2018.12.30

「お夜つ」の時間 ── 自宅で楽しむ高級料亭の味 #深夜のこっそり話 #1061

何かと慌ただしい年の瀬ですが、せめて夜の小一時間くらいは安らかに過ごしたいものです。ひとりでこっそり楽しむべく、とっておきの「お夜つ」を取り寄せました。京都は紫野和久傳の「くりの葛焼き」。もはや説明不要の高級料亭が手がける、季節限定の逸品です。

届いたダンボール箱の中から、松が描かれた風情あるパッケージがお目見え。誰もいないリビングでよれよれの部屋着姿のまま、思わず居住まいを正します。うやうやしく袋をやぶると、弾力のある茶色い六面体が上品におさまっていました。

葛菓子といえば、透明感のある涼しげな意匠が真っ先に頭に浮かぶのですが、それを見事に裏切る素朴な見た目。裏ごしした栗を葛粉で練り、温かみのある焼き菓子に仕立てられています。同梱の説明書きのとおり、電子レンジで軽く温めて。さぁ、お待ちかねの、いただきます。

ホクホク、ねっとり、トロリ。三つの食感が入り混じり、口の中でマーブル模様を描きます。ひと口ごとに舌ざわりが変化して、つかみどころがない。そこに栗の香ばしさと和三盆の上品な甘みがじんわりと輪郭をあらわし、シンプルな外見からは想像もつかないほど色っぽい味を堪能できます。

熱々の日本茶をすすりながら、もったいぶってチビチビと食べ進めていく。こんなに相性抜群の組み合わせが今まであっただろうか。丹田にじわじわと感じる熱量を閉じ込めるように、ぎゅっと瞼を閉じてみます。その瞬間は、とっちらかったダイニングテーブルも料亭のカウンターに思えるのでした。

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エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

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