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『ブラック・スキャンダル』はコンペ外で上映されるけど、主演のジョニー・デップのベネチア入りはないとささやかれていたのに、まさかの記者会見。で、日本人女性ジャーナリストたちが寄ってきて、「ジョニーとアンバー・ハードって別れたんじゃないの⁉」とやいのやいの。でも安心してください。記者会見の翌日『リリーのすべて』の会見があったんだけど、ジョニーの20年以上のボディガードのおじさんがひな壇のアンバー・ハードを見守っていた。ボディガードを共有しているって、よほど仲よくないとできないでしょ。
一昨年は初日からイニャリトゥ監督の『バードマン~』が特に一般客の間では断トツの評価で突っ走っていたが、今回はそれに該当するのが見あたらない。でも、イタリア系メディアが『スポットライト〜』をめぐって大騒ぎ。急いで観に行ったら、見ごたえあった。『ボストン・グローブ』紙の記者チームが、少年たちに性的虐待をした聖職者たちを追い詰めていく実話に基づいていて、バチカンのお膝元のイタリアとしては無視するしかないのかな。役者たちのアンサンブル演技も秀逸で、なかでも、マイケル・キートン、マーク・ラファロが各映画賞で賞に輝いているのは、『バードマン~』や『フォックスキャッチャー』(’14)のリベンジ?
先取り映画ファンは、撮影のアサノブ・タカヤナギの名前を覚えよう。群馬県出身、東北大学卒業。『世界にひとつのプレイブック』(’12)のほか、今回のベネチアが初お目見えの『ブラック・スキャンダル』も手がけている売れっ子だ。
でも、いちばんびっくりしたのは、チャーリー・カウフマンがデューク・ジョンソンと共同監督した『Anomalisa』という変テコアニメ。中年の主人公が出張に行った先のホテルで知り合った女性と浮気しちゃうんだけど、アニメというか日本の文楽人形のように口が動く人形たちが気になって、ストーリーを追っかけきれない。しかも何人もの登場人物が出ているはずなのに、わざと顔が同じだったり、声の出演俳優も3人しかいなかったり。さすが『マルコヴィッチの穴』や『脳内ニューヨーク』の世界を創り出したお人です。この作品に審査員大賞を授与する映画祭側もさすがだけど。
犬好きにはたまらないのが、アーティスト、ローリー・アンダーソンが撮った『HEART OF A DOG』。ほとんどをプライベート・フィルムといってもいいような犬との距離感がかえって新鮮。
評論家からも評価が高かったのは、ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督の『Francofonia』。最近相次いで公開されているナチスと名作絵画もののなかでもよくできていたが、アルフォンソ・キュアロン監督を審査員長とする審査員団には届かなかったようだ。
賞とは関係なく、自分の好みで言えば、イスラエルのアモス・ギタイ監督の、まるでドキュメンタリー・フィルムのような『Rabin, The Last Day』を評したい。それと、やはり大戦中のナチスが絡んでくる、アトム・エゴヤン監督の『Remember』もサスペンスフルで ありながら、人間の弱さをキチッと描いていて面白かった。アトム・エゴヤンよりももっと上の世代のイエジー・スコリモフスキ監督の『11MINUTES』。マルコ・ベロッキオ監督の『sangue delmio sangue』は、超ベテランなのに、自分の作りたい対象に真正面からぶつかるパワフルさに感動した。
こうした作品群の中から金獅子賞(作品賞)、銀獅子賞(監督賞)に選ばれたのはロレンツォ・ビガス監督の『DESDE ALLÁ(From Afar)』と、パブロ・トラペロ監督の『el CLAN』のラテンアメリカ系。特に前者は長編初監督作とあってちょっとした事件だった。新人賞のマルチェロ・マストロヤンニ賞を受けた『ビースト・オブ・ノー・ネーション』の子役、エイブラハム・アッターも楽しみ!
何考えてるの、この人! ? が真骨頂
Charlie Kaufman チャーリー・カウフマン
©amanaimages『マルコヴィッチの穴』(’99) ©amanaimages
『脳内ニューヨーク』 ©amanaimages(’08)
脚本を手がけた作品では、高さ3メートル近くはあるはずの天井が、その半分しかないフロアがあったり。トンネルを抜けるとそこは俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中だったり。どう考えてもイッちゃってる人にしか見えないチャーリー・カウフマン。でも背景には美しいラブストーリーが流れていたりするので、ファンはどんどん増えていく。フィリップ・シーモア・ホフマンの熱演が忘れられないのは『脳内ニューヨーク』で、共演者たちが「ときどき頭がおかしくなりそうだったけど、本当に楽しかった」と本音を。
SPUR2016年3月号掲載
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