#3 ウィズ・コロナ時代に私たちを守る服

コロナ禍を経て初めて発表されるシーズン。デザイナーたちはその現実にどう対峙したのか?

photography: IMAXtree/AFLO(1~4)

1 アーカイブのポピー柄をデジタル処理でにじませて泣いているようなプリントに。コロナ禍を憂う気持ちを表現した

2 「AMOR FATI(運命愛)」は哲学者、ニーチェが提唱した考え。人生における喜びと逆境をすべて受け入れ、愛することを指す

3 使用した無地素材の93.5%はサステイナブル認証を得たもの、もしくはアップサイクルのもの

4 歴代デザイナーのエッセンスをコレクションに取り入れた。優雅なドレスのウエスト部分には南京錠があしらわれている

2020年、世界を席巻した新型コロナウイルス感染症は、当然のことながらモード界にも多大な影響を及ぼした。外に出ることや人と会うことを制限された結果、多くのデザイナーが自身の内面や服の本質そのものと向き合っていたように思う。服の本質とは、すなわち体を守るという究極の機能に立ち返ること、そして素材からデザインに至るまで、時の流れに耐えうるサステイナブルな価値を持っていることだ。今シーズン、デザイナーたちが服とどのような対話を行なったのか、コレクションを通じて考えてみたい。

ケンゾー(1)は、蜂を研究することをコレクションの出発点とした。というのも高度に組織化された社会を営む蜂の生態は、いわばサステイナビリティの成功例だから。そうして導かれた養蜂家のスタイルが顔をすっぽりと覆うソーシャルディスタンシングを備えたウェアだったことは示唆的だ。同じくサステイナブルをクリエーションの核とするマリーン セル(2)は、ムービー「AMOR FATI」を発表。ふたりの主人公が、手術室から荒野、水の中へと異なる空間を移動するなかで、着ている洋服もシームレスに変化していく内容だ。そこにはどんな環境下でも変化と適応が必要というひとつの答えが示されている。一方、先の見えない現状でも前に進もうという意志を感じたのがバレンシアガ(3)。夜の街をサングラスをかけたモデルたちが闊歩するムービーには、暗闇で前が見えないにもかかわらず悲壮感はない。事実、サステイナブルな素材を使うという新たな一歩を結実させている。

現実と向き合うことは時につらく苦しい。それでも前を向けるのはなぜか。マシュー・M・ウィリアムズのジバンシィにおけるデビューコレクション(4)にヒントが見えた。彼がモチーフに選んだのはパリ、ポンデザール橋の「愛の南京錠」。そこには過去から現在、未来へとクリエーションを受け継ぐ約束と決意が込められている。デザイナーたちが現実と真摯に向き合い、今を生きる私たちを守るために作った服は、輝かしい過去、そしてよりよい未来を守るための服でもあるのだ。

エディター MORITA

森田眞有子●12月号のSDGs別冊を担当。よりよい未来のためのモードの役割について考えている。自宅へ自然電力の導入を検討中。

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