少女漫画のヒーローに今、求められるものは? 編集者・作家に聞く

作り手が大事にしていること

作家の想いにも読者の感想にも一番近い場所にいる、少女漫画や恋愛漫画を手がける編集者にインタビュー。ヒーロー作りの本音は?

作り手が大事にしていること

作家の想いにも読者の感想にも一番近い場所にいる、少女漫画や恋愛漫画を手がける編集者にインタビュー。ヒーロー作りの本音は?

INDEX

別冊マーガレット

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北里鮎著 集英社 マーガレットコミックス/既刊1巻

『ストロベリィ・ケイク』

高校では自分の好きな派手なファッションやメイクにしたなつめ。けれどクラスでは浮いた存在に!? そんな彼女をクラスメイトの雅久だけは"いい"と言ってくれて……。

別冊マーガレット

1964年に創刊された少女漫画雑誌。等身大かつ繊細な学生たちの人間模様を描いた作品が多い。メディアミックスされた作品も多数で、現在連載中の作品としては『お姉ちゃんの翠くん』の実写映画が12月4日(金)に公開。

編集長 池田真理子さん

少女漫画好きな方々には、『別冊マーガレット』に登場する男の子を"別マ男子"と呼んで親しんでもらっています。別マ男子に明確な定義はありませんが"爽やかで好青年"というイメージがあるのかな、と。ただ、"主人公に影響を受け、しっかり悩み一緒に成長していく"という完璧なだけじゃない人間性も、彼らの魅力につながっていると個人的には思っています。

連載中の『ストロベリィ・ケイク』に登場する雅久は、主人公のなつめに対して、「かわいいね」や「前髪ないのも似合う」と素直に言葉にしてコミュニケーションを取るんです。これは"今っぽいな"と思う要素。一方で、"背中で語る"ようなキャラクターは減ったことにも気づきます。1990年代は、何を考えているかわからないような人に主人公が振り回されたり、たまに見せる優しさをかみしめていたことを思うと、令和は素直になったのだなと実感します。

実は私自身の感覚でいうと、少女漫画のヒーローと聞くと物語の主人公、つまりヒロインのほうを思い浮かべます。どんな物語の設定でも主人公が日常生活の中で自分自身と葛藤しながら成長し、人間関係も変化していくところが少女漫画のよさだと思っていて。主人公が物語の圧倒的な軸にいるので、主人公こそがヒロインであり、ヒーロー。だから主人公が変化する相手役としてふさわしいかに興味があります。主人公を通して"いいやつじゃん"と思ったり、作家さんから「こういう一面があるんだよ」と聞いてよさを知り好きになることがほとんど。これからも作家さん自身がそのキャラクターの魅力を語りたいと思えるような男子が生まれていってほしいです。それが読者にとって、大切な別マ男子になっていくと思っています。

スピカワークス

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やまもり三香著 講談社 KC デザート/既刊11巻

『うるわしの宵の月』

女子でありながら容姿端麗な見た目とスマートな行動で"王子"と呼ばれる宵。そんな宵に、同じく学校で"王子"と呼ばれているひとつ上の先輩・琥珀は興味を示す。

スピカワークス

漫画家をはじめとする女性クリエイターのマネジメント会社。実写映画が10月23日(金)に公開される『うるわしの宵の月』のやまもり三香、アニメ化が決定している『恋せよまやかし天使ども』の卯月ココらが所属。

代表取締役 鈴木重毅さん

ヒーローはヒロインにとって理想であり、憧れ。寄り添い、癒やしになることもあれば、時にはその存在が試練となり"成長したい"と思わせてもくれる。いろいろな関わり方があるけれど、どんなかたちであっても、ヒロインにとっては心の支えであり、読者にとっては"こういう人がいてくれたらな"と思える存在です。

読者の方の反応や感想から得られる発見はたくさんあります。最近だと、所属作家のやまもり三香さんの『うるわしの宵の月』や卯月ココさんの『恋せよまやかし天使ども』は、どちらもヒーローよりもヒロインのほうが人気ということ(笑)。グッズを出すとヒロインのほうから売り切れることが多くて。きっと彼女たちに共感したり憧れたりしてくれているのだと思うので、それはうれしいことです。

最近はヒロインとヒーローの関係性を重視する"カップル推し"も増えました。特に"両片想い"は最近増えている。登場人物はあくまで真剣に片想いをしていて、読み手にだけふたりが両想いだとわかっている状態。これはSNSでショート漫画がバズるようになって人気がさらに高まったと感じています。短い中でわかりやすく関係性を示せるのと、主人公に感情移入するのではなく、少し距離を置いて応援するような読み方が増えているのかと思います。

作家さんとキャラクター作りをする上で気をつけているのは、聖人君子にはしないこと。少女漫画のヒーローには"かっこよくあってほしい"という願望はあります。でも、実生活で"かっこいいだけ"という人はいない。相手を知ることで、見た目だけじゃわからない一面がいろいろ出てくるし、そうやって相手を知っていく過程を丁寧に描いているのが、少女漫画のよさではないでしょうか。

めちゃコミック

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遠山えま著 大誠社 めちゃコミックオリジナル/既刊3巻

『岩肌の花嫁は愛で溶かされる』

神の力を宿して生まれたはずの岩子だが、その体は岩で覆われていた。両親からも忌み嫌われる岩子は、神に呪われた男・白蘭と結婚することに。彼は岩子を受け入れてくれて……。

めちゃコミック

国内最大級の電子コミックストアであるめちゃコミック編集部の『comic fizzy』が制作するオリジナルレーベル。30〜40代に向けた恋愛作品を中心に取り扱う。10〜20代に向けた姉妹レーベル『comic fizzy+neo』が11月創刊予定。

comic fizzy編集長 芥川瑠衣さん

メインターゲットが30〜40代のレーベルなので、配信作は主人公もヒーローも大人です。読者インタビューやペルソナ分析から見えてきたのは、読者が魅力を感じているのは"自己肯定感を上げてもらえる恋愛漫画"。家庭のことに追われている方も多く、一日の中のわずかな空き時間に読まれることもあるため、"この人との恋愛なら安心!"と思えるようなヒーローが好まれています。

ニーズに応える作品を届ける上で、ヒーローの存在はとても大きいと感じています。自分の価値観や日々頑張っていることを認めてほしい……という気持ちに応えるには、ある程度の地位のある王子様のようなキャラクターが好まれる傾向にあります。読者は1990年代に少女漫画に親しんできた世代。何でもできて、よく周りを見ていて人気もあるハイスペックなヒーロー像に夢中になってきた方も多いからではないかと思っています。

ただ、読者層の広がりもあり、ヒロインとヒーローの関係性に求められるものが少しずつ変化しているとも感じています。現在、好評をいただいているオリジナル作品『岩肌の花嫁は愛で溶かされる』の岩子は、体が岩で覆われ周囲からは蔑まれているヒロイン。けれど、ヒーローの白蘭だけは彼女を偏見なく受け入れます。まさに自己肯定感を上げてくれるヒーローですが、彼自身も呪いをかけられた体のキャラクターです。ヒーローに認められ、ともに過ごす中で自己肯定感が高まることでヒロインが成長し、次第にヒーローと同じ視点で歩んでいける関係性になっていく。ヒーローにただ認めてもらうだけではなく、ともに成長していく関係性が、読者層を広げてくれているのだと、反響の大きさから実感しています。

河原和音の頭の中

1991年に『別冊マーガレット』で漫画家デビューして以来、同誌で高校生の恋心をみずみずしく描き続ける河原さんに、ヒーローへの想いを聞いた

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ときめきやキュンに続くヒーローへの新たな感情表現

〝少女漫画でのヒーローの役割〟を聞くと、河原さんは「主人公にとっての好きな人であり、物語を一緒に生きてくれる存在」と答えた。

「少女漫画で描かれる物語とは、主人公の人生です。そこに影響を与える人物としてのヒーローの役割はとても大きいと私は思います。主人公がヒーローに抱く感情は〝ときめき〟や〝キュン〟などいろいろありますが、今の主流は〝メロい〟。ヒーローが持つメロさは、今の少女漫画の恋愛において必要不可欠になっていると感じます」

2001〜’06 年連載の『ラブ★コン』(中原アヤ著)では〝キュンとしすぎて死にそう〟という意味の言葉〝キュン死〟が登場し、一般的に使われるようになったことも。〝キュン〟と〝メロ〟には、違いはあるのだろうか。

「中原先生の〝キュン死〟もそうですし、キュンは自分に対して相手がしたしぐさに思う感情。対して〝メロい〟は自分は関係なく、相手の内面から出ている雰囲気を〝メロい〟と捉えるのかもと思っています。ニュアンス的表現で、漫画としてメロさを描写するのはものすごく難しい。一時期、メロさを追求しすぎてAIに聞いたことも(笑)。私の中で腑に落ちたのは、芸人のニューヨークさんのYouTubeチャンネルで配信された、メロい芸人ランキングの動画を見たとき。メロいを〝余裕がある〟や〝包容力がある〟と分析されていたり、投票した人のコメントから大変勉強させていただきました」

時代が求めるヒーロー像も自分の好きもどちらも大切

メロさを分析する一方で、求められる理想像だけでは成立しない。
「自分が好きで、描きたいと思う要素の中で、時代ごとに合うキャラクターを選んでいるつもりです。やっぱり自分が好きじゃないものを描くのは難しい。私は自分がいいと思うものがどこかにないと描けないタイプ。ただ、読者として『別冊マーガレット』を読んでいたときに、いくえみ綾先生や多田かおる先生など大好きな作家の作品はどれもすごく〝今っぽかった〟と思いますし、そこが別マに惹かれた部分。だからこそ、時代ごとに求められている要素を理解して、取り入れられるところには入れたいと思っています」

自身の感性と流行、その両方と真摯に向き合う河原さん。連載中の『太陽よりも眩しい星』のヒーロー・神城はどのようにして生まれたのか。

「連載を立ち上げる際、当時の担当編集さんから〝恋の相手はハードル高め男子にしてほしい〟とリクエストがありました。要するに、わかりやすいハードルのある相手との恋は、少女漫画の醍醐味という話でした。誰もが認めるハイスペック男子を相手に〝どうやったらつき合えるの!?〟とハラハラ見守る物語は私も大好きですし、その感覚を得られる意味での〝ハードル高め男子〟だと理解しました。ただ過去の名作で描かれてきたハードル高め男子たちはどれも最高峰で、私に同じことは到底できません。リクエストを意識しつつ、自分が描けて読者の方に共感もしてもらえる〝主人公とハードルの高め男子〟の関係性は何かを考えていきました。その結果、小学生時代に仲がよかった人が成長して中学や高校に上がると〝自分以外の不特定多数から見ても素敵な人だった〟と気づくのは誰もが想像しやすいし〝ハードルの高さ〟もあるなと思って。その心情の変化なら私も描いていけるかもと思ったところが始まりでした」

小学生からの幼なじみならではの身近さと、注目を集める存在というハードルの高さを持っている神城。彼が今の読者に支持されている要素として、河原さんは「等身大なところ」と答える。

「もしも彼を1990年代に描いていたら、等身大じゃないほうがいいと思います。言葉遣いや態度にその人らしさが際立つほうがいいというか。でも神城のナチュラルな態度や口調、英語の発音が苦手なところ……そういう決して特別ではない等身大な要素を出すことで、読者の方にも好感を持っていただけている感覚はあります」

ハイスペックであることがヒーローの条件ではないという証拠にも思える。
「ヒーローに求める条件の重要度が変わったのだと思います。今大事なのは〝主人公とちゃんと話し合えること〟だと感じています。主人公であるヒロインと真摯に向き合ってくれて、お互いを大切に思い合える人間性が重要なのではないでしょうか。だから神城についても、等身大な部分をいいと思っていただけている気がします」

時代とともに変わりゆく少女漫画のヒーロー像がある中で、河原さんが〝変わらず大事にしていること〟とは。
「恋愛を描いた漫画は、読者にとって都合のいい物語だと指摘されることもあります。もしかしたら読者さんの中には、かつて夢中で読んでいた恋愛漫画の影響で〝あんな人いなかった〟と現実を見てがっかりされた経験がある方もいるのかもしれません。それは避けたいですし、〝私の漫画を卒業した人たちが、とっても幸せであってほしい〟という想いが常にあります。だからこそ、ヒーローに限らず登場人物にちょっとリアルな要素を入れていくのは、漫画を描く上でこれからもずっと大事にしていきたいことです」

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河原和音著 集英社 マーガレットコミックス/既刊14巻(最新15巻は9月25日発売)

『太陽よりも眩しい星』

平均よりも身長高めで、ちょっぴり頑丈な主人公・朔英の初恋は、小学生からの同級生・神城。けれど、気づけば彼は"誰が見てもかっこいい人"に。中学卒業間近、体育祭をきっかけにまた動き出す朔英の神城への恋心が描かれている。

河原和音さんプロフィール画像
漫画家河原和音さん

1991年に漫画家デビュー。連載作の『先生!』『高校デビュー』『青空エール』は映像化もされるなど大ヒット。『俺物語!!』(作画:アルコ)では原作も手がけた。2021年より連載中の『太陽よりも眩しい星』は2025年にTVアニメ化され、第2期放送も決定している。

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