【林士平の推しマンガ道】医療と治療の現場のリアルに触れるエッセイコミックス3選

現在、過去もしくは遠い未来にしろ、誰もが無縁ではいられないのが”病”。エッセイマンガという表現でその実態と実感を描く、大人全員にすすめたい3作品

林士平の推しマンガ道

病名を告知されたマンガ家が自らの病に向き合う。エッセイというよりドキュメンタリーに近い感覚で読んだマンガを紹介します。

『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』ひるなま著

『末期ガンでも元気です  38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』ひるなま著
フレックスコミックス ポラリス コミックス/全1巻・1,100円

胃の調子がおかしいな、と病院へ行ったら余命2年半の末期ガンの診断。検査、手術、抗ガン剤治療も続けながら、オタ活もすればマンガも描く、明るく真摯な闘病エッセイ。

描写はコミカルだったりシリアスだったりするものの、いずれも当事者からしか出てこない本物の言葉と、まるで命を削り出して作品の中に置いたかのような迫力ある表現に圧倒されます。『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸ガンになる』は、「ポジティブ闘病記」と銘打たれた、ひるなま先生の作品。ガン患者がどう闘い、どんなメンタルで、どう日常を続けていくのかについて、ここまでわかりやすく克明に記したマンガはほかに思い浮かびません。周りから言われて嫌だった言葉や、うれしかった言葉の実例などは、人づき合いにおけるさまざまな場面でも役立てることができるはず。最終回の「本当の助けは『日常生活を支えること』」、「だって死ぬまでは『生活していく』んですから」という言葉が、読み終えたあとも心に残ります。

『断腸亭にちじょう』ガンプ著

『断腸亭にちじょう』ガンプ著
小学館 サンデーうぇぶり/ 既刊3巻・990円〜

大腸ガンステージ4と告知されたマンガ家が記す日々の軌跡。目に映るもの、聞こえるもの、味わうもの。日常の手ざわりをやわらかな線で描く、手塚治虫文化賞新生賞受賞作。

『断腸亭にちじょう』もまた、大腸ガンの診断から始まり、現在進行形で連載されている作品です。病気のことを描くことをすすめられ、反発する場面もありますが、ガンプ先生の表現者としての業が描かれていく。呪詛のような感情まで描き込まれている部分もある。永井荷風の日記からタイトルを拝借しているように、表現には文学的な香りも漂っています。同じ病に侵された作家が描く2作品、表出する表現は真逆というほど違うけれど、ある種の"絶望"が描かれているという点は共通しています。治療における身体的なしんどさや痛みの描写は、病気に対する理解を深める助けになるはずです。

『なおりはしないが、ましになる』カレー沢 薫著

『なおりはしないが、ましになる』カレー沢 薫著
小学館 ビッグコミックス スペシャル/全2巻・各1,000円

空気を読む、人の顔を覚える、掃除する、など苦手科目山積みのマンガ家が、検査と診断をきっかけに発達障害について学ぶ。精神科・心療内科の医師によるコラムも収録。

カレー沢先生の『なおりはしないが、ましになる』は"読む薬"のような作品です。日常生活に困りごとを抱えていた先生が、発達障害の傾向ありと診断される。診察、カウンセリング、家族との対話などが描かれていくなかで、先生が通う病院でのグループミーティングの場面が登場します。そこでは患者同士で悩みや生活の工夫を話し合うのですが、発達障害について丁寧に描かれた今作が読まれ、読者が感想を語り合うことが、このミーティングに似た役割を果たしていると思いました。先生のリアクションと描写に笑いながらも声を大にして一言。「皆さん、不調を感じたときは病院へ行きましょう!」

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」連載中の担当作に『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』『ディアスポレイザー』。大英博物館の展示品「Cradle to Grave」が面白い!

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