#6 SPURエディターの熱愛服喋り場

ファッション大好きなエディターたちが心から愛する、2021年春夏の服とは? 忖度なしでガチマシンガントーク!

ミウッチャ先輩に一生ついて行きます

あれは、2018-’19年のプラダの秋冬コレクションでした。ファーストルックは黒人モデルのAnok Yai。オールブラックのセットアップ。そのシックさに意表を突かれたのもつかの間、モデルが目の前を通り過ぎた瞬間息をのみました。首にシフォンの大きなリボンを結び、バックスタイルを飾っていたのです。そこから、次々に登場するモデルが着用していた色とりどりのネオンカラーのボウに、完全に心を持っていかれました。「今」を体現するモダニティの中に、永遠の少女性を潜ませるこのミウッチャの絶妙な采配がたまらなく好きです。前置きが長くなりましたが、今回ミュウミュウを見ていて、このショーを思い出したんです。ラフ・シモンズによって究極に美しくモダナイズされたプラダとの対比もあったかもしれません。未来のユニフォームのようなジャケット。だけどボトムは超ミニ! 足もとはビジューなミュール! スポーティな"ジャージ"風ウェアに、インナーはフリルトップス! 尖った個性の中に、普遍的に愛される可愛さ、ノスタルジックなときめき要素を入れるさじ加減。オーセンティックな要素を掛け合わせ、まったく新しいものを創るそのセンス。「そう、ミウッチャのこういうところが好き!」と興奮。そして、プラダのオンラインで公開されたラフとの対談でのシックな装いから一転、ラストで現れたその姿はピンクのセットアップ! もう「一生ついて行きます!」と勝手にシスターフッド。ウーマンズパワーがあれば未来は明るい。そんな元気をもらいました。

エディター ASADA

浅田智子●普段の洋服は基本的にはシンプルだが、実はリボン、水玉、レースといったガーリー要素は大好物。

冷静と情熱の間のケミストリー

オートクチュールの世界観をより広義で捉えたプレタポルテ、というストラクチャーをこれまで以上に明確に示したメゾン マルジェラ。特筆すべきは、ヴィンテージの洋服をアップサイクルした「レチクラ」という新たな試みでしょう。ニットやシャツを再利用して仕立てたピースは、サステイナブルであり、極めてマルジェラ的。「デコルティケ」のカッティングをはじめ、多彩なテクニックを用いながら、ブラック、ホワイト、レッドの3色で構成されたストイックなカラーパレットに痺れます。気になったルックは、特殊なコーティングを施し、水に濡れたような視覚効果を演出したダブルブレストのジャケットと、大胆にスリットの入ったトラウザーズのルック。ミューズであるレオン・デイムが、水に濡れながら情熱的なタンゴを踊る様の妖艶さといったら。そう、今回のコレクションは映像も必見。ニック・ナイトの幻想的なイメージフィルムの美しさは言わずもがな。また、映像内でジョン・ガリアーノが語ったのが、今回のコレクションのインスピレーションとなったアルゼンチンでの体験。首都、ブエノスアイレスで見たという、ゲリラのタンゴパフォーマンスについて語る姿から、かつてディオール時代のインタビューで「インスピレーションは常に旅行から得ている」と語っていたことを思い出し、胸が熱くなりました。メゾン マルジェラという "哲学" と向き合い、そしてそのうえでガリアーノらしい情熱的な美的感性を融合させた、渾身のコレクションでした。

エディター OKABE

岡部駿佑●好きな色は黒、赤、ゴールド。モードと美しいものを愛する。ドラマティックなスタイルに夢中。

進化し続ける「ときめき」

残念ながら2020年はかないませんでしたが、最新のコレクションを実際にこの目で見るというのは、わくわくする仕事のひとつです。パリ取材のときに個人的にとても楽しみにしているのがヴァレンティノのショー。期間中は朝から晩まで予定が詰まっており、普段ズボラな自分でも緊張が解けないのですが、ヴァレンティノのショーだけは、なぜかリラックスして楽しめる。それはピエールパオロ・ピッチョーリのクリエーションがとにかく好きで、絶対素敵なものがやって来るという安心感があるから! うっとりするような総刺しゅうのドレス、蛍光色のワンピース、ドラマティックなボリュームのブラックドレス…… ショーで何度も衝撃を受け、ときめいてきました。「めっちゃ可愛い」「いいもの見たわ〜」と、いつも感動のあまり語彙力不足の感想しか出てこないのが悔しい! 初のミラノ開催となった今季、掲げられた「ロマンティシズム」というキーワードは、私の中のメゾンのイメージにカチッとハマりました。ただ甘いだけではなく、そこにひとさじ加えられたパンクな精神だったり、ちょっとした遊び心だったり。さまざまなイメージを内包しつつの「ロマンティック」に改めてときめいています。メゾンらしい花柄のマキシドレスもいいですが、リーバイスとのコラボレーションデニムにも新しい可能性を感じ、ドキドキしています! ブーツカットが可愛い。ちなみにこのイエローのドレスのルックのモデルに触発されて、グリーンのヘアカラーに挑戦しました(笑)。

エディター OKUDA

奥田真弓●春夏のマイ制服はマキシドレス。「推し」のメンバーカラーの関係で紫が気になる今日この頃。

「風の時代」の女神たち

デザイナーが代われど、ずっとクロエのファンだったんです。ただ、ナターシャ・ラムゼイ=レヴィのクリエーションは、正直「堅い」と感じることも。一方で、今までにない強い女性像には惹かれるところもあり、彼女の感性とメゾンのせめぎ合いを見守ってきました。  迎えた今季。3枚のスクリーンに映し出されたパリの空と街に佇むモデルは、芸術的なコラージュを織りなす。日常をテーマに掲げるブランドは多くあれど、それをアーティスティックに高め、女性の「神秘性」を鮮やかに抽出したのはナターシャの真骨頂でしょう。パレ・ド・トーキョーに現れたモデルは、現代の女神のようでした。

目を引いたのは極めてさりげないルックでした。一見オーソドックスなスタイルを、クロエらしいやわらかく温かなカラーパレットで。けれどそれをまとうのは、ニンフのようなモデルではありません。女神アテネを彷彿させる、囲みアイメイクのキャロライン・ポラチェク。ミュージシャンである彼女は、シャツを無造作にアウトし、自由な精神を醸し出す。襟や胸元はお守りのようなチャームでピアッシング。エフォートレスなムードと、パンク魂が絶妙に溶け合っていました。

反骨心はゆるぎないが、どこか軽やかな女性。2020年、自身のあり方を悶々と模索していた私にとって、曖昧に思い描いていた理想がくっきりと像を結んだ瞬間でした。気高くも威圧的ではない。来たる「風の時代」にも共鳴する「女神像」を、ナターシャは授けてくれたのです。

エディター NAMIKI

並木伸子●ジュエリー&ウォッチ担当。フィービー・ファイロ時代のクロエのニットドレスを15年くらい着ている。

デザイナーのルーツを旅する

デザイナーの頭の中を旅する感覚になる服が好きです。ジャマイカ系イギリス人デザイナー、グレース・ウェールズ・ボナーによる、WALES BONNERの服はまさにそう。「Lovers Rock」と題された昨シーズンでは、70年代のロンドンが着想源。レゲエ、ダブ、ラヴァーズ・ロックのシーンから影響を受け、誠実にカルチャーと向き合いリサーチした彼女の脳内マップを垣間見るようなラインナップに心奪われました。そのコレクションが発表された時期くらいから、ファッションと同じようにチェックしている新譜のダンスミュージックの傾向がダブに寄っていることに気がついたんです。そのムードとも重なり「こんな服が着たい!」と胸が高鳴りました。待望の春夏コレクションでは、80年代初頭のジャマイカのダンスホールミュージックの起源を考究したとのこと。そこには、ステッチがきいたセットアップ(個人的に欲しい!)や、ジャマイカの国旗を彷彿とさせるニットトップス、クロシェ使いが印象的なトラックスーツ、Adidas Originalsとのコラボレーションの第2弾も。彼女のルーツへ思いを馳せ、脳内で旅するのは、押しつけがなく、心地いいんです。

また、新たな発見があったのは、ジャマイカで撮影されたオリジナルフィルム「Thinkin Home」でした。豊かな自然と鮮やかな街並みに浮かび上がる、WALES BONNERをまとったユースたちの肖像。そこで、「日常に溶け込むモード」とは何かについて再解釈することができたことも、今シーズンの大きな収穫でした。

エディター TAKEUCHI

竹内彩奈●ファッション、カルチャーの交差する服が好き。それでいて、女性らしいバランスを日々模索中。

ファンタジーと生きる

 こんな状況だからこそ、心の奥に大事にしている自分の世界を忘れずに。今季のロックからはそんなエモーショナルなメッセージを受け取りました。ショーの配信が始まると「ストレンジャー・シングス」(’16〜)を彷彿とさせる不穏なサウンドとともに、霧の向こうからファーストルックがぬらりと出現。ゴシックな黒のドレス、ハードなレザーハーネス、ヴィクトリアンなビッグカラーを見た瞬間「好き〜!」と叫びそうに。これまで硬い素材や直線的なテーラリングがデザイナー・Rok Hwangらしいと思っていたのですが、今季はそこに"闇"な甘さがひとさじ加わり進化しているぞ! と。カッティングや装飾のシャープさと、シフォン素材や膨らむバルーンスリーブの可憐さのミックスがまさに今の気分でした。LAのアーティスト、パーカー・ジャクソンのペイントを配したドレス(8)の写実的なユーモアにも思わず笑みがこぼれます。着想源となったのはデザイナーが観たティム・バートン作品や映画『E.T.』(’82)と聞いて、納得。ロケーションもまるで火星のようで、画面越しにSFファンタジーの世界にトリップしたようなランウェイでした。テーマとして掲げられた「Night Wanderer」という言葉も好きです。幼い頃、夜になると自分が不思議と強くなったような気持ちになること、ありましたよね。それぞれのイマジナリー・ワールドを肯定しながら、現実を闊歩する強さを。このショーからはそんな勇気をもらった気がしたんです。実際に袖を通せる日が楽しみです!

エディター SAKURABA

桜場 遥●ボリューム靴、白ブラウスが好き。今年はロングブーツに挑戦してみたい。休日はドラマを観ている。

ニューノーマル時代の防護服

パンデミックにより、家族や知人との直接的なコミュニケーションが制限され、外界との関わりが激減した2020年。私自身、ひとりで過ごす時間が増え、外出を控える毎日。ふと気づけば、「新たに挑戦しよう!」という気持ちがなくなっていることに気づきました。クローゼットの上澄みにある数着の服を着回し、同じメイクアップをする日々。そんな鬱々とした気持ちを一気に吹き飛ばしたのが、奇才、Charles Jeffrey LOVERBOYでした。「THE HEALING」と名付けられた今季のコレクション。激動の時代をともに駆け抜けた私たちを勇気づけるような力強い衣装がずらりと並びます。ティム・ウォーカーが撮影したルックの中でもひときわ、エネルギッシュな輝きを放っていたのは、体を包む「鎧」のようなボディスーツ。デザイナーのチャールズ・ジェフリーの故郷、スコットランドの伝統衣装に着想を得たものです。植物や動物、あらゆる生物へのリスペクト、そしてパンデミックを乗り越えた先にある未来への期待を針にのせ、願いを込めた言葉とモチーフが刺しゅうされています。まさに、ニューノーマル時代の防護服! それは、まとう人を保護するだけでなく、目撃した人の心をも満たすことができるのだ、と強く実感しました。突如訪れた逆境をポジティブに捉え、固定観念に縛られず、情熱がほとばしるようなクリエーション。ファッションってやっぱりこうでなくっちゃ!と思うんです。忘れかけていたチャレンジ精神がメキメキと復活する音が聞こえてきませんか?

エディター HORIE

堀江ともみ●欲しいのはパワフルでユーモアある服。ひとり過ごすおうち時間の相棒は実家の柴犬風ぬいぐるみ。

光と風を感じる新・日常服

かつての「ノーマル」や「スタンダード」といった概念が実は絶対的なスタイルではなく、とても個別的なものなのだと理解できたこと。これが激動の2020年の、最も大きな収穫でした。私の場合、ファッションにおいては、「日常の可能性を広げる」ことがスタンダード。その点で今季、最も刺激を受けたのはJANE SMITHのルック。2014年のデビュー以来、マスキュリンなミリタリーアイテムやパンツの一ファンでしたが、2021年春夏は特に新しい「風」を感じたのです。建物の窓枠をはずし、内側と外側にストライプ柄の布を吊した、ダニエル・ビュランのインスタレーションから着想を得たテーマは、「WITHIN AND BEYOND」。オーバーサイズのシャツやミリタリージャケット、ストレートのパンツなど、ブランドらしいベーシックアイテムを基盤にしつつ、ブルーやカーキグレイ、アイボリーといった明るくやわらかな発色がまさに出色! 窓を開け放ち、光や風をスーッと通すような気持ちよさとでも言いましょうか。加えて、透ける素材のトップスやレギンスを重ねて、シャツの袖口やパンツの裾からチラッとのぞかせる提案も心憎い! 聞けばそこにもデザイナーの「境界線をなくしたい」という思いが込められているそうですが、その情熱をリアルに着地させている点が今、実にうれしい。たとえ非日常にトリップできなくても、日常を新鮮に、心地よくすることができる。それこそが服の持つ根源的なパワーなのだと、改めて教えてくれたコレクションです。

エディター KOMATSU

小松香織●好きな言葉はコンフォート&リラクシング。服には、ゆるさに偏りすぎない粋や洒落を求める。

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