛において必要不可欠になっていると感じます」
2001〜’06 年連載の『ラブ★コン』(中原アヤ著)では〝キュンとしすぎて死にそう〟という意味の言葉〝キュン死〟が登場し、一般的に使われるようになったことも。〝キュン〟と〝メロ〟には、違いはあるのだろうか。
「中原先生の〝キュン死〟もそうですし、キュンは自分に対して相手がしたしぐさに思う感情。対して〝メロい〟は自分は関係なく、相手の内面から出ている雰囲気を〝メロい〟と捉えるのかもと思っています。ニュアンス的表現で、漫画としてメロさを描写するのはものすごく難しい。一時期、メロさを追求しすぎてAIに聞いたことも(笑)。私の中で腑に落ちたのは、芸人のニューヨークさんのYouTubeチャンネルで配信された、メロい芸人ランキングの動画を見たとき。メロいを〝余裕がある〟や〝包容力がある〟と分析されていたり、投票した人のコメントから大変勉強させていただきました」
時代が求めるヒーロー像も自分の好きもどちらも大切
メロさを分析する一方で、求められる理想像だけでは成立しない。
「自分が好きで、描きたいと思う要素の中で、時代ごとに合うキャラクターを選んでいるつもりです。やっぱり自分が好きじゃないものを描くのは難しい。私は自分がいいと思うものがどこかにないと描けないタイプ。ただ、読者として『別冊マーガレット』を読んでいたときに、いくえみ綾先生や多田かおる先生など大好きな作家の作品はどれもすごく〝今っぽかった〟と思いますし、そこが別マに惹かれた部分。だからこそ、時代ごとに求められている要素を理解して、取り入れられるところには入れたいと思っています」
自身の感性と流行、その両方と真摯に向き合う河原さん。連載中の『太陽よりも眩しい星』のヒーロー・神城はどのようにして生まれたのか。
「連載を立ち上げる際、当時の担当編集さんから〝恋の相手はハードル高め男子にしてほしい〟とリクエストがありました。要するに、わかりやすいハードルのある相手との恋は、少女漫画の醍醐味という話でした。誰もが認めるハイスペック男子を相手に〝どうやったらつき合えるの!?〟とハラハラ見守る物語は私も大好きですし、その感覚を得られる意味での〝ハードル高め男子〟だと理解しました。ただ過去の名作で描かれてきたハードル高め男子たちはどれも最高峰で、私に同じことは到底できません。リクエストを意識しつつ、自分が描けて読者の方に共感もしてもらえる〝主人公とハードルの高め男子〟の関係性は何かを考えていきました。その結果、小学生時代に仲がよかった人が成長して中学や高校に上がると〝自分以外の不特定多数から見ても素敵な人だった〟と気づくのは誰もが想像しやすいし〝ハードルの高さ〟もあるなと思って。その心情の変化なら私も描いていけるかもと思ったところが始まりでした」
小学生からの幼なじみならではの身近さと、注目を集める存在というハードルの高さを持っている神城。彼が今の読者に支持されている要素として、河原さんは「等身大なところ」と答える。
「もしも彼を1990年代に描いていたら、等身大じゃないほうがいいと思います。言葉遣いや態度にその人らしさが際立つほうがいいというか。でも神城のナチュラルな態度や口調、英語の発音が苦手なところ……そういう決して特別ではない等身大な要素を出すことで、読者の方にも好感を持っていただけている感覚はあります」
ハイスペックであることがヒーローの条件ではないという証拠にも思える。
「ヒーローに求める条件の重要度が変わったのだと思います。今大事なのは〝主人公とちゃんと話し合えること〟だと感じています。主人公であるヒロインと真摯に向き合ってくれて、お互いを大切に思い合える人間性が重要なのではないでしょうか。だから神城についても、等身大な部分をいいと思っていただけている気がします」
時代とともに変わりゆく少女漫画のヒーロー像がある中で、河原さんが〝変わらず大事にしていること〟とは。
「恋愛を描いた漫画は、読者にとって都合のいい物語だと指摘されることもあります。もしかしたら読者さんの中には、かつて夢中で読んでいた恋愛漫画の影響で〝あんな人いなかった〟と現実を見てがっかりされた経験がある方もいるのかもしれません。それは避けたいですし、〝私の漫画を卒業した人たちが、とっても幸せであってほしい〟という想いが常にあります。だからこそ、ヒーローに限らず登場人物にちょっとリアルな要素を入れていくのは、漫画を描く上でこれからもずっと大事にしていきたいことです」