THE FACES of 2017/サンダー・ラック

interview & text:市川暁子(エディター)

NYモードを盛り上げる期待の新星


photography:Jonas Gustavsson

混迷の時代を照らす鮮やかなカラーの服を

 アメリカでは2016年最大の関心事だったといっていい大統領選挙の翌日。今、ニューヨークで最も注目される新進ブランド「シエ マラヤン」のクリエイティブディレクター、サンダー・ラックは鮮やかなピンクのシャツを身にまとっていた。ニューヨーカーの多くはとても気分が沈んでいた日のことだ。
「今日は自分自身の気分を上げるために、そして会う人たちにも笑顔になってほしいからピンクを着てきたよ。今、世の中は明るいニュースばかりじゃないから、僕らが美しいカラーを提案するのはとても必要なこと。ファッションとはファンタジーであり、人々にインスピレーションを与えるものだから」
 そんな彼の言葉どおり、2017年春夏コレクションではポップなカラーが続々と登場した。「色を決める際にいちばん重要視しているのは直感。いつでもどこでも色を探しているんだ。ふと見つけた紙切れだったり、プロダクトだったり。ひとつの色が決まるとそれに合わせるのはどの色がいいか、といったようにカラーストーリーを広げていく。セントラル・セント・マーチンズで学生時代に作っていた服もカラフルだったし、僕のデザインにカラーは欠かせない要素なんだ」

続きを読む


ミニマルなカッティングに鮮烈なカラーが炸裂した2017年春夏。アシッドなネオンイエローをあえてレザーなど自然素材にのせて、テクスチャーとカラーの意外なコンビネーションが見どころとなった

 ここ数年、めぼしい新人が出てこなかったニューヨークで、シエ マラヤンのデビューコレクション(2016- ’17年秋冬)にはアナ・ウィンターはじめとするトップエディターたちが出席、バーニーズなど有力店がさっそく買いつけた。これまでドリス ヴァン ノッテンやバルマン、3.1 フィリップ リムなどでキャリアを積んできた本格派ながら、無名のデザイナーが新規にラグジュアリービジネスをスタートさせるのは決して容易なことではないだろう。
「多くの素晴らしいデザイナーたちのもとでいい面はもちろん、悪い面もいろいろ見てきた経験が今に生きている。不況と言われるファッション業界で生き残るには、ほかの人たちがやってきた方法じゃなく、自分たちなりのやり方を確立することが重要だと考えているんだ。ラグジュアリービジネスにおいて数百ドル、数千ドルといった製品を買ってもらうとしたら、お客さんにはアイテムやブランドにパーソナルなコネクションを感じてもらうことが必要。それにはブランドがオーセンティックであるのはもちろん、デザインもほかからのリソースやリファレンスに頼るのでなくて、自分が直感的に感じていることにフォーカスするのが何より大切だと思う」
 多くのデザイナーはアートや旅、音楽といったリファレンスからインスピレーションを得てコレクションを作るが、彼の場合は真逆の方法をとるという。「ある意味ロマンティックじゃないかもしれないけど、まずはデッドラインを基準にしている。最初にくるのは靴と生地のオーダー、次はニットウェア、そして布帛。デザインは生地が到着してからさわったり、カットしたりしながら試行錯誤して決めていく。その過程ではリファレンスも集めるけれど、僕らはスケッチやインスピレーションから始まる従来型のデザイン構築とは反対の順番で進めているんだ。チャレンジではあったけど、逆に問題点も見えてきて、最終的には面白いものができると思っているから」
 デビュー2シーズン目にして’17年春夏のコレクションショーはプラチナチケットとなった。久々に登場した実力派が作るカラフルな服。世界情勢や人々の価値観が大きく移り変わる混迷の今だからこそ、ファッションが持つ力を信じたい。シエ マラヤンはそんな不透明な時代を照らす期待の新星といっていいだろう。

PROFILE
Sander Lak/サンダー・ラック
「Sies Marjan」のクリエイティブ・ディレクター。オランダ人だが子どもの頃からアジアやアフリカなどさまざまな国で暮らした。ブランド名は両親のファーストネームから。セントラル・セント・マーチンズ卒業。
http://www.siesmarjan.com

2017年を切り拓く、輝く才能とつながりたい今年はモード界にとってどんな年になるのだろうか? そんな未来を描くのにふさわしい7人のアーティストたちに会いたくて、世界中でインタビューを敢行。 今、彼らが考えていることと、今、私たちが考えるべきこと。 煌めく才能に現在と未来を聞いた。

SOURCE:SPUR 2017年2月号「新年を切り拓く、輝く才能とつながりたい THE FACES of 2017」

SPUR MAGAZINEプロフィール画像
SPUR MAGAZINE

着たい服はどこにある?
トレンドも買い物のチャンネルも無限にある今。ファッション好きの「着たい服はどこにある?」という疑問に、SPURが全力で答えます。うっとりする可愛さと力強さをあわせ持つスタイル「POWER ROMANCE」。大人の女性にこそ必要な「包容力のある服」。ファッションプロの口コミにより、知られざるヴィンテージ店やオンラインショップを網羅した「欲しい服は、ここにある」。大ボリュームでお届けする「“まんぷく”春靴ジャーナル」。さらにファッショナブルにお届けするのが「中島健人は甘くない」。一方、甘い誘惑を仕掛けるなら「口説けるチョコレート」は必読。はじまりから終わりまで、華やぐ気持ちで満たされるSPUR3月号です!

FEATURE