【パリコレクション2022SS①】「可愛い」の、その先の世界

ついにパリ・ファッション・ウィークが開幕しました。引き続きデジタル配信での発表も見逃せませんが、やっぱりジャーナリストや顧客を招いたフィジカルでのショーの強さに圧倒される日々です。ジャーナリストたちのコレクション速報やS N Sでの発信などを通して、伝播する熱量がすごい。ここでは、BLACKPINK旋風が巻き起こった前半3日目までのところで、特に印象的なショーをピックアップ。それらは既存の「可愛い」ではない、その先の価値観、新たな20年代に目指したい人物像を見せてくれています。

【DIOR】 ‘60S ポップに見せかけたエンパワメント   


巨大なルーレットのような舞台装置の上に、モデルが勢揃い。回転しながら1ルックずつ焦点を当てていったディオール。

©NHU XUAN HUA
©NHU XUAN HUA

今季のマリア・グラツィア・キウリは、イヴ・サンローランの後を引き継ぎ、約30年間メゾンを率いたマルク・ボアンの時代を掘り下げています。特にフィーチャーしたのは1961年に発表した「スリムルック」コレクションです。60年代ファッションを代表するAラインのミニドレスやIラインのジャケット&タイトなミニスカートが主軸。そこに、先述の舞台装飾を手がけた今シーズンのコラボレーションアーティスト、アンナ・パパラッチ的なポップな色使いをミックス。60年代のアートシーンで活躍していたアンナの作品『 Il Gioco del Nonsense(ナンセンスのゲーム)』に着想したカラーパレットは、エネルギッシュで目に鮮やかです。

©︎IMAXtree/AFLO
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当時と同じく“若者”のパワーが台頭している今、時代の変革期を応援するようなルックに胸が熱くなります。特に、現在発売中のSPUR 11月号に掲載しているマリア・グラツィア・キウリの「アートと、ファッション、フェミニズム」特集を読んでいただければ、その思いもひとしお! 60年代、70年代当時、思春期のマリア・グラツィアが影響を受けたものの上に、今があることを実感できるはず。この企画はウェブ掲載不可の、誌面だからこそ堪能できる濃密な内容になっていますので、ぜひご覧ください!

©︎IMAXtree/AFLO
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余談ですが、モデルウォッチャーとしましては、日本をベースに活躍しているアリア・ポーキーがパリコレデビューしたショーでもあり、とても嬉しいです!

【SAINT LAURENT】 シャープで官能的。かっこいい大人とは


「可愛い」だけでは物足りない。そんな気分をぐいーんと押し上げてくれたのが今季のサンローランです。エッフェル塔を臨むトロカデロ公園にウォーターフォールを設置し、ダイナミックで幻想的な世界を作り出しました。ここ1年は砂漠や氷河など、大自然の中でのランウェイをデジタル配信しており、とても素敵でしたが、アンソニー・ヴァカレロのサンローランはやっぱりエッフェル塔がよく似合うと改めて実感。

©︎IMAXtree/AFLO
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 ビッグショルダーが特徴的なルックは、イヴ・サンローランのミューズの一人、パロマ・ピカソに着想したもの。ティファニーでの活躍も有名ですが、我が道を行くかっこいいスタイルは今見ても憧れます。それらを、ヴァカレロらしいフェティッシュさを添えてモダンにアレンジ。クラッチバッグをウエストにインするスタイリング、見れば見るほどやってみたい衝動に駆られております。

©︎IMAXtree/AFLO
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特に注目したいのは、肌の見せ方。素肌にジャケットだったり、肌もテクスチャーの一部に見せるトップスだったり、着る人の意思を感じるセンシュアリティの表現に拍手を送りたい。

【クロエ】サステイナビリティとデザインが、纏う人にちょうどいい


ガブリエラ・ハーストがクリエイティブ・ディレクターに就任し、観客を招いての初ランウェイ。セーヌ河畔を舞台にしたコレクションは、とても心地よい気分に誘ってくれるものでした。もう何年もクロエを手がけているかのように、メゾンのフェミニンなD N Aとマッチ。

©︎IMAXtree/AFLO
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ロングなシルエットであっても、流れるようなファブリックや、揺れるフリンジの仕掛け、オーガニックなアクセサリーなどがとても軽やかに組み合わさっています。モデルが歩く姿を見ているだけで、ヒーリング効果があるような、新鮮な驚きです。「すべては、愛についてです。」とコメントしているハースト。産業化されすぎたファッション界に対して、Chloe Craftを導入したそう。インディペンデントな職人による製品を拡大し、トレーサビリティや透明性を目指しています。リサイクル素材や環境負荷の少ない素材選びを行いながら、最高基準のクオリティを維持することも意識しているとか。このレザーも手作業でカットされ、ベジタブルダイで染めたものをパッチワーク。

©︎IMAXtree/AFLO
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その真摯な姿勢を貫きながら、直感的に惹き込まれるクリエーションに昇華する手腕に脱帽です。しかも、ワードローブに取り入れてみたくなるリアリティがちゃんとある。このバランス感覚に、職人と纏う人をつなぐハーストの愛を感じるのです。

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エディターKINUGASA

顔面識別が得意のモデルウォッチャー。デビューから好きなのはサーシャ・ピヴォヴァロヴァ。ファッションと映画を主に担当。

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