海外文学で、世界一周|北米大陸

アメリカの闇をキレキレの文体で

『きみを夢みて』
スティーヴ・エリクソン著 越川芳明訳(ちくま文庫/1,400円)

4歳のエチオピアの少女を養子に迎えた、作家のザンと妻のヴィヴ。家計は火の車だが、ヴィヴは少女の実の母親を探す旅に出る。ポップ音楽やザンが書く小説内小説の主人公「X」も登場させながら、アメリカの抱える闇とそこからの希望をスタイリッシュに描く本作。これぞエリクソン、かっこよさにシビれる。

SPUR2016年1月号掲載

アジア的な湿度のある英語小説

『観光』
ラッタウット・ラープチャルーンサップ著 古屋美登里訳(ハヤカワepi文庫/800円)

視力を失いつつある母親と、最後の観光に赴く10代後半の息子の心情を捉えた表題作や、タイを訪れる観光客に両義的な想いを抱くハーフの少年を描いた「ガイジン」など、タイという土地柄を温かくも批評的なまなざしで描く短編集がこちら。シカゴ生まれのタイ系アメリカ人作家が英語で執筆したデビュー作。

SPUR2016年1月号掲載

トロント在住作家の過去を巡る旅

『名もなき人たちのテーブル』
マイケル・オンダーチェ著 田栗美奈子訳(作品社/2,600円)

1954年、11歳のマイケルは、セイロンからまだ見ぬイギリスへ船旅をする。持ち前の好奇心で大型客船の隅々まで観察し、仲間をつくり、奇妙な大人たちと出会う。そして初恋も……。死や恋を経験した濃密な3週間を、のちに作家となる少年が回想していく形式の本書。著者の自伝的要素にあふれた細部が美しい。

SPUR2016年1月号掲載

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