250万乙女よ、覚醒せよ。知ってる?『さよならミニスカート』

『りぼん』編集部が異例の声明を出し、連載開始直後から話題を呼んだマンガ『さよならミニスカート』を知っていますか? アイドルを描いた少女マンガ、という単純な枠組みを超えてジェンダーや友情、家族についてなど、少女だったかつての私たちと大人になった私たち、どちらの心にも響いてしっかりと根を張る作品だ。あの頃の『りぼん』"250万乙女”たちに届けたい少女マンガがここにある!

Interview with 牧野あおい先生
いつか大人になる読者へ。女の子の味方でありたい

──この作品を描くことになった経緯は?

「"男の子みたいなかっこいい女の子" を描きたいと思ったのが最初です。そのためには彼女が男の子の格好をしている動機が必要だと考えて、以前から描きたかったアイドルの要素を絡ませた設定をつくり上げました。女の子のさまざまな問題は、そこに自然とついてきたものであり、それありきではありませんでした」

──「#MeToo」運動の影響はありましたか?

「特別にはありませんが、伊藤詩織さんの『Black Box』(文藝春秋)は読んでいました。記者会見のときに被害者という弱いイメージで見られたくなかったから、自分らしい格好でのぞんだ、といったようなことが書かれていたのが印象に残っています」

──牧野先生にとってアイドルとは?

「『美少女戦士セーラームーン』(講談社)が大好きだったんです。短いスカートでかっこよく戦う姿に憧れて。その後、AKB48が登場したときは、彼女たちが戦う女の子を具現化した"実写版セーラームーン" のように感じ、一気にファンになりました」

──性暴力の対象となったり、恋愛が不当に禁じられるなど、アイドルの現状とフェミニズムはかけ離れた関係にあります。NGT48の暴行事件も衝撃的でした。

「この事件は偶然作品とリンクした内容でもあり、とても驚きました。個人的には、アイドルの恋愛禁止はやめるべきではないかと思っています。ファンとしては許せない部分もあるんでしょうけれど、恋愛をしたほうがそれをパワーに頑張れる女の子はたくさんいる。それぞれの個性を大切にしながら、みんながアイドル業に集中できる環境にしてほしいと願っています」

──少女マンガは時に女性性を殊更に際立たせたり、恋愛至上主義的であることも。ジェンダーにおける少女マンガの功罪をどう考えますか?

「少女マンガは常に女の子の味方です。"罪" といったことは考えたことがありません。10代前半を対象にした『りぼん』や『なかよし』(講談社)の作品って、ファンタジー、戦う女の子、友情、とストーリーのバリエーションが幅広い。それはその年頃の子の頭がやわらかいからだと思うんです。上の年代になると、男の子との恋愛が中心になってしまいますが。今後女の子の価値観がやわらかくなって多様化してきたら、もっとさまざまなマンガが増えるんじゃないでしょうか」

──小学校高学年から中学生くらいの女の子が主な読者層である『りぼん』で本作を連載する意義とは?

「彼女たちが社会に出たときに"あれ?"って思うことが必ずあると思うんです。つまりセクハラや女性として不当な扱いを受けたとき。そこで、"あ、これ『さよミニ』で読んだやつだ" って思い出してもらいたい。今はまだ深くわからなくても、いつか読者たちが問題に直面するとき、気づきのある作品でありたいです」

──作品の反響と今後の展開については?

「この作品は男性のほうこそ読むべきなんじゃない? とよく言われます。編集長が最初に声明を出したことにも驚きましたし、サスペンス部分が話題になっているのも少しプレッシャーを感じますが(笑)、主人公の仁那が自分らしくなっていく姿を描いていきたいです」

『さよならミニスカート』
牧野あおい著(集英社/440円)
高1の仁那(にな)はクラスで唯一スラックスで登校する女の子。彼女は実はある事件がきっかけで引退をしたアイドルグループのセンターで、今は誰にも知られないよう高校生活を送っていたが――。アイドル、スクールカースト、ジェンダーなどさまざまな問題を内包しつつ「女の子」を肯定する話題作。2 巻は3月25日(月)発売予定。イラスト(上)は、作者の牧野あおい先生によるSPURのための特別描き下ろし! このページに登場したジェンダーレスモデル・中山咲月さんを描いた。

『さよならミニスカート』全力応援団

『りぼん』読者のみならず各方面で反響を呼んでいる『さよミニ』。年齢も性差も超えて愛される作品の魅力を、あの人が熱烈推薦!

ハヤカワ五味さん(実業家・ファッションデザイナー)

『さよならミニスカート』は『りぼん』の読者層にももちろん読んでほしい作品ですが、昔読んでいた人たち、少女マンガには興味ないよって人にも"可愛い"を見直すキッカケとして読んでもらえたらいいなと思う作品です。最近、中国に行って気づいたのですが、日本の"可愛い" という価値観は世界的にはかなり特殊なんですよね。弱く、媚びる女性を"可愛い"とし、強く、反発する女性を"可愛くない"とする。それに毒されてきてしまった私は、なぜ"可愛い"が好きだったのかをこの作品を通して何度も考えさせられています。

中山咲月さん(モデル)

ナイーブだけどストレートな内容でとても楽しく読める作品です。読む前は自分と似たようなキャラクターなのかと思っていたのですが、読み進めていくと主人公はトラウマの反動で男の子に見えるようにボーイッシュな服装をしている。スカートをはかない理由が主人公にとっては防護服のような役割になっているのだと思います。見た目は似ていますが、私とは環境や気持ちが真逆。たとえ同じような見た目の女の子がいたとしても、そのスタイルになった経緯や理由は本当に人それぞれなんだと気づき、視野を広げてくれる作品です。

相田聡一(『りぼん』編集長)

初めてネームを読んだときから、このマンガが面白い! ということに100%自信がありました。「このマンガは、異例です」という声明を出し、連載開始前から宣伝活動をしたのも、その自信から。『りぼん』は、少女マンガの原点であるべき雑誌です。その雑誌で、子ども向けだけではないマンガを、今この時代に、このタイミングで作れたことに意味があると思っています。大人も読める作品の包容力がありながら、根っこでは少女マンガらしさがある。今こそ、いつか『りぼん』読者だったすべての大人たちへ、自信をもって届けたい作品です。

いとうせいこうさん(作家)

私たちが、男も女もともに"つくられた虚構の枠組み"の中で生きさせられていることをついに少女マンガが描き始めた。虚構から目を覚ますには勇気と想像力と知性がいるが、性差別なんていう古くさいものと決別するために、私たちは能力を研ぎ澄ませなければならない。女は男のためにだけ着飾っているのではなく、変質者に狙われるのが被害者の容姿や服装のせいではなく(それは騒がれそうかどうかで決まる)、女の美醜を勝手に男が判定するのは一方的で暴力的であることなどなど。『さよならミニスカート』は、これら私たちが目覚めるべき例一つひとつのために、確かな勇気と想像力と知性を与えてくれる。

女子マンガ研究家 小田真琴さんコラム

「女の敵は女」ではない。『さよミニ』が描く"真の敵”

 "女らしさ”とはなんだろうか。たとえば『さよならミニスカート』の未玖(みく)は"女らしい”のだろうか。では仁那は? クラスメートの辻さんは?

 確かに未玖は"女らしい”ように見える。愛嬌を振りまいて男たちの歓心を買い、痴漢に遭えば「もーっみんな大げさっ! たかが太ももだよぉ⁉」と騒ぎを一蹴、女性専用車両には「女の人だけで1両使っちゃうのってなんだかお仕事に疲れてるサラリーマンさん達に悪いなーって…」と街頭インタビューで回答し、男性陣から絶賛される。その場にいる男たちが求める言葉を即座に選び出すことができる未玖のこうした能力を、ある種の人々は「女子力」と呼ぶのだろう。

 仁那に切りつけた犯人探しのミステリー要素もこの作品の大きな魅力となっているが、実は本作は未玖を"女らしさ”に走らせ、性役割を固定化しようとする、真の黒幕をあぶり出す物語でもある。その犯人の名は「社会」。もちろん"女らしさ”を規定しているのもこの社会だ。そこには男だけが心地よくいられるような、巧妙な罠が仕掛けられている。なにしろわれわれの社会はジェンダーギャップ世界110位の圧倒的男尊女卑社会なのだった。

「女の敵は女」というクリシェにだまされてはいけない。未玖もまた仁那や辻さんと同様に被害者なのである。なぜ未玖がこの能力を身につけたのかといえば圧倒的に生きやすいからだ。打倒すべきは目の前の未玖ではなく、その奥にある社会の仕組みである。果たしてこの視座をこれまでの少女マンガは持ち得ただろうか。この作品が『りぼん』で連載されること自体に大きな意義がある。少女マンガの力を、私たちは思い知ることになるだろう。

SOURCE:SPUR 2019年4月号「知ってる?『さよならミニスカート』」
illustration: Aoi Makino interview & text: Makoto Oda

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