「お夜つ」の時間 ── いにしえの祭に思いを馳せる #深夜のこっそり話 #1056

食事はオープンな場所で誰かと一緒にするのが楽しいけれど、甘いものは閉鎖的な空間でひとりこっそりと味わいたい。理由は単純で、食べ始めから最後のひと口まで誰にもじゃまされたくないから。子どもが寝静まったあと、隠しておいた「お夜つ」を取り出し、熱々のコーヒーかお茶とともに思いっきり頬張る。一日のいろんなことから解放されたその瞬間だけは、翼が生えたような気がするんです。背徳感なんて、どこへやら。 

今晩のとっておきのお夜つは、京都の和菓子店、宝泉堂から。京都で買える美味しい小豆菓子といえば、真っ先に思い浮かぶのがここ。店名に「あずき処」とつくほどですから。

なかでも手土産におすすめなのが「賀茂葵」。京都三大祭りのひとつ、下鴨・上賀茂神社の葵祭にちなんで作られたものです。わずかに光沢を帯びた和紙袋に、素朴ながらも目を引く葵の紋。これだけでもずっしりと趣があります。中身にたどりつく前に舌が勝手に妄想を始めて、何も口にしていないのにすでに美味しい。

袋を開けると、丹波大納言小豆がぎっしり詰まった琥珀菓子がそっと顔を覗かせます。葵の葉をイメージした形は、思いがけずハート型に見えて愛らしい。ひと口目はシャリッとした涼しげな歯ごたえが、その先にはむっちりとなめらかな甘みが広がります。時折、豆の形がつぶれずに残っていて、その艶めく姿は長い時間をかけて育まれてきた原石のよう。噛むたびに、小豆のコクがぐいぐいとせまってきます。

原材料は丹波大納言小豆と砂糖、寒天、水飴。いたってシンプルだけど、どこまでも奥ゆかしい。それは一千有余年の時を経て、今なおいきづく伝統祭の歴史の厚みを感じさせる味わいです。世田谷のごく平凡な家の狭い一室で、王朝絵巻さながらの壮大な行列に思いを馳せる、なんとも雅なひとときでした。

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エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

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