20代の頃、母から一足のホースビット ローファーを譲り受けた。艶やかなブラックレザーのアッパーの上できらりと存在感を示す、ゴールドトーンのハードウェア。ふたつのリングとバーを組み合わせた端正なそれは、馬具の「くつわ」をモチーフにしたものなのだと、そのとき母が教えてくれた。「馬たちは日々、こんな洗練されたものをくわえて暮らしているのか」と感心しかけたのだが、よく考えたらそういうことではなかった。本来なら人の目にほとんど触れることのない馬の道具を、誰もが憧れるファッションアイテムへと昇華させた、グッチの発想がすごいのだ。馬具にルーツを持つラグジュアリーブランドならではの矜持に初めて触れ、そのときはいたく感動したのだった。
乗馬の世界に着想を得たグッチのアイコン、ホースビット ローファーが誕生したのは1953年。時代とともに再解釈を重ね、アップデートを繰り返しながら、現在もなお世界中の人々に愛され続けている。これぞまさに、進化するヘリテージ。「ホースビット1953」誕生70年の節目となった今年、ファインジュエリーとして新たな命が吹き込まれた。古希祝いにふさわしい、18Kゴールドのリュクスな輝きを湛えて。
ネックレスやブレスレット、時計などが幅広くラインナップするなか、力強いインパクトを与えるのが「グッチ ホースビット リング」。アール・デコを彷彿させる幾何学的で複雑な意匠には、ホースビットが巧みに組み込まれていて、ひとめ見た瞬間にぐいと引き込まれた。しっかりボリュームがあると同時に、リズミカルで軽快。装着すると、手もとに小気味良くパンチを効かせる。クラシックなホースビットを用いながらも、コンテンポラリーな趣に仕上げるさじ加減が秀逸だ。熟練のクラフツマンが一点一点受注生産で作り上げた、緻密で美しい造形に惚れ惚れする。
イエローゴールドのぬくもりある質感が、秋冬の手もとに映えるのは一目瞭然。厚手のローゲージニットにも負けない迫力があり、これひとつで装いをモードに引き締めるぐらいの存在感がある。それでいて確かな品格も兼ね備えているのは、長年ブランドのシグネチャーとして親しまれてきたホースビットだからこそ。経験を重ねた大人の手にしっくり馴染む、貫禄と知性をも醸し出す。ブランドのDNAへのリスペクトを感じられる、伝統とモダンが融合した逸品。懐かしいのにハッとするほど新鮮で、ジーンズのようなラフなスタイルでも、着こなしの格を高めてくれる。これが、歴史を積み重ねたものだけに宿るパワーなのだろうか。時を超えて愛されるものには理由があるのだなと、このリングを見ているとしみじみ感じさせられる。
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