歴史と実在の人物をモデルに、普遍的な価値観を描いた3作【林士平の推しマンガ道】

壮大な世界観にとことん没入できる。勉強にもなる。歴史を題材にした、語り継ぎたい"推し"作品。長期休暇のお供にもピッタリな名作を厳選!

林士平の推しマンガ道

『チェーザレ 破壊の創造者』 惣領冬実著

『チェーザレ 破壊の創造者』惣領冬実著
講談社モーニングKCDX/ 全13巻・827円〜

ルネサンス期のピサに始まる歴史物語。ヨーロッパ統一を夢見たチェーザレ・ボルジアを軸に15世紀イタリアの宗教と政治を描く。累計140万部を突破した人気作。

圧倒的な没入感で別世界に連れて行ってくれるのが歴史マンガ。2022年に完結した『チェーザレ』は、チェーザレという孤独な男とアンジェロの友情、腹心・ミゲルとの関係などを描く青春劇です。15世紀イタリアの政治と闘争を背景に、差別に抗い、人の心は自由であるという現代にも通じる価値観を持っていることに驚き、何百年たっても人間の本質はあまり変わらないのかもと思わされます。

そして惣領冬実先生の絵! この先もずっと古びることのないだろう、芸術品と呼びたくなる圧倒的な美しさです。美術品や建築の描写、毎巻のカラーページを堪能するには紙で読むのがおすすめですが、電子書籍派としては高解像度版も出してくれ〜と言いたい! 先生にはいつか、物語の続きを描いてほしいですね。

『大奥』 よしながふみ著

『大奥』よしながふみ著
白泉社ヤングアニマルコミックス/ 全19巻・748円〜

徳川の治世。赤面疱瘡により男の数が激減した国を治める江戸城に男女逆転大奥が誕生する。歴史上の人物の性別を置き換えて、幕末、明治維新までを描き切ったSF超大作。

驚いたり、うならされたり、マンガ編集者として気になる部分はメモを取りつつ、読み返すのが『大奥』。よしながふみ先生は、物語とストーリーの展開、セリフに演出、何より間の作り方がすごい! 構図も大きさも同じコマを連ねて、表情の微細な変化を見せたり、背景どころか顔の輪郭などの付帯情報を極限まで省いて、目だけで語らせたり。11、12巻にはたった1コマで、怪物・徳川治済の心の動きや人物像を伝えてしまう忘れがたいカットも。19巻の最後がまた素晴らしく、偽史ものながら、この物語こそ真実だったのかもしれない、と思わせる。永遠に読み継がれてほしい作品です。

2023年秋にドラマ第2期が放送予定、アニメ版がNetflixで配信中の『大奥』と、2023年春にミュージカル化された『チェーザレ』。原作とは異なる形にそれぞれ料理されているので、比較してみるのも楽しいと思います。

『天幕のジャードゥーガル』 トマトスープ著

『天幕のジャードゥーガル』トマトスープ著
秋田書店ボニータコミックス/ 既刊2巻・660円〜

13世紀、ユーラシア大陸を席巻したモンゴル帝国。捕虜としてイランから連行されて来た少女シタラはファーティマと名を変え、知恵と知識を武器に帝国への復讐を誓う。

奴隷の少女が乱世を成り上がるという、物語の立ち上げ方が好みだった『天幕のジャードゥーガル』。日本ではあまりメジャーではない、モンゴル帝国に生きた女性を描くという題材選びから面白い。歴史という物語のどこにフォーカスし、実在の人物をどうキャラづけして描き、描き切るか。そこに作家の美学と個性が反映されます。

連載中で単行本もまだ2巻。すぐ追いつけるし、じっくり追うのも楽しみです。作中、「全てのイスラム教徒は知を求める義務がある」というセリフがあるのですが、時代や宗教が違っても、知というものの大切さを描くというスタンス、3作に共通して描かれていますね。

林士平プロフィール画像
マンガ編集者林士平

マンガ編集者。「少年ジャンプ+」で連載中の担当作に『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『BEAT&MOTION』。15年ぶりのバスケでシューズが壊れました。

マンガに関する記事はこちら!

FEATURE
HELLO...!