橋本愛さんに話題作『熱のあとに』についてインタビュー! 沙苗という女性の存在、愛と熱量がある現場の空気感が合致した奇跡のような作品 #熱のあとに

橋本愛さん主演の映画『熱のあとに』が、2024年2月2日(金)に公開される。本作は、静謐な映像とともに、一人の女性の振り切った愛し方を描き、“本物の愛とは?”という問いを描く物語。橋本さんが演じるのは、愛したホスト・隼人を刺し殺そうとした過去を持つ主人公・沙苗。出所後、違う男性と結婚するが、隼人への燃え上がるような思いを抱き続ける沙苗の愛し方を体現し、価値観が180度ひっくり返ったと感じた体験、作品への熱い思いを語ってくれた。

正気と狂気が逆転するような経験をして痺れた

橋本愛さんに話題作『熱のあとに』についての画像_1

——主人公・沙苗の人物像は、2019年に実際に起きた新宿ホスト殺人未遂事件から着想を得ています。盲目的なまでに一途な愛を躊躇なく貫こうとする沙苗を演じてみて、どんなことを考え、感じられましたか。

橋本:最初に脚本を読んだ時、私は沙苗の愛に対して、その愛は本物の愛ではないのではないかと思いました。愛ではないものを愛だと勘違いしているだけではないかと、ある種、彼女の愛を裁くような立場で見てしまいました。でも、それでは彼女を演じられないので、彼女の愛に辿り着くためにいろんなことを考えてやってみて、最終的にその彼女と同じ目線に立てた時に見えた景色が、これまでのものとは180度逆転するような体験となりました。それは何かというと、今まで彼女の愛を狂気とみなす世間の目があって、社会的には周りの方が正気とみなされていますが、沙苗の立場から見たら自分は正気で、この愛を分からないまま生きられるあなたたちの方が狂ってるんじゃないの? と思ってしまうぐらい、自分の愛は切実で本物だと強く信じています。そんなふうに正気と狂気が逆転するような経験をして、痺れたというか。勘違いだと思っていたけど、これこそ本当の愛だと心の底から思えたんですね。それは私にとってすごく大きかったです。

沙苗の愛し方を知って、新しい愛が増えた感覚

橋本愛さんに話題作『熱のあとに』についての画像_2

——雷に打たれたような価値観の変化があったとのことですが、ご自身の恋愛観に影響はありましたか?

橋本:最初、私にとっての愛は沙苗の愛とは違うと思っていました。相手を故意に傷つけたり、相手から何かを奪ったりする。彼女のその行為自体は愛じゃないと思っていて、反対に私は愛は与えるものなんじゃないかと思って生きてきました。でも、彼女の愛は本当の愛だと思えた時に、今までの自分の愛を否定するのとはまた違い、新しい愛が増えた感覚でした。これは愛じゃないと判断できる立場にある人は誰一人いないですし、これは愛だって全人類が共通して認識できる愛もどこにもないと思いました。自分にとっての愛があるだけで、その愛は当たり前に多様ですし、いろんな形や色・質感があるんだと思えてからは、自分の愛だけが正しいと思うような傲慢さはなくなったと思います。


——沙苗がなぜそこまで隼人を愛するのか知りたいと思いました。

橋本:監督の山本英さんが最初にそう話していました。「なぜ沙苗を、この物語を撮りたいかと思ったかというと、彼女の愛に対して、そんなに人を愛せるってすごい、羨ましいと思った」と。「でも、なぜあそこまで愛すのか分からない。その愛が分からないから、撮りたいと思った」って。一方、脚本のイ・ナウォンさんは、彼女のことを守りたいと思ったと言っていました。二人の知りたい、守りたいという気持ちから出発している物語です。

愛があるから自分は自分でいられる。そういう気持ちはどこか共感できる

橋本愛さんに話題作『熱のあとに』についての画像_3

——沙苗にとって愛すことと生きることはイコールですね。

橋本:そうですよね。でも、その愛のせいですごく苦しめられているけれど、その愛がなければ生きているとも感じられないという、その狭間に立たされています。監督も言っていたんですけど、愛することと生きることがイコールで、愛がなければ生きている実感も感じられないし、愛があるから自分は自分でいられるというような、そういう気持ちはどこか共感できるなと思いました。

——橋本さんにとって、これがないと私じゃない、これがないと生きていても死んでいるような感覚だというものはありますか?

橋本:今の私にとっては、ファッションへの思いかな。ファッションがないと、私じゃないというぐらいの思いがあります。でも、以前、実際に生きているか死んでいるか分からないという時期が、私自身もありました。人生は暇つぶしだと思っていて、それはもう生きているとは言えない状態だったと思います。その苦しさは、沙苗とは違う種類のものですが、どこか実在感がない感じなのは、もしかしたら似ているのかなと思いました。

——いつぐらいのことですか?

橋本:10代半ばから20代前半ぐらいですね。ちょうど10年ぐらい前、高校生ぐらいの時から数年間は、そういう状態が続いていた気がします。仕事が忙しくなってきて俳優としてどうしていくかという時ですね。

——それは辛かったですね。

橋本:自分が未熟だったからだと思っているんですけど、未熟なまま自分は社会に身を置いていて。そして、仕事をしていて、大人ではないのに大人とみなされてしまうという、社会から求められる自分とのギャップが、あまりにも大きすぎて、そこで苦しんでいたんだと思います。28歳の今はさすがにもう大人になって、そういう状態からすっかり抜けて楽しくお仕事させてもらっています(笑)。

温かく美味しい食事と愛情のある、素晴らしい環境で撮影できた

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——本作の現場の雰囲気についても伺いたいです。シリアスな内容ですが、現場の空気感はどんな感じでしたか?

橋本:現場の雰囲気はとっても賑やかでした。賑やかというより、みんなで大笑いしていてちょっとうるさいぐらい(笑)。キャストもそうだし、スタッフさん全員、みんなすごく仲良かったんですよ。シリアスだったり、シビアだったりする内容の作品ですけど、だからこそ私は自分本体が壊れてしまってはいけないなと思っていたし、多分みんなもそう思っていて。だから、プロデューサーの山本晃久さんが、毎日ご飯を手作りしてくれたんですね。

毎日みんながまだ寝てる朝3時からおにぎりを握ってくれて、温かいご飯を作ってくれました。役者の私たちもギリギリな時があるけど、それ以上にギリギリな局面って、スタッフさんの方が多いと思うんですよね。そのスタッフさんに対しても、ちゃんとあなたたちには美味しいご飯を食べる権利があるんだって話してくれて、それを自分で体現している方です。ご飯が温かくて美味しい世界って、こんなに違って見えるんだって(笑)。食は命の根源であり、人間的活動の上で映画を作ることがこんなに豊かなんだなと思い知らされました。愛のある素晴らしい環境の中で映画を一本撮れたことが、私にとってすごく大事な経験になりました。本当にありがたかったです。

その人自身にとっての愛が、どこかでばれてしまう作品

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——撮影が終わってしまうのは寂しかったですか?

橋本:寂しかったです。一つ一つのシーンが印象的で、撮影はとても濃厚な時間でした。もうすぐ公開されますが、特別な思いがある作品なので、お客さんにどう伝わるのかすごく楽しみです。この作品は、自分が丸裸になるような映画だと思います。いろんな感想をいただくんですよ。この愛が羨ましいと思ったと言ってくださる人もいれば、ちょっと遠い存在のように感じる人もいたり、また少し裁くような人もいたりして。その人自身にとっての愛がどこかでばれてしまう。感想を語り合うことで自分の愛を語ってしまうという、そういう面白さのある映画だなと思うので、早くみなさんの感想をお聞きするのが楽しみです。

過去を遡るよりも、未来にどう手を伸ばしていくかが大事

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——監督が「自分が愛した男性への熱がこもったままで、治りきっていない感じが沙苗の状態に似ている」と思い、『熱のあとに』というタイトルをつけたとのことですが、橋本さんにとってそういう存在のものはありますか?

橋本:私にとって、この作品がそういう存在ですね。なんだかふわふわしていて、それこそ夢の中に置いてきたもののような感じです。今日たくさん幸せだったとお話ししてるじゃないですか(笑)。その幸せが、夢のようなふわふわした幸せなんです。実感はもちろんありますが、どこかに大事にしたまま置いてきた宝物のような存在になりました。沙苗として生きてる時間はずっとふわふわしていたから、その体感が残っているのかもしれません。自分の出演作は一作一作が大事で大切にしていますが、こういう実感を持ったのは初めて。沙苗という女性の存在、愛と熱量がある現場の空気感が合致した奇跡のような作品です。こういうセンセーショナルな事件は、今までそれそのものを描く映画はたくさんありましたが、その後を描いた映画は多くないと思います。なぜ起きたかより、この後どう生きるかのほうが大事じゃないですか。過去を遡るよりも、未来にどう手を伸ばしていくかの方が大事だと思うので、そこをしっかり描いてくれたことがすごく嬉しかったです。

『熱のあとに』2024年2月2日全国ロードショー
自分の愛を貫くため、ホストの隼人を刺し殺そうとして逮捕された沙苗。事件から6年後、彼女は自分の過去を受け入れてくれる健太とお見合い結婚し、平穏な日常を過ごしていた。しかしある日、謎めいた隣人女性・足立が沙苗の前に現れたことから、運命の歯車が狂い始める。沙苗の夫・健太役を仲野太賀、物語の鍵を握る謎の隣人・足立役を木竜麻生が演じる。ほか、坂井真紀、木野花、鳴海唯、水上恒司が共演。監督は本作が商業映画デビュー作となる山本英。

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