#4 夢をもって毒を制す逃げ場としての「ガーリー」

性別や年齢にとらわれず誰もが「ガーリー」を楽しむ時代。ロマンティックな服が、不安な社会で果たす役割とは?

1 冷静さと爆発、実用性と予知がテーマ

2 モデル全員にチュールのマスクを合わせた

3 ロンドンベースの中国人デザイナー。東西の文化をミックスした繊細なレイヤリングスタイルを特徴とする

4 バルーンスリーブのドレスは、プロヴァンス風のポプリン素材

女らしい、男らしいという概念が消失しつつある現代社会で、「ガーリー」という言葉は「少女らしい」という本来の意味を超え、可愛らしく、夢にあふれたロマンティックなスタイルの総称になっていくように思う。ファッション撮影でも男性モデルがドレスを当たり前のように着こなす機会が増えてきた。おばあちゃんでも青年でも、年齢やジェンダーにとらわれず誰もが「ガーリー」を自由に楽しめる時代の到来だ。

コロナ禍でリアルクローズに立ち返るブランドが多いなか、ガーリーなムードもますます元気だ。ラッフルやレースをふんだんに飾り、バルーンスリーブとフレアでボリュームを出す。儚さとは無縁な、意志を感じるロマンティシズム。現実から積極的に逃避する、楽園としての服だ。たとえば近年の「エキセントリック・ガーリー」の火付け役であるシモーン・ロシャ(1)。いつもの丸いシェイプのチュールコートに、刺しゅうで「今人々が求める、現実逃避のための遠い城」を描いた。同じくロンドンベースのボラ・アクス(2)は、第一次世界大戦期にかつてない規模で社会進出することとなった女性にフォーカス。特にパンデミックや負傷者への対応のため最前線に立たされた看護師のユニフォームと、終戦後、大衆文化が繁栄した1920年代の軽やかで優雅な装いの対比に着想した。ふたつの要素を融合し、甘やかななかにも困難に立ち向かう意志を感じさせるスタイルを構築。ロンドンの若手、ユハン・ワン(3)は、パワフルな女の悪魔が登場する18世紀の寓話を出発点に、中国の伝統文化をモダンに昇華。ドレープを多用した流線的なピースにも、凛とした強さが漂う。エッセンシャルワーカーとして働く女性たちへの連帯と敬意を表現したという。パリのパトゥ(4)は、ドレスにブラウスなど複数のピースを重ね、驚くほど大胆なボリュームを創出。ギョーム・アンリは「こんなときだからこそファッションの喜びと愛を伝えたい」と語る。

コロナ禍を経た社会において、ガーリーな服をまとうことで得られるエスケープを提供する。それは不安な現実と折り合いをつけながらも生き抜くためにデザイナーが差し出した、「処方箋」なのかもしれない。

エディター ITAGAKI

板垣佳奈子●背景にファンタジーな広がりと物語のある服をいつも探している。最近はクラフト感のあるアイテムに注目。

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