残雪らしい、幻想と愛と妄想の迷宮
『最後の恋人』
残雪著 近藤直子訳(平凡社/2,900円)
A国の服飾会社の営業部長であるジョーとその妻、社長や、会社にクレームを寄せる大農場主、東南アジア出身の恋人などが登場。彼らの性愛関係が断片的、寓話的に描かれる。脈絡のとぼしい不条理な出来事が連続し、息を止めて読むような緊張感が強いられるが、ほかでは味わえない読後感も。ぜひ途方に暮れて。
SPUR2016年1月号掲載
隣国の現代文学シーンに、要注目!
『カステラ』
パク・ミンギュ著 ヒョン・ジェフン、斎藤真理子訳(クレイン/1,700円)
騒音の出る冷蔵庫で孤独をまぎらわす〈僕〉。混雑する通勤電車に人を乗せる係で父親の背を押した息子。現代韓国の若者の生きづらさを乾いた笑いに変え、鋭い批評性をにじませた短編集。初邦訳となった本書は、第1回日本翻訳大賞を受賞した。長編『亡き王女のためのパヴァーヌ』も傑作。新しい感覚の韓国文学。
SPUR2016年1月号掲載
最も旬にして、郷愁感もある作品
『歩道橋の魔術師』
呉明益著 天野健太郎訳(白水社/2,100円)
1979年の台北。実在した歩道橋の上に、安手の魔術師(マジック道具売り)と露天商と子どもたちがいる。大人になりゆく過程で、魔術師に魅了された過去の記憶が、現在を生きる若者たちに蘇り……。懐かしいような風景に幻想的な出来事が溶け込んでいく、完成度の高い連作短編集。時間の往還が、お見事。
SPUR2016年1月号掲載
ノーベル文学賞作家の、純愛小説
『無垢の博物館』上・下巻
オルハン・パムク著 宮下遼訳(早川書房/各2,200円)
結婚を控えた青年実業家の男は、遠縁の若い娘にふと心奪われる。執着したまま幾年も過ごし、彼女にまつわるささやかな品々で埋まる博物館を造ることを夢見る。男は女をどう見つめているのか。イスタンブールを舞台とした、偏執が純愛に変わる異色の恋愛小説。パムクはのちに、本作に基づき実際に博物館を造った。
SPUR2016年1月号掲載