レジェンド、澤穂希が語る「私とサッカー」

15歳からサッカー女子日本代表として活躍した澤穂希さんに自身の貴重な経験談とともに、サッカーの魅力について聞いてみた

限界まで頑張る姿は観ている人に伝わる

澤穂希さん
©︎中山達也

なぜサッカーはこんなにも人を夢中にさせるのか。たとえば日本の場合、体格が欧米より小さく、体同士がぶつかり合うとボールを奪われてしまうこともしばしば。しかしそれを、練習を重ねて得た瞬発力や信じ合える仲間同士の連携、鍛え抜かれた組織力で跳ね返す。大きなものに立ち向かい、最後まで諦めず頑張る姿に、観る人々は胸打たれ、自然と背中を押す。勝てば喜び、負けても力いっぱい戦った選手の姿を見て清々しささえ覚える。

そういうシナリオのない物語が人の感動を呼ぶ。数多くのサッカーの物語で強烈な印象を残したのが、2011年女子W杯で優勝したなでしこジャパンだ。優勝メンバーであり、長きにわたりサッカー界を牽引してきたレジェンド、澤穂希さんに、女子サッカーの魅力、今夏に開幕するワールドカップへの思いを語ってもらった。

カタールワールドカップ、すごく盛り上がりましたね! ほかのスポーツにももちろん魅力を感じますが、ここまでの熱狂はサッカーにしかないと、改めて注目度の高さを感じました。

アルゼンチン対フランスの決勝戦は、結果的にはすごく接戦になりました。ハラハラドキドキ、観ているほうが疲れてしまうくらい面白い試合展開。なでしこジャパンが出場した2011年の女子W杯決勝戦も、延長戦終了間際に劇的なゴールが決まって、PK戦で勝利。優勝を飾りました。流れが似ていることもあり、懐かしく振り返りました。

日本代表では、スペイン戦で見事なアシストを記録した〝三笘の1ミリ〟が話題になりましたね。ボールがゴールラインを割りそうでも、諦めずに精一杯脚を伸ばす姿に、皆さん心を打たれましたよね。これって実は、女子サッカーの魅力でもあるんです。パススピードやボールの飛距離では、体格の勝る男子に敵いません。お給料も男子より低いけれど、「サッカーが好き」という純粋な気持ちで頑張っていることが感じられて、男子とはまた違った情熱が魅力ではないでしょうか。

2011年女子W杯において、決勝戦延長後半。終了間際に澤さんが同点ゴールを決めた劇的瞬間!
2011年女子W杯において、決勝戦延長後半。終了間際に澤さんが同点ゴールを決めた劇的瞬間!

諦めない気持ちや忍耐力は、私がサッカー人生を通して学んだことでもあります。W杯で優勝した頃のなでしこジャパンには、そういったマインドや最後まで戦い抜く姿勢を強く感じていました。そして、それを支えてくれたのは、苦楽をともにした大切な仲間たち。試合で苦しい時間帯、もう無理だと下を向きそうになったとき、仲間の掛け声に引っ張ってもらいました。怪我をしてサッカーができないときも、リハビリを手伝ってくれたチームメイトがいました。

昨年の女子EURO(ユーロ、欧州選手権)2022決勝では、過去の男子EUROを含めて、大会史上最多の8万7000人を超える観客が集まりました。思い返せば、直近2019年の女子W杯でベスト8に残ったのはすべて欧米のチームでした。女子サッカーのレベルの高さに比例して、欧州では国民の注目度も高いと感じます。

私は現役時代アメリカのチームにも在籍していましたが、クラブの市民に対する〝アピール〟がすごかったことを覚えています。試合後のスタジアムで選手と観客が一緒にごはんを食べたり、ショッピングモールでサイン会をしたり、地域のイベントに参加したり。子どもたちが「こういう選手になりたい」と憧れるきっかけが、身近なところにたくさん。そして女子アメリカ代表は強く、とても人気がありました。

今年7月には女子W杯が開幕します。優勝から12年がたち、海外のチームでプレーする選手も増えました。ただ、それだけでは勝てません。活動できる期間が短いからこそ、一つひとつの練習を突き詰めてやる必要があります。
男子日本代表には「感動をありがとう」と思いましたし、みんなの心に響く試合を何度も観せてもらいました。結果的にはベスト16で終わりましたが、選手の思いは画面越しにも感じたし、頑張る姿勢は観る人に伝わるものです。なでしこジャパンも今よりももっとできるはず。やっぱり強い日本代表が見たいですよね。そうでないと国民も注目してくれませんし、子どもたちの憧れにもなれません。結果は非常に重要です。人の心を動かすW杯になるよう願っています。

 

澤穂希 HOMARE SAWAプロフィール画像
澤穂希 HOMARE SAWA

1978年、東京都生まれ。15歳で日本代表に初招集。2011年女子W杯ドイツ大会では、キャプテンとしてチームの初優勝に貢献し、大会MVPと得点王を獲得。同年度のバロンドール授賞式にて、FIFA女子年間最優秀選手賞に輝く。4度目の五輪出場となった2012年ロンドン大会で、銀メダル。2015年に結婚、同年12月に現役を引退。現在は一児の母。

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