ファッションの未来を創るものは何だろう!? 新世界IN&OUT討論会

ファッション&カルチャーの最前線で活動するプロたちは、コロナ禍の現状を、そして未来をどう捉えている? それぞれの分野の注目すべき動向を、座談会形式で徹底的に討論。誌上で紹介しきれなかった内容は、SPURのYouTubeチャンネルで公開!

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ファッションプロの「これからのモードの話をしよう」


PANELISTS

Rie Shiraishi
白石理絵●ヘアメイクアップ・アーティスト。主に国内外の雑誌や広告で活躍。革素材の服が好きだが、最近はヴィーガンレザーを選ぶように。
Ayami Yamanobe
山野邉彩美●トゥモローランド バイヤー。販売スタッフとして店頭に立つことも。色や柄を駆使した私服スタイリングは業界内外にファン多数。
Itoi Kuriyama
栗山愛以●モードを愛するファッション・ライター。外出自粛期間中に手持ちの服の断捨離を試みるも、ひとつも手放す気になれず断念したとか。
Shunsuke Okabe
岡部駿佑●ファッション・エディター。ジュエリー&ウォッチにも詳しい。この日はもっかのお気に入り、ボッテガ・ヴェネタのトップスを着用。

 

TALK ROOM 1 ファッションプロのこれからのモードの話をしよう

――パンデミックを経た世界において、ファッションやビューティはどうなっていくのでしょう。まず、アイテムの販売方法や情報発信方法は、どのように変わっていくと思いますか?

山野邉 間違いなく言えるのは、オンライン化の加速ですね。SNSでのコミュニケーションも、ますます活性化すると思います。トゥモローランドでも、外出自粛期間中にインスタグラムのライブ配信機能を使って情報発信していました(1)。私も発信する側に立ちましたが、実店舗での接客とオンラインでのコミュニケーションで、意外とお客さまの反応には差がなくなってきていると感じました。リアルとデジタルの融合が、ますます洗練されていきそうです。
岡部 僕はもともと実店舗至上主義だったんですが、この自粛期間中、まんまとオンラインショップの虜になりました(笑)。とはいえ、すべてがオンラインで完結するとは思えなくて。実店舗はある種のショールームであり、サロンのようなもの。それを保ったうえで、いかにオンラインとスマートに共存していくのかが課題になるのかなと思います。
栗山 インテリアを含め、お店の空間を味わうことで気分が高揚させられる。そういう体験はオンラインではなかなかできないですよね。
山野邉 商品は、人から人へ渡るもの。体験や接客といったサービスを提供することで、商品にさらに価値が生まれる。そういう付加価値のつけ方は、ショップもそうですが、販売スタッフ個人にとっても今後の課題になるのかなと思います。商品知識があることはもちろんですが、その商品にまつわるストーリーを、いかに自分の言葉で伝えるか。私もこの自粛期間にすごく考えました。
白石 ビューティに関しては、お店や販売カウンターは最初からアイテムを試すための設計になっているので、よりダイレクトに新型コロナウイルスの影響を受けています。ファッションのリアル店舗と同様に「その空間にいるのが楽しい」というショールーム形式に再構築していく必要がありますね。QRコードでの商品説明、チャットでの接客サービスなどもどんどん広がりそう。自粛期間は、オンラインでメイクアップのライブ配信をしていたブランドも多かったですが、逆に今まで以上にわかりやすかったりリアリティがあったりして、購買につながっていたようです。こういった試みはコロナ終息後もこのまま増えていくんじゃないかな。あと、AIによるサービスはこれから絶対に増えると思いますね。インスタグラムのフィルターみたいに、顔をかざすとメイクアップした状態が見られたり。「あなたの肌に合うのはこのアイテム」と教えてくれる、パーソナル診断も増えるかもしれません。
栗山 科学的に「これがあなたに合う」と言われると、なんだか効きそうな気がしますね。

1 トゥモローランドのインスタライブの様子。フォロワーとスタッフがオンラインでやり取りを

――デジタルとフィジカルの融合、「フィジタル」という言葉も生まれましたが、この点は今まさに進化の過程にありますよね。ファッションウィークも、今はいろいろな制約がある中でデジタル開催されていますが、現時点(7月15日)で印象に残ったプレゼンテーションは?

栗山 どのブランドもそれぞれに工夫を凝らしていて、面白いものもたくさんあるけれど、やっぱり実際のショーを生で見て、現場の空気を感じたい。ファッションの楽しさをリアルに感じたいと、この状況でますます思いますね。
岡部 正直、今回はあくまでトライアルシーズンなのかなと思っています。そんな中でエルメスのメンズのライブパフォーマンスは、デジタルならではといった感じで素敵でした(2)。普段は見られないバックステージの様子が長回しで撮影されていて、すごく臨場感がありました。効果的な映像の使い方だな、と。
栗山 プラダは、最後にミウッチャさんが出てきて挨拶したのが印象的でした(3)。5人のクリエイターとコラボレーションすることで、ただカッコいい映像を作って流すだけじゃなく、ショーが開催できない中で自分たちのやっていることをしっかり俯瞰している感じが伝わってきました。最後の挨拶には、ミウッチャさん流のユーモアが感じられて、なんだかほっこりしましたね。

©Raffard Roussel
2 ライブ感あふれるエルメス2021年春夏メンズ・コレクションの映像
Courtesy of Prada
3 ミウッチャ・プラダ単独としては最後のコレクションとなったプラダ

 

――今、世界を取り巻く状況がいまだかつてないスピードで変化しています。そんな中で、どういうスタイルが今後の主流になっていくと思いますか?

白石 3つのアティチュードが気になっています。ひとつは懐古主義者。古着などを着ることで、昔のカルチャーのよさを今の自分に落とし込んで取り入れるというもの。2つ目はアクティビスト。着ることによって自分の主張したい精神や気持ちを表現すること。ディオールのスローガンTシャツがまさにそうですね。そして3つ目はナチュラリストで、サステイナブルなものを選ぶこと。その3つの大きい柱があって、場合によってミックスされたりするのかな。
栗山 その3つだと、私自身はアクティビストですね。でも世の中のムードとしては、懐古主義とナチュラリズムが大きくなっていくんだろうな、とは思っています。着ていてリラックスできる、そしてサステイナブルである、といったスタイルが時代の主流になるのではないでしょうか。
岡部 今、上から押しつけたようなトレンドは、どんどん存在価値をなくしている。これからはなおさら、自分らしさが大切になってくるのでは。「こういうシルエットって自分の体型に合うんだよね」とか「この色、とにかく好きなんだよね」といった、自分らしさを反映したスタイルがもっと増えていくのかなと思っています。

 

――今のような時代の変わり目には、いわゆるゲームチェンジャーと呼ばれる存在が出てくることが多いですが、そういった意味で注目している対象は?

栗山 やはりマリーン セルですね。3年前のデビュー時からすでに、サステイナブルであることを当然のことと考えていて、しかもそれをわざわざ声高に言うことなく実行している。彼女のコレクションにはいつもディストピアのムードが流れていて、今季もマスクを取り入れたルックを発表しています(4)。ショーでは素敵だけど日常生活で着用するのは難しいと思っていましたが今は絶対にあのマスクが欲しいと思っているくらいです。先見の明があったんだなと思うし、クリエーション自体もあくまでクールで、「着てみたい」と思わせるものなのが素晴らしい。彼女が次に何をするのか、引き続き注目していきたいですね。
岡部 1017 アリクス 9SMのマシュー・M・ウィリアムズも、環境問題に対して非常に意識の高い次世代デザイナーのひとり。ひと昔前のサステイナビリティって、ちょっと土臭いというか、オーガニックで色気のないイメージがありましたが、それとある意味で対極をなすようなスタイルを打ち出している。マシューは先日、ジバンシィのデザイナーに任命されました(5)が、彼のようなデザイナーがこれからもっと存在感を増してくるのかなと思っています。また、アレッサンドロ・ミケーレ率いるグッチは、これまで最大で年間5回開催していたショーを年2回に集約すると発表しました。常に拡大を目指してきたファッションの世界で、規模を縮小する方向に舵を切るのはとても勇気のいること。ビッグメゾンでいち早くそれを宣言したことを、心から尊敬します。
白石 ビューティアイテムは肌につけるものなので、廃材を使うというのはファッション以上に難しい面があります。ロンドン発のアップサークルは、コーヒーかすなどを再利用してスキンケア製品に生かしているのがすごい(6)。資生堂のバウムは、森の植林活動をしていたりと、商品を通して資源を循環させる必要性を訴えています(7)。そして今いちばん注目しているのが、ごみ問題の解決をミッションとするスタートアップ企業、テラサイクルが新しく始めた「ループ※1」という事業。再利用可能な容器で化粧品や食料品を販売し、昔ながらの牛乳瓶方式で容器を回収して、また中身を入れて再配達してくれるというシステムです。いくらエコ原料を使っていても、パッケージ自体はどうしてもごみになってしまうという問題に取り組んでいて革新的です。
山野邉 無印良品でも給水サービスとマイボトルの販売を始めましたね(8)。私は、今回のパンデミックで、自分の生活に沿った物の選び方を重視する人が増えていくのではと思います。先日、世田谷美術館の『作品のない展示室』に行ったんです(9)。そこに建築家の内井昭蔵さんの「美術とは生活空間のなかにあってはじめて生きるのではあるまいか」という言葉があってハッとしました。原点に帰るというか、ファッションは、店舗はどうあるべきなんだろうと改めて考えさせられました。ファッションもビューティも、アートも食も、まず生活があって、その上で全部がつながっている。そう考えるきっかけになりましたね。
※ 1 日本では首都圏の一部地域で2020年10月スタート予定


4 マリーン セル2020-’21年秋冬にはクリスタルを縫いつけたマスクが!
SHOT BY PAOLO ROVERSI
5 マシュー・M・ウィリアムズはジバンシィの新デザイナーに就任
6 2015年にスタートしたビューティブランド、UpCircle(アップサークル)。コーヒーや紅茶を抽出した後に残るかすを、フェイススクラブなどの原料として再利用
7 資生堂の新ブランド、BAUM(バウム)。パッケージには繰り返し使用できる木製パーツを採用し、循環性とプロダクトとしての美しさを両立
8 無印良品はプラスチックごみ削減のために店頭での給水サービスを開始。自分で詰める水のボトル(写真)は330㎖サイズ。持参の水筒に入れることもできる
9 世田谷美術館『作品のない展示室』(〜8月27日)。何もない展示室を公開し、美術館のあり方を問うた

SOURCE:SPUR 2020年10月号「新世界IN&OUT討論会」
photography: MELON〈TRON〉 text: Chiharu Itagaki movie:Ko Tatsushi<zona inc.>

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