ピエール・アルディに聞く、エルメスの「オート・ビジュトリー」という際限なきファンタジー

「オート・ビジュトリー」、それはエルメスが創り出すジュエリークリエイションの最高峰。デザインを手がけるのは、ピエール・アルディ。彼のイマジネーション、そしてエルメスならではのサヴォアフェールが息づくコレクションは、いわゆる"ハイジュエリー”とは一線を画す。

今回、第4作目を国内で披露するため、ピエール・アルディが来日。現在、銀座メゾンエルメスの10階にて2017年11月7日(火)まで一般公開中の最新コレクションの誕生秘話、そして彼のクリエイションに対する情熱について探るべく、『SPUR.JP』はインタビューを行った。

Words: Shunsuke Okabe

── まずはじめに、「オート・ビジュトリー」という言葉に馴染みの無い読者のために、どんなコレクションなのか教えていただけますでしょうか?

「オート・ビジュトリー」とは、エルメスが2年に1度発表しているハイエンドジュエリーコレクションの総称です。2010年に初めてのコレクションを披露したので、昨年パリで発表されたのが第4作目にあたります。

── 「オート・ビジュトリー」といえば、エルメスのジュエリークリエイションにおける最も実験的なコレクション。制作にあたってのデザインアプローチなど、他のコレクションと比べてどんな違いがあるのでしょう?

今回の日本でお披露目した最新作を介してご覧いただけるように、「オート・ビジュトリー」では金属の他に多様な石使いに重点を置いています。つまり、デザインプロセスだけでなく、素晴らしい石に巡り合うまでの時間、そしてそれらをカッティングする時間を要するということです。だからこそ2年という制作期間が必要となるのです。

「オンブル・エ・リュミエール」ネックレス(PG×タヒチ産グレーパール×アコヤパール×南洋パール×ダイヤモンド)©Hermès
「オンブル・エ・リュミエール」ネックレス(PG×タヒチ産グレーパール×アコヤパール×南洋パール×ダイヤモンド)©Hermès

 

── 過去、3回発表されてきた「オート・ビジュトリー」ですが、これまでの作品はエルメスのアイコニックな作品、例えば馬具であったり、バッグであったり、スカーフをテーマに掲げてきました。

今回は「オート・ビジュトリー」の最新作に加え、ゴールドとシルバージュエリーなどさまざまなジュエリーをともにご紹介しています。

例えばこの「ニロティカス」ネックレスは、エルメスの象徴的なニロティカスレザーをイメージしたもの。これまでの「オート・ビジュトリー」をはじめ、何度か登場してきたモチーフです。特にこの作品では、4000粒ものダイヤモンドが用いられています。着用した時に、肌にぴったりと寄り添うよう、クロコダイルの斑(ふ)の形に合わせて、全て可動式に作られているんですよ。

「ニロティカス」ネックレス(WG×ダイヤモンド)© Nacása & Partners Inc.
「ニロティカス」ネックレス(WG×ダイヤモンド)© Nacása & Partners Inc.

 

── そして記念すべき第4回目の今回。アルディさんが、エルメスのジュエリー クリエイティブ・ディレクターに就任して、15年を数える記念すべきコレクションです。これまでのコレクションと比べ、どんな違いがあるのでしょうか?

「オート・ビジュトリー」がはじまったのは2010年のこと。今回の第4作目は、昨年の7月にパリで初めて披露しました。

テーマとして掲げたのは、「時間」。これまでの具体的なイメージに比べ、少し概念的ではありますが、これもまたエルメスにとって必要不可欠なものです。

1837年創業、実に180年という長い年月をかけて築き上げられたエルメスの歴史。それと同時に、エルメスのクリエイションはいつの時代もモダンで、タイムレスな価値を持っています。この、「時間」という抽象的なイメージを、最新作では3つの解釈でジュエリーへと落とし込みました。

展示会場の様子 © Frederik Vercruysse
展示会場の様子 © Frederik Vercruysse

 

── スペースシップのような近未来的な会場構成も印象的でした。

会場構成を手がけたのは、ディディエ・フィウザ・フォスティノというアーティスト、建築家です。私の考える「時間」というコンセプトを、彼は12個のモジュールで表現しました。
よく見てもらえると分かるのですが、それぞれのモジュールには、「オート・ビジュトリー」の最新作に加え、今年の新作のシルバージュエリーなども収められています。もしくは、過去の「オート・ビジュトリー」で発表したモチーフを、エクセプショナルピースとして新たに生まれ変わらせているものもある。

── 確かに、いくつか見覚えのあるモチーフがあります。アーカイブを常にアップデートさせる、というのもエルメスらしいですね。

まさにその通り。一般的なファッションブランドが、半年、もしくは3ヶ月に1度新作を発表するとすれば、エルメスのジュエリーのクリエイションにとっての時間はより長い月日を意味し、またその期間もいつも同じではない。これこそが、時系列のままでない、エルメスならではの時間の解釈でしょう。

「アトラージュ・セレスト」ネックレス(YG×オパール×インペリアルトパーズ×サファイア×ダイヤモンド)© Hermès
「アトラージュ・セレスト」ネックレス(YG×オパール×インペリアルトパーズ×サファイア×ダイヤモンド)© Hermès

 

── カラーストーンやパールなど、これまでにない素材の使い方が目を引きます。今回最もチャレンジしたのはどんな点でしょう?

確かに、これまで以上にカラーストーンを使ったかもしれませんね。例えばこの「フ・ドゥ・シエル」は、一見シンプルに見えますが、実はとても複雑な構造なんです。よく見てみると、コルセットのように重なったラインが、少しずつカーブしているのが分かるでしょう。ということは、中にはめ込む石も、全て同じスクエアカットではぴったり収まらない。地金のフォルムから、石のカッティングまで、完璧なグラデーションに仕上がるよう、緻密な計算と、カッティング職人の技巧が込められています。

「フ・ドゥ・シエル」ネックレス(WG×トルマリン×ガーネット×アイオライト×インペリアルトパーズ×ダイヤモンド)©Hermès
「フ・ドゥ・シエル」ネックレス(WG×トルマリン×ガーネット×アイオライト×インペリアルトパーズ×ダイヤモンド)©Hermès

 

── エルメスの今年の年間テーマは「オブジェに宿るもの」。オブジェを司るマエストロであるアルディさんにとって、シューズやジュエリーといったオブジェにはどんな魅力があると思いますか?

シューズやジュエリー、スカーフなど、オブジェと呼ばれるものには、何かしらの意味が込められています。肌に触れ合う、インティメイトなものですから。

好きだから、ラッキーチャームだから、大切な人からもらったものだから。その理由は様々です。だからこそ私は、自分のクリエイションにおいて、これらの直感的なエモーションに語りかける、意味を与えることを常に頭に置いています。

©Alexis Armanet
©Alexis Armanet

「HB-IV CONTINUUM」
会期: 2017年10月28日(土)~11月7日(火)
場所: 銀座メゾンエルメス10階(東京都中央区銀座5-4-1)
営業時間]: 11:00~20:00(日曜は19:00まで)
http://www.hermes.com/
03-3569-3300