本当の豊かさとは? 7人に聞いた、リュクスな時間の過ごし方

"もの"以外にも、「豊かさ」は宿っている。さまざまな環境に身を置く7名に、心満たされる瞬間のエピソードを教えてもらった。

プライスレスな2杯のオレンジジュース

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Photographer:Takako Noel

今年7月からメキシコに滞在中のタカコ ノエルさん。「美しいビーチに陽気なマリアッチの音が響くというイメージはほんの一面的なもの。現実は40度を超える気温の中、子どもたちが赤信号の間に車の窓を拭いてチップを集めている。片足をなくした男性が路上で大道芸をして生計を立てている。パスポートがない人々が職を得るために命懸けで国境を越えようとしている。苦しい状況の中、自分を違う環境に引っ張り上げるのは容易ではありません。それでも生きていくための手段を考え、前向きに日々を過ごす彼らはとても逞しく、些細なことで悩む自分を恥ずかしく思いました。私は偶然恵まれた日本に生まれ、たくさんの贅沢を享受しているのに、そのことにまったく気づいていない。自分の感度の低さを痛感したんです。今日も生きている、安心して眠れる家がある。それが当然ではないと実感したとき、大切な人と10ペソ(約85円)で作ったオレンジジュースを笑いながら飲む瞬間は、私にとって最高の贅沢になりました」

神に抱かれる国、ケララ州でのひととき

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Fashion Director:Asako Kanno

15年ほど前からインドに通い始めた菅野さんが、最終的にたどり着いたのがケララ州だ。「豊かな水源に育まれた美しい自然があるエリアで、アーユルヴェーダ伝承地であり、この国最大の薬草やスパイスの生産地です。あまりに魅了されてしまい、現地に家を借りています。滞在中は、アーユルヴェーダでリトリートしたり、自宅に先生を招いてヨガを楽しんだり、伝統工芸品の工房に足を運んだり。心と体のデトックスをして、美しいものにたくさん触れます。特に好きな場所は、アレッピーという水郷地帯。夕刻に手漕ぎボートに揺られながら進むと、川の水で体を洗う子ども、ごはんを作るお母さん、ボートで野菜を運ぶお婆さん、など人々の暮らしが流れていきます。オレンジ色の空がどんどん濃紺に変わっていくときには、川沿いの家の明かりがポツポツ灯りはじめ、家族団らんの時間が始まるのが見て取れます。神秘的な風景の中をボートに揺られていると、太古から脈々と続いてきたであろう自然と人間の暮らしの原点を眺めている気持ちに。ケララ州は私に本当の豊かさとは何なのかを考えさせてくれるのです」

車の中でラジオに耳を傾ける土曜の夕暮れ時

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Stylist:Satoko Takebuchi

 「J-WAVEのラジオ『au FG LIFETIME BLUES』にハマっています。リスナーから届いた真実のストーリーを4つ紹介するのですが、感動するお話も多く、考えさせられたり、心がほっこりしたり。土曜の16時から17時の放送なので、ちょうど運転中に見える夕暮れの空や、車のライトがきれいで、時には涙することも。ナビゲーターを務めるオダギリジョーさんの素敵な声と物語の後に流れる音楽を聴きながら、余韻に浸り外の景色を眺める……。家の中ではなく、車という狭い空間で流れゆく風景を見ながら誰かの物語にじっと耳を傾けるのはとても贅沢な時間」。ラジオを聴くために、遠回りすることもあるほど最高に心地いいひとときなのだとか。

日常と隔絶された無になれる瞬間

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Stylist:Chiaki Furuta

宮古島に1週間以上ゆっくりと滞在するのが、古田さんにとってお決まりの夏休み。知人が運営する民宿に泊まる、とことん肩肘張らないスタイルだ。「行きたいときに海へ行き、疲れたら休むのを繰り返す日々です。美しい魚や海亀と泳いだり、サンセットを見たり、たまにほかの離島に行ったり。本当にただそれだけ。東京では常にバタバタしていて、寝ていても、起きていても、ずっと脳が働き続けている感覚。頭を空っぽにして"何も考えない時間"を作ることがいかに大切かをこの数年で実感しています。日常とは違う空間の中に身を置くことが、私にとってかけがえのない瞬間であり贅沢。メリハリのあるオンオフを意識的に作ることでリセットし、次への活力にしています!」

エンドレスな庭いじりに没頭する週末

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PR Chisono Sekine

「静かな森の中に建つ家で過ごす週末は、自分らしく生きるために欠かせない、人生の大切な時間」と語る関根さん。特に庭の手入れは、仕事でたくさんのことを詰め込んだ心や体をリセットしてくれる。「避暑地にある私の庭は、あくまで森の一部。多くの木が生え、雑草もぐんぐん伸び、どんなに一日中庭仕事をしても翌週にはまた元通り。自分の思うようにはいきませんが、それでも手を加えると明らかに風景は変わっていきます。枝一本を切るにも、雑草を抜くにも、新たな植物を植えるにも、自然とのバランスを考え、自分の感覚を大切にすることで少しずつ私らしい空間になってきました。愛犬だけでなくシカやキツネの憩いの場にもなっているこの庭は、人間、動物問わずみんなにとっての小さな楽園。ここをもっと心地よい場所にしたい、と想像を膨らませながら過ごす時間は、私の心を限りなく豊かにしてくれます」

愛犬のための家が出来上がっていく過程

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Photographer:Takehiro Uochi

しば犬とパグを家族に持つ魚地さん。こよなく愛する2匹のために、現在軽井沢にこだわりの別荘を建設中だ。「庭にどの程度木を残すか、どのくらい平面を作るか、などをガーデンデザイナーと2〜3年かけて相談。愛犬たちが思い切り走り回り、幸せに暮らせるよう工夫しています。もちろん壁や床の素材とカラーも丁寧に選びました。ここ最近は、内装に合う家具やライト、食器、作家のオブジェなど、インテリア類を探したり、悩んだりしているときが一番の幸せ。自然に囲まれながら、穏やかな時間を過ごせる日が待ち遠しいです」。完成した暁には、東京と軽井沢のデュアルライフを予定している。

作り手の存在を感じながら、作品を見つめるとき

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PR:Yuko Mori

アートギャラリーのPRも手がける森さんにとっての贅沢は、現代作家を扱うギャラリーで過ごす時間だ。「世の中に美しいものは数あれど、同時代を生きている人の思考の表れを眺め、知り、語り合うことができるのは、格別。美術館で、時代背景やアーティストの人物像が朧げな中で想像を膨らませながら、自分の思考に潜る時間も、豊かなものだと思います。一方で、作家ご本人が在廊するギャラリーでは、その方の佇まいを感じながら、もう一歩近い距離感で観賞する。場合によっては直接お話をさせていただくこともあります。美しいものを受け取る側としては、とても喜びのある瞬間。もしも、自分の奥のほうでそっと共感できる気持ちが見つかったら、すごく幸せなこと。そういう時間を過ごすことが私はとても好きです」

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