山内康裕に聞く『ONE PIECE』のここがスゴイ！

新進気鋭の漫画論客として、また、『ONE PIECE』関連の著作も 手がける山内康裕さんに、その面白さの理由をズバリ聞いちゃいます！

主人公のルフィは、なぜ人気なの？

2年の修行期間を経て、ふたたびシャボンディ諸島へ集合した麦わら の一味。“偉大なる航路（グランドライン）”後半の海“新世界”へと向かうが、深海ルートの真ん中にある“魚人島”で、国獲り騒動に巻き込まれてしまう……。世代を超えた人種差別という、これまでにない社会的なテーマが隠れているのが特徴。新著“『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方”は、登場するキャラクターはもちろん、読み手の視点も「オタク的」と「ヤンキー的」のふたつに分類し、仕事のチーム作りのヒントにしてもらおうと書いたものです。僕自身これからの時代はオタクとヤンキー、それぞれの視点を持つ人で構成された集団が最強だと思っていて、ルフィ率いる麦わらの一味はまさに理想的な混成チーム。ルフィはすべてを受け入れる度量を持ち、思いを代弁してくれるリーダーでもあるので、そういう意味でも共感が集まるのだと思います。

ほかの漫画と『ONE PIECE』の違いは？

キャラの豊富さや悪魔の実などの細かな設定はもちろん、「伏線読み」といった謎をひもとく楽しさがまずひとつ。それと、物語の世界観があまりにも広く深すぎて、描ききっていないというのも少年漫画の王道とは一線を画しているところだと思います。それによって読者が自由に空想して楽しめるし、映画などのスピンオフもヒットする。セリフなど、言葉使いの巧みさも本当に素晴らしいなと思いますね。

『ONE PIECE』を再度読み始める人におすすめのパートは？

わりと最近のパートですが『ドレスローザ編』がいいと思います。「国とは何か」「国を守るということとは」といった普遍的なテーマが描かれているのでわかりやすいし、魅力的なキャラがいっぱい出てくるので『アラバスタ編』で止まった人には読みやすいと思います。あとは『頂上戦争編』もおすすめ。ここのパートは新旧の対立構造と新勢力の台頭を描いているので男性ウケがいいんです。男社会に響くのはこういう物語なんだという見方ができるので面白いと思いますよ。

『ONE PIECE』が多くの人から支持される理由は？

日本人が昔から大好きな「義理」や「人情」といったものを、セリフやシーンで代弁してくれているのが大きいと思います。要所要所でそういった部分を描いているので、心の奥底に眠っていた感情が掘り起こされてジーンとしてしまうんでしょうね。「親子愛」や「友情」といった、人間にとって普遍性のあるテーマを、丁寧に描いているというところもしかり。みんなが少なからず心の中で大切にしている部分に響くのが、日本だけじゃなく世界中の多くの人に支持される理由なのだとも思います。

『ONE PIECE』は、なぜ名作なの？

名作漫画といわれる作品は世に数多くありますが、すべてに共通しているのが「何度読んでも面白い」し「新しい発見がある」ということ。読む年齢によっても感じ方が違うし、大きくなって読んでみたら「こんなことをいっていたんだ」っていう驚きもある。僕自身は『頂上戦争編』でルフィが言った〈支配なんかしねェよ この海で一番自由な奴が海賊王だ!!!〉というセリフが好きですが、おのおのに響く言葉が必ずあるというのも名作の証しだと思います。

Profile
YASUHIRO YAMAUCHI / 山内康裕
1979年生まれ。マンガによるコミュニケーションユニット「マ ンガナイト」を主宰し、マンガ関連の企画会社「レインボーバー ド」の代表として幅広く活躍。＂『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方＂（集英社）が好評発売中。

SOURCE：SPUR 2017年9月号「大人のための『ONE PIECE』講座」
text:Satoko Hatakeyama