被爆者の思いを受け継ぐには、原爆を、戦争をまずは「知る」こと。あの日のリアルに近づくための書籍や映像作品を3組の識者がセレクトする
永遠の図書室
2020年3月に千葉県の館山駅近くにオープンした私設図書館「永遠の図書室」。築60年のレトロな建物をリノベーションしたスペースに、この建物の元オーナーで陸軍大尉だった人物の手記や3000冊以上の戦争に関する書籍が並ぶ。
『原爆の子 広島の少年少女のうったえ 上·下』
「広島で原爆投下に遭遇した子どもたちの手記を自らも被爆者である編者がまとめた一冊。少年少女一人ひとりの思いや叫びは時を経てもなお生々しく、読む者の心に戦争の悲惨さを刻み込みます」。初版が発行されたのは、終戦からわずか6年後。被爆者の痛みや悲しみを追体験するかのような迫力ある本作は、10数カ国語に翻訳され、その惨禍を世界に知らしめた。
『決定版 広島原爆写真集』
初公開作品を含む約400点の写真が、原爆投下後の広島を写し出す。撮影された日付順に掲載され、時間の経過をたどることができる。「原爆の恐怖と広島の惨状を、時を超えて訴えかける作品。目で見る歴史はショッキングではありますが、同時に深く考えさせられます。巻末には"原爆を撮った男たち"の解説もあり、惨劇を写真に収めた彼らにも敬意を表したい」
『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史1 2つの世界大戦と原爆投下』
リベラル派の映画監督、オリバー・ストーンが語る合衆国の闇。「第二次世界大戦を終わらせるために原爆投下が必要だった」というアメリカ政府の主張に対して、原爆投下は必要のない虐殺だったと反論する。「では、なぜ原爆を落としたのか? 背景には何があったのか? アメリカという大国の暗部に切り込んだ一冊。膨大な情報量なので、少しずつ読むのがおすすめです」
山縣良和さん
1980年、鳥取県生まれ。「written afterwards」デザイナー。ファッション表現の実験と学びの場「ここのがっこう」主宰。ファッションの最前線で活躍しながら、後輩の育成に力を入れるなど、社会的活動にも積極的に参加している。
『ひろしま』
花柄のワンピース、水玉のブラウスなど、写真家・石内都が被爆遺品を撮った写真集。「戦後生まれのわれわれにとって、戦争はずいぶんと遠い昔のことのように感じてしまいますが、石内さんが記録された色とりどりの衣服や小物からは、戦時中ながらもおしゃれをしていた亡き着用者の心模様が浮かび上がり、私たちの日常がその延長線上にあることを思い起こさせます」
映画『この世界の片隅に』
戦時下の広島・呉市に生きる、すずの日常を描いた名作。「長崎の雲仙で小学校の教員をしていた僕の祖父は、長崎に原爆が投下された日に生徒ときのこ雲を目撃したそうです。本作も爆心地から少し離れた呉が舞台で、個人的なルーツとの共通点に胸が張り裂けそうになります。親近感あふれるすずの痛々しい姿は、戦争を知らないわれわれの心にも強く突き刺さります」
『写真物語 あの日、広島と長崎で』
当時、軍の報道部員だった写真家山端庸介氏による原爆投下翌日の撮影をたどった写真集。「子どもの頃に見て、そのあまりに強烈な写真がトラウマのように記憶にこびりつきました。でも、そのおかげで、平和の尊さや戦争への嫌悪を感じられる大人になったと思います。お子さんがいる親御さんへ、なるべく早くこの写真集をお子さんに見せることをおすすめします」
小林エリカさん
作家・マンガ家。著書に第151回芥川賞候補作『マダム・キュリーと朝食を』、『トリニティ、トリニティ、トリニティ』、"放射能"の科学史をめぐるコミック『光の子ども』など。原子力をテーマに美術作品も制作している。
『ふたりのイーダ』
原爆投下で亡くなったイーダとは? 広島を訪れた兄妹が体験した奇妙な出来事を描いた児童文学。「過去と今、歴史と個人をつなぎ、原爆をわたくしごととして考えるきっかけになる作品。徹底的に小さな声に耳を傾けようとする著者の姿勢が一冊に貫かれています。この装画を手がけている司修さんによる『空白の絵本 語り部の少年たち』もあわせておすすめです」
『放射能 キュリー夫妻の愛と業績の予期せぬ影響』
「どのようにして『放射能』が発見され、それがのちに原爆や原子力発電、そしてチェルノブイリなどの事故につながってゆくのか。『放射能』の名付け親でもある女性科学者、マリー・キュリーの生涯を軸に、その研究が未来に及ぼした影響までを網羅するビジュアルブック。大人向けの絵本のようで入門書としても最適です」。原爆や被爆を科学的に知る手がかりに。
『原子力の哲学』
「原爆を、原子力発電を、その被曝や事故を、私たちはどのように考え、どのように行動すればよいのか。マルティン・ハイデガー、カール・ヤスパース、ギュンター・アンダース、ハンナ・アーレントなどの偉大な哲学者たちが異なる立場で語ったことをまとめた一冊。今後を、未来を、自分自身の頭で考えるためにこの本を携えたい」。7人の哲学者の示唆に富む言葉集。
interview & text: Hiromi Sato