2026.06.13

タイ国王の長女パッチャラキッティヤパー王女が47歳で死去。“法と人権のプリンセス”、昏睡3年半の闘病とその功績

タイ王室は、マハー・ワチラロンコン国王(73)の長女で、法律家のパッチャラキッティヤパー王女が、3年半にわたる昏睡状態を経て、死去したと発表した。47歳だった。

英『BBC』によれば、タイ王室は2026年6月12日朝(現地時間)の声明で、パッチャラキッティヤパー王女の「医療チームは可能な限り、最も綿密かつ集中的な治療を行ったが、王女の容体は徐々に悪化した」と説明。前日6月11日19時48分(現地時間)、バンコクのチュラロンコン記念病院で亡くなったと発表した。

国王の戴冠式の後、宮殿のバルコニーで手をふるパッチャラキッティヤパー王女

2019年5月、国王の戴冠式の後、宮殿のバルコニーで手をふるパッチャラキッティヤパー王女 Photo:Getty Images

複数のメディアによると、王女は2022年12月、陸軍の行事に向けて自身の犬をトレーニングしている最中に突然意識を失い、入院。当時、マイコプラズマ感染症によって心臓に炎症が起きたことが原因だと説明されていた。米『NBC』によれば、その後、王女の健康状態に関する情報はほとんど公表されていなかったが、2026年5月、王室より、複数の臓器で起きた複数の感染症のため「不整脈を安定させることができない状態」だと発表されたばかりだった。

パッチャラキッティヤパー王女が入院していたバンコクのチュラロンコン病院に掲げられた王女の肖像

2022年12月、パッチャラキッティヤパー王女が入院したバンコクのチュラロンコン病院に掲げられた王女の肖像 Photo:Getty Images

英紙『The Guardian』によると、「パー王女」の愛称で親しまれた王女の訃報を受け、病院には多くの人々が集まり、肩を寄せ合って彼女の死を悼んだという。王女の写真を手に涙を流していたある女性は同紙の取材に対し、「亡くなったなんて信じられません。タイの人々は王女をとても愛しています」と発言。「本当に悲しい」と続け、王女は「タイの良きものすべて、忠誠心や優しさ」を備えた人だったと振り返ったそうだ。

前国王の逝去後、王室の儀式に参列したバジュラキティヤバー王女

2017年10月、前国王の逝去後、王室の儀式に参列したパッチャラキッティヤパー王女 Photo:Getty Images

同紙によると、タイのアヌティン・チャーンウィラークン首相(59)はテレビ声明で、王女の死去は「王国全土のタイ国民に深い悲しみと哀悼をもたらした」とコメント。王女は「正義、平等、人間の尊厳に基づく社会を築くため、その力と才知を捧げた」と述べ、法学者、外交官、社会活動家として、王女の多岐にわたる手腕は、タイの人々にとって「長く残る模範」となると追悼した。

パッチャラキッティヤパー王女は、ワチラロンコン国王の7人の子どもの長子で、1978年12月7日、当時皇太子だった国王と、最初の妻であり従妹でもあるソームサワリー元妃との間に生まれた。王女はタイの名門タマサート大学で法律を学んだあと、米・ニューヨーク州コーネル大学で法学の修士号と博士号を取得。その後、ニューヨークの国連タイ政府代表部で短期間勤務したという。

そして2006年、タイに帰国。2011年まで、バンコクや国内各地の検事総長庁で検察官として働いた。英通信社『Reuters』によれば、2012年から2014年まで、タイの駐オーストリア大使を務め、スロベニア、スロバキアも兼轄。外交官としてキャリアを積んだあと、刑事司法の問題に専念するため、再び帰国した。2017年には、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の親善大使に任命されている。

ラーマ5世(チュラロンコン大王)を称える王室行事に出席したパッチャラキッティヤパー王女

2020年10月、タイ近代化の礎を築いたラーマ5世(チュラロンコン大王)を称える王室行事に出席したパッチャラキッティヤパー王女 Photo:Getty Images

『NBC』によると、王女は司法改革に積極的に取り組み、とりわけ女性受刑者の権利擁護に尽力した。なかでも、釈放前の女性受刑者の更生を支援する「カムランジャイ(インスパイア)」プロジェクトがよく知られており、このような活動が2010年に国連総会で採択された女性受刑者の処遇に関する国際基準「バンコク・ルール」にもつながったという。

さらに国連女性機関の名誉親善大使として、女性への暴力防止にも取り組んだパッチャラキッティヤパー王女。2021年には、父である国王に将軍の階級を授与され、国王の私的な護衛部隊の参謀長を務めた。

バンコクで開催された自転車イベント『Bike for Dad』に参加したパッチャラキッティヤパー王女

2015年12月、バンコクで開催された自転車イベント『Bike for Dad』に参加したパッチャラキッティヤパー王女 Photo:Getty Images

『BBC』によれば、王女はフィットネスにも熱心で、長距離走の大会にたびたび参加していたそうだ。

複数のメディアによると、今回の逝去により、王位継承問題にも関心が集まっている。『BBC』によれば、国王はまだ後継者を指名していない。タイの慣例では後継者は男性であるべきとされるが、1974年の憲法改正により、女性が王位に就くことも認められている。

国王の戴冠式後、宮殿のバルコニーで手をふるシリワンナワリー王女、ティパンコーン王子、パッチャラキッティヤパー王女、そして国王夫妻

左より、シリワンナワリー王女、ティパンコーン王子、パッチャラキッティヤパー王女、そして国王夫妻 Photo:Getty Images

『Reuters』によると、パッチャラキッティヤパー王女は国王の子どものうち、ファッションデザイナーのシリワンナワリー王女(39)とティパンコーン王子(21)とともに、正式な王族称号を持ち、憲法上王位に就く資格がある3人のうちの一人だった。米紙『New York Times』をはじめ、多くの海外メディアが、王女は将来的な王位継承をめぐって重要な存在だと見られていたと伝えている。

ブータン国王夫妻はインスタグラムに追悼のメッセージを投稿

タイの主要英字紙『Bangkok Post』は、国王が王室の伝統に従い、最高位の礼をもって弔礼を執り行うよう命じたと報道。王女の棺は王宮内のピマン・ラッタヤ玉座殿に安置され、6月13日午前(現地時間)、王女の肖像を前に、故人に水を捧げる王室儀礼に一般の人々の参加も認められたとのこと。6月14日(現地時間)以降は毎日、一般の弔問と記帳を受け付けており、最初の15日間にわたる王室の法要を経て、6月27日(現地時間)からは同玉座殿での弔問も始まるという。パッチャラキッティヤパー王女のご冥福を心より祈りたい。