この夏3度目の熱波に見舞われていたパリで開かれた、2026年秋冬オートクチュール・コレクション。中でも際立っていたのはディオール、シャネル、そしてバレンシアガだ。いずれも奥が深く卓越したコレクションだったが、それぞれのクリエイティブ・ディレクターのアプローチの違いが浮き彫りになった。ここで紹介するのは、バレンシアガ。ショーレビューに洞察を加え、数々の逸話を交えつつお届けする。

【バレンシアガ】 ピエールパオロ・ピッチョーリの初クチュールコレクション

この夏3度目の熱波に見舞われていたパリで開かれた、2026年秋冬オートクチュール・コレクション。中でも際立っていたのはディオール、シャネル、そしてバレンシアガだ。いずれも奥が深く卓越したコレクションだったが、それぞれのクリエイティブ・ディレクターのアプローチの違いが浮き彫りになった。ここで紹介するのは、バレンシアガ。ショーレビューに洞察を加え、数々の逸話を交えつつお届けする。

INDEX

ルックの見せ方や順番にもメッセージを込めて

ピエールパオロ・ピッチョーリがクリエイティブ・ディレクターになって初めてのオートクチュール・コレクションなことから、前評判も高かったバレンシアガ。デムナの時代から年に一度、夏のみの発表となり、今回は55回目を数えるオートクチュールのショー。彼が見せたのは、職人たちの手仕事を何よりも大切にする従来の姿勢と、素材開発やフォルムの探究、そしてときには厳格なまでのシンプルさと贅を尽くした装飾性を融合させた、モダンクチュールだ。

ピエールパオロはファーストルックから、アイデアを明確に打ち出した。クチュールTシャツとも言えるシルクのダッチェスサテンのトップに合わせたのは、チノパンやサファリジャケットを思わせるベージュのワイドパンツ。シルクガザールで仕立てたバルーンシルエットのジャケットには、全面にフェザーの刺しゅうが施されている。ルックの順番も、彼にとっては大切な表現の一つ。美しい色彩、趣向を凝らした素材によるアイテムのいくつかは、少し後に続くルックでは同じデザインを黒で見せ、視線をフォルムにフォーカスさせた。

 【バレンシアガ】  ピエールパオロ・ピの画像_1

バレンシアガのファーストルック。“サンセットレッド”のジャケットは、ニュートラルカラーでシンプルなデザインのトップとボトムとは対照的に、まるでオブジェのような完成美。Photo : Courtesy of Balenciaga

 【バレンシアガ】  ピエールパオロ・ピの画像_2

ルック14はギャバディンで仕立て、表面全体にフェザー刺しゅうを施したトレンチコート。薄いカフェオレカラーにミントグリーン、足元にはカラシ色という思いがけない色彩のセンスも実にピエールパオロらしい。Photo : Courtesy of Balenciaga

 

 【バレンシアガ】  ピエールパオロ・ピの画像_3

前述のトレンチコートにズームイン。大きな野生の鳥、エミューの羽はまるで松の葉のよう。Photo : Minako Norimatsu

 【バレンシアガ】  ピエールパオロ・ピの画像_4

ルック14のトレンチコートをルック24ではウールとシルク、レザーを合わせて黒で統一。一方フェザー刺しゅうはワイドパンツに施された。手の込んだ刺しゅうを敢えて見え隠れさせることも、ピエールパオロが意図したところ。Photo : Courtesy of Balenciaga

戸外の会場は、パリ国際大学都市(Cité Internationale Universitaire de Paris)の正面中庭(Cour d’Honneur)の芝生スペースの周りに、円を描く形で設置された。フィナーレではピエールパオロが職人たちを従えて登場。全員が白衣姿だったことはいうまでもない。

新しい技術や素材を導入したモダンクチュール

フォルムの構築性の秘密は、見えないところに秘められている。カシミアのテーラードコートやドレスがモデルの体に完璧に添いつつ、極めて軽やかに見えるのは、内側からレザーの構造で支えられているから。着用者それぞれの体を3Dデジタルスキャンし、体型だけでなく姿勢も鑑みて形作った、まるで柔軟性のある鎧のような裏打ちなのだ。見えない部分での革新性で言うと、特筆すべきはエーエムシルク(AMSilk)。バイオエンジニアリング(ここでは微生物による発酵技術)で作ったタンパク質を素材とした、再生可能なシルク代替素材である。天然のシルクやクモの糸を使用しないことから、ヴィーガンシルクとも言われる生地の分子構造はクモの糸に近く、その引張強度はスチールの約2.5倍だとか。
また、ピエールパオロが2026年春夏のデビューコレクションで表地に使用したネオ・ガザールは、今回服の内側の構造にも用いられた。ちなみにオリジナルのガザールは、メゾンの創始者クリストバル・バレンシアガが1958年にスイスのテキスタイルメーカー、アブラハムと共同開発した、2本どりの糸を撚ることで軽やかさに張り感を加えたシルク。ネオ・ガザールでは、フォルムの型作りに適しているという特性はそのままに、コットンを加えてやや柔軟性を出した。
「探究し、試み、そして記憶を辿りました。(…)これが、今のバレンシアガ クチュールです」と、ピエールパオロ。この姿勢は、今後もクチュールだけでなく、バレンシアガの新たな指標となるだろう。

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横から見ると構築性が顕著な、ウールとシルクのジャンプスーツ内側はレザーの構造で支えられている。Photo : Courtesy of Balenciaga

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ルック8は、オーガンザとプリントのシルクガザールを繋ぎ合わせたビスチェドレス。シンプルなシルエットをドラマティックに見せるのは、絶妙な塩梅のボリューム加減。Photo : Courtesy of Balenciaga

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ルック8にズームイン。プリント地に一つ一つ縫い付けられているモチーフは、シルクサテンで仕立てた羽根。Photo : Minako Norimatsu

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クリストバル・バレンシアガが発明したコクーン・シルエットをピエールパオロ流に解釈したカシミアのコートに、オーストリッチの羽根を刺しゅうしたウールのパンツ。Photo : Courtesy of Balenciaga

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花モチーフの刺しゅうをあしらったシルクオーガンジーのヴェールと、シルクウールのパンツには、オペラグローブを合わせて。Photo: Courtesy of Balenciaga

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/