すぐ隣のダイバーシティ。多文化スクール物語

さまざまなバックグラウンドをもった人たちがともに生活を営み、多様な言語が飛び交うのが日常の光景になってきた。個々がカルチャーを生み、「多様性」という言葉は東京の街にふさわしい。それは、学校というコミュニティに凝縮されている。

ファッションの発信地、東京を代表する名門が代々木にある。1919年に洋裁学校として創立して以来、山本耀司、髙田賢三、コシノヒロコ、皆川明など、多くの偉人たちを輩出してきた文化服装学院だ。この街とともに国際化し、現在は約950人もの留学生が学ぶ。

今回、6名の文化生が、各々のルーツにまつわる伝統服を軸に、モードを融合したストーリーを紡ぐ。母国の誇りを忘れずに、切磋琢磨しながらファッションの未来を見つめている彼らに、東京と自身のルーツについても語ってもらった。よりよいカラフルな世界は、彼らの手の中にある。

※年齢、所属は2020年3月現在

Chie Yanagawa/柳川千恵さん

すぐ隣のダイバーシティ。多文化スクール物の画像_1

Nationality  : 日本
Age  : 20歳
Dept  : ファッション流通科ショップスタイリストコース

私は神奈川県の厚木市で生まれ育ちました。本当はこの春卒業でしたが、雑誌が好きで、編集に携わりたいと思い、出版関係に進むことを考える時間が必要で、3 年に進学することに。東京はやりたいことは何でもできて、はやっているものがわかりやすい街。でも、文化生はそれぞれのファッションを楽しんでいるのがいい。私は母や父の昔の服をよく着るようになったかな。今年迎えた成人式で、母の振り袖を着る予定だったけれど、サイズが合わなかったので一式新調し、母から譲り受けた髪飾りをつけました。祖父母から両親へ、両親から私へと受け継がれるものがある。その大切さを感じています。

祖母の手編みのセーターは母のおさがり。チュールにゴールドの刺しゅうが華やかなトップスを重ねて、セーターをドレスアップ。ボトムにボリュームをもたせ、ドリス ヴァン ノッテンらしい折衷的なムードをまとって。

ニットトップス/本人私物 チュールトップス¥74,000・ドットスカート¥133,000・ジャカードコート¥222,000・下に着たローブコート¥131,000・サンダル¥91,000/ドリス ヴァン ノッテン

Nikita Eroshenko/ニキタ・エロシェンコさん

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Nationality  : ロシア
Age  : 19歳
Dept  : ファッション流通科

5歳のときに、ロシアから東京に来ました。ハバロフスク出身だけど、中身は完全に日本人。日本食や神社が好きだし、東京の下町が落ち着く。ハバロフスクは日本に近く、きれいな街並みなのに、路地裏に入ると急に危ない雰囲気が漂っていて。そのスリルとコントラストに惹かれる。文化には双子の兄と一緒に入学しました。半年前にモデルを始めたのをきっかけに、今しかできないモデル業に専念したいと思い、今後どういった道に進むか考えているところです。これまでの撮影を通して、スタイリストという職業に興味が湧いてきたので、将来は世界で活躍するスタイリストを目指したいな。

襟元の刺しゅうと、長い丈が特徴の男性用ドレスは、歴史が深い祖国の伝統的なデザイン。ノスタルジックなドレスと、現代のモードを牽引するバレンシアガ。そのミックスマッチが新しい。

シャツドレス¥47,000/ライラヴィンテージ ジャケット¥327,000・中に着たシャツ(参考素材)¥75,000(参考価格)・デニムパンツ(参考商品)・靴(参考素材)¥81,000(すべてメンズ)/バレンシアガクライアントサービス(バレンシアガ)

Dominika Szmid/ドミニカ・シミッドさん

すぐ隣のダイバーシティ。多文化スクール物の画像_3

Nationality  : ポーランド
Age  : 28歳
Dept  :Ⅱ部服装科

日本に興味をもったきっかけは、幼い頃テレビで観た「ドラゴンボール」。来日当初は、語学教師として働いていましたが、ファッションを学びたくて文化に入学。夜間のクラスに3年間通い、この春に卒業しました。今はクリエイティブエージェンシーで働きながら、スタイリストを目指しています。故郷のポーランドでは、日本ほどファッション業界が発展していなくて。かつて社会主義だったので、洋服に使用できるアイテムが限られていたという背景もあり、服装はシンプルです。東京は行く場所によって、ファッションが変わる印象。新しい物を上手に取り入れているのも、面白い!

ポーランドは赤碧玉の産地で、民族衣装のベストにも赤い石の装飾が施されている。ヴァレンティノのパフスリーブとショーツに、フリンジがアクセントのベストをスタイリング。あえて前後逆に着れば、彼女らしいマスキュリンなスタイルが完成する。

前後ろ逆に着たベスト/駐日ポーランド共和国大使館所有 シャツ¥178,000・ショートパンツ¥402,000(ともにヴァレンティノ)・ベルト¥55,000(ヴァレンティノ ガラヴァーニ)/ヴァレンティノ インフォメーションデスク

Gwanho Eun/グァンホ・ウンさん

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Nationality  : 韓国
Age  : 27歳
Dept  : ファッション工科基礎科

韓国の美大でファッションデザインを学び、さらに専門知識を深めるため、文化でウィメンズウェアを学んでいます。東京は3年目で、人は多いですが街がきれい。日本人はファッション感度も、美意識も高い。韓国は比較的みんな同じような服装をしていますが、東京はそれぞれ個性があって面白いです。今は高円寺に住んでいるんですが、古着が大好きで、韓国でも日本でも古着店巡りが趣味。90年代ファッションに興味があり、ヘルムート ラングや、ツモリチサトの世界観に惹かれます。卒業後はパタンナーとして、日本で働きたい。そして、ゆくゆくは自分のブランドをもちたいですね。

若い世代のハンボク離れが深刻化しているなか、腰につける装飾品“ノリゲ”をアクセサリーとして、現代の洋服に取り入れた。稀少な美術品を、ミニマルなジル サンダーのフリンジニットに装飾。韓国の伝統的なお面を着想源にしたポイントメイクが、モダンなムードを演出する。

ノリゲ(右)¥80,000・(中下のタッセルつき)¥36,000・(中上のモチーフ・左のタッセルつき)(ともに参考商品)/パランセ ベスト¥126,000・パンツ¥86,000(ともにメンズ)/ジルサンダージャパン(ジル サンダー) ピアス/本人私物

Maryam Eslami/マリヤム・エスラミさん

すぐ隣のダイバーシティ。多文化スクール物の画像_5

Nationality  : イラン
Age  : 20歳
Dept  : ファッション流通高度専門士科

イランのテヘランで生まれ、6歳のときに日本に来ました。イランのアートや色使い、特に幾何学模様や植物をモチーフにした、伝統的なアラベスクが好き。いつかはそういった母国の伝統芸術を現代の服に取り入れたブランドを展開したいと思い、ファッションを学び始めました。今はファッションの基礎を学びながらモデルをしていますが、私が尊敬しているメイクさんが「モデルは演じる力が大切」と言っていたのが心に響き、女優業にも挑戦したいと考えています。シティライフも楽しいけど、自然が好きなので小田原などにも足を運びます。少し離れれば自然に触れられるのも東京の魅力だと思う。

イランでは、女性は人前で髪の毛を隠すことが義務づけられている。それを逆手に、スカーフでヘアアレンジを楽しみ、ファッションを謳歌するのが彼女たちのおしゃれ心。ビッグショルダーがモダンなシルエットを生むネイビーのブラウスに、ロイヤルブルーのエルメスの丸いスカーフで、モードなヘアアレンジ。少し髪を見せてゆるく巻くのがイラン流。

頭と首元に巻いたスカーフ 各¥163,000・スカーフリング¥36,000/エルメスジャポン(エルメス) ブラウス¥75,000・パンツ¥39,000/KALMA ピアス/本人私物

Sena N’Singi/セナ・シンギさん

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Nationality  : カナダ
Age  : 21歳
Dept  : ファッションテキスタイル科

自然豊かなカナダのオタワで生まれ育ちました。母はケニア、父はコンゴ出身。母はケニアの伝統柄の服をよく着ていて、父はスーツが多いのですが、胸元のポケットにさりげなくアフリカンなハンカチーフを忍ばせたりと、両親ともに母国の伝統を現代風にアレンジして取り入れています。文化ではテキスタイルを学んでいて、カラフルなファッションが好き。高校生のときに観たドキュメンタリーフィルムをきっかけにサステイナブルファッションも意識するようになりました。東京は古着カルチャーが盛んなので、素晴らしい! 卒業後は地球にやさしい、自分のブランドをやりたいです。

母からもらった、ケニアのワンピース。ネイビーに白のフェザー柄が刺しゅうされたプラダのコートと、小さい頃から踊っているアフリカンダンスでハッピーオーラをまとって。中に着た黒のシャツと、厚底靴で全身を引き締め、装いをモダンに昇華。赤いカラーマスカラとシルバーのボディペイントで、遊び心も忘れずに。

ワンピース/本人私物 コート¥744,000・中に着たシャツ¥105,000・靴¥139,000(すべて予定価格)/プラダクライアントサービス(プラダ)

SOURCE:SPUR 2020年6月号「多文化スクール物語」
photography: Masato Kawamura styling: Tomoko Kojima hair: Nori Takabayashi〈YARD〉 make-up: UDA〈mekashi project〉 edit: Kaeko Shabana cooperation: Bunka Fashion College