【メリル・ストリープ】「男受け」俳優から女帝へ。『プラダを着た悪魔』を生んだ名優 #プラダを着た悪魔2

ついに帰ってきた、あの「お仕事映画のバイブル」の続編『プラダを着た悪魔2』(2026年5月1日公開予定)。第一作は日本でも長く愛されてきたが、あるキャストなしにはまったく別の内容になっていたであろうことをご存じだろうか。

ついに帰ってきた、あの「お仕事映画のバイブル」の続編『プラダを着た悪魔2』(2026年5月1日公開予定)。第一作は日本でも長く愛されてきたが、あるキャストなしにはまったく別の内容になっていたであろうことをご存じだろうか。

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【メリル・ストリープ】「男受け」俳優からの画像_1

photo:Getty Images

暴露本を原作とする『プラダを着た悪魔』(2006)は、パワハラ上司への復讐コメディとして企画されていた。「見かけばかりの」ファッション業界を笑いものにする向きが強かったという。

しかし、本編さながら、女帝がつるの一声を放った。カリスマ編集長ミランダ・プリーストリー役を依頼されたメリル・ストリープが、出演条件を突きつけたのだ。「きちんとファッション業界の仕事を描くこと」。こうして、世界中の女性を勇気づける名作が誕生する。

「男受け」を演じた高校時代

アカデミー賞を3つ受賞し、ノミネート数は史上最高となる21回──「現代最高の名優」と誉れ高いメリルについて驚かされるのは、役柄と本人のギャップかもしれない。あそこまでファッション界のカリスマを体現しながら、本人はファッションに疎く、美意識が高い人を前にすると緊張さえするという。

1949年、ニュージャージー州の小さな町に生まれたメリル・ストリープは「おばさんみたい」と揶揄される、大きなメガネをかけた縮れ毛のやぼったく賢い少女だったという。

はじめて「渾身の演技」を披露した舞台は、なんと高校生活そのもの。ファッション雑誌を熟読していき「男受け」する人気者を演じようとしたのだ。本人によると、舌足らず気味に喋り、男子の話に大受けしながら的確なタイミングで発言を慎むタイプの女子役。

これが、みごと大成功。男子の人気者となり、チアリーダーや校内演劇の主役を任され、学年代表の「ホームカミング・クイーン」に表彰された。ただし、女子たちには演技を見透かされていたという。

「悪女」役の深堀り

【メリル・ストリープ】「男受け」俳優からの画像_2

photo:Getty Images

俳優を目指してニューヨークの女子大学に入ると、のびのび自分らしくいる自由を経験し、舞台で活躍していった。

映画界での出世作では、高校時代の経験を活かした。戦争の悲劇を描いた『ディア・ハンター』(1978)にて「男受け」どまんなかの乙女を演じきり、見事初のアカデミー賞ノミネートを授かったのだ。これが、ビル・クリントン大統領ふくめて、長らく男性人気ナンバーワンの役柄だったという。

型にはまった役者になりたくなかったメリルは、その後、男性に好まれにくい、ある種「悪役」をこなしていく。代表作となった離婚ドラマ『クレイマー、クレイマー』(1979)においては、オーディションの段階で、子どもを置いて去る「悪妻」役の動機が薄すぎると意見した。

こうして、今で言うワンオペ育児下のうつの背景が加えられた。名場面として語り継がれる「誰かの妻、母でしかない存在になってしまった」演説も、メリル本人が考えたものだ。

「父と母双方の視点を持つ離婚悲劇」へと深化した『クレイマー、クレイマー』は、当時の時流と合致して社会現象に。アカデミー賞ではメリルの助演女優賞をふくめた5部門に輝いた。

メリル・ストリープが名優である理由には、よく「役柄にとけこむ」能力が挙げられる。さらに加えるとしたら、企画・脚本段階から役柄自体を深遠にさせる叡智にあるだろう。

『プラダを着た悪魔』制作秘話

4人の育児をしながら40代になると役も減ってしまったが、そこで選り好みせず出演した『マディソン郡の橋』(1995)にて、米国では画期的とされる「色っぽい」中年ヒロインを演じた。

2000年代には第二の全盛期が花開いた。50代として『プラダを着た悪魔』のミランダ役を承諾したのだ。

仕事の描写にこだわったメリルは、スタジオが渋っていたアン・ハサウェイの起用もあと押し。こうして生まれたのが、ファッションを小馬鹿にする主人公に業界の影響力を説く「セルリアンブルーのセーター」の名場面だ。

終盤の決め台詞だった「みんな私に憧れてる」も、メリル自ら「私たち」に変えた。こうした変更を通しても横暴な上司役であることに変わりはないが、職務への誇りが際立つようになっている。そんな多層さこそ、ミランダ・プリーストリーが「映画史上最高の悪役」と讃えられる理由。そして、この名キャラクターがいるからこそ『プラダを着た悪魔』が清濁合わせ飲む「お仕事映画」として確立されたのだ。

76歳の挑戦

【メリル・ストリープ】「男受け」俳優からの画像_5

photo:Getty Images

メリルを驚かせたのは、大ヒットのみならず、男性客からの反応だった。劇中、組織を率いる重責を背負うミランダの弱さが垣間見える瞬間も、彼女の希望で足されたもの。この「強くあらねばいけない」プレッシャーの表現が、多くの男性から共感と尊敬を集めたのだという。

「男受け」抜群な乙女から、離婚や中年ロマンス、そして男女から畏敬の念を抱かれる権力者まで──1970年代より始まったメリル・ストリープの演技キャリアは、女性の地位向上の過程を反映している。社会環境が激変していくなか、思慮深く複雑な女性像を切り拓いていった彼女だからこそ、現代最高の名優の地位が相応しいのかもしれない。

「女性は男性より演技に長けているのかもしれません。自分より強い相手に、本来なら受け入れたくないことを納得させる——そうした技能こそ、代々女性が生き抜く術だったのですから」
メリル・ストリープ

『プラダを着た悪魔2』もまた、新たな挑戦となる。50年のキャリアを通して、本格的な続編映画への出演は初めて。彼女が再演を承諾しただけで脚本の品質は保障されている。

なにより、70代の女性リーダーが率いる豪勢なお仕事映画というのは画期的だ。2026年の今でも、メリル・ストリープは最前線に立っている。

辰巳JUNKプロフィール画像
辰巳JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)