“金のクリムト”前夜から現代アートまで。初めてのウィーンで体験した5つのこと

ピアノ少女だった私にとって、オーストリア・ウィーンといえばやはり「音楽の都」。数々の作曲家や映画『アマデウス』こそが最初のイメージでした(調べたら、実際の撮影のほとんどはチェコで行われたと知りショック!)。その後、ハプスブルク家、クリムト、ザッハトルテ、スワロフスキーなど少しずつボキャブラリーは増えたものの、ウィーンについてほぼ何も知らないも同然。

そんな私が初夏に、ウィーン市観光局主催のツアーで初めてウィーンを訪れる機会に恵まれたので、文化編・グルメ&おみやげ編の2つの記事に分けてその魅力をご紹介します。まずは文化編から。

ピアノ少女だった私にとって、オーストリア・ウィーンといえばやはり「音楽の都」。数々の作曲家や映画『アマデウス』こそが最初のイメージでした(調べたら、実際の撮影のほとんどはチェコで行われたと知りショック!)。その後、ハプスブルク家、クリムト、ザッハトルテ、スワロフスキーなど少しずつボキャブラリーは増えたものの、ウィーンについてほぼ何も知らないも同然。

そんな私が初夏に、ウィーン市観光局主催のツアーで初めてウィーンを訪れる機会に恵まれたので、文化編・グルメ&おみやげ編の2つの記事に分けてその魅力をご紹介します。まずは文化編から。

INDEX
ブルクガルテン(王宮公園)の一角にある「モーツァルト記念像」

到着翌日にブルクガルテンでご対面したモーツァルト(記念像)。ウィーンにやってきました!

クリムトの“はじまり”に間近で触れる。ブルク劇場の天井画特別鑑賞

まず今回の旅のハイライトから。渡航前から楽しみにしていたのが、グスタフ・クリムトによりブルク劇場に描かれた天井画を間近で鑑賞できる期間限定のツアー!

ウィーン分離派の旗手として知られるグスタフ・クリムトは、キャリアの初期、弟エルンスト、友人のフランツ・マッチュとともに「Künstler-Compagnie(芸術家商会)」を設立。若き3人が描いた10点の油絵は、ウィーンを代表する巨匠の“はじまりの時”を保存する貴重な作品として、劇場を訪れる人々やアートファンを楽しませています。

このツアー最大の特徴は、修復工事用の足場をそのまま活用し、観客が実際に上って修復中の天井画をすぐそばで鑑賞できること。まずはフォルクス庭園側の「皇帝の階段」で、改修を終えたばかりの天井画を下から見上げます。その後、建物の逆側の式典用階段ホールへ。こちらにはかなり大がかりな足場が組まれており、修復が行われている高さまで上っていきます。 高いところが苦手な私はおぼつかない足取りでしたが、一生に一度の機会だと思い、自分を奮い立たせました。

なんとか辿り着くと、作品が本当に近い!! 近すぎて引いた位置からの写真を撮れなかったので、ここからはクリムト作《タオルミーナの劇場》を近くで見上げた写真をお届けします。

きらびやかでエキゾチックな《接吻》のイメージとは違い、足場の上で見た《タオルミーナの劇場》は徹底して写実的。それでも、踊り子や観客たちの佇まいや調度品には、のちの作風を彷彿とさせる官能性や装飾性も感じられて、“金のクリムト”前夜の筆使いを目の当たりにしました。自分に絵心がまったくないのが悔やまれますが、この体験はかなりスペシャルで、 旅の思い出として心に深く刻まれました。

ブルク劇場天井画の下絵にクローズアップしたところ

かなり細かくピンが打ち込まれていた下絵

なお、その筆致に圧倒されつつも、そもそも天井画がどうやって描かれたのかを理解していませんでした……。まさか少しずつ描き足していくわけはないし、と不思議に思っていたら、下絵をよく見て納得。まずは原寸大の下絵を描き、天井に貼ったキャンバスにぴったりと当て、絵の輪郭に細かくピンを打ち込み、写しとってから油彩で仕上げたそうです。

当初、このツアーは2026年6月までの予定だったところ、好評につき2026年8月中旬まで延長されます!

Burgtheater
住所:Universitätsring 2 1010 Wien
電話番号:+43 151 444 45 45
https://www.burgtheater.at

モーツァルトの「戴冠ミサ」が流れる、アウグスティーナ教会の夕暮れ

アウグスティーナ教会取材の時間に同行者と建物前で待ち合わせていたのですが、マップではすぐそばのはずなのに教会が見当たらない! 申し訳ないことに少し遅れてしまいました。なぜかといえば、アウグスティーナ教会は、私がイメージする教会とはまったく違う外観だったのです。

ウィーンのアウグスティーナ教会 建物の入り口

アウグスティーナ教会の入り口

この日は夕方のミサコンサートを見学するスケジュール。教会をナビゲートしてくれ、その後のミサでは指揮も担当する教会音楽ディレクターのペーター・ティーフェングラーバーさんは教えてくれました。「もともとは修道院教会だったものが、あとからホーフブルク王宮に取り込まれたんです」と。

アウグスティーナ教会の身廊

オーケストラスペースからの眺め

14世紀にアウグスチノ会の修道院教会として建てられ、のちにハプスブルク家の宮廷教会となったこの場所では、代々の皇族たちの結婚式が繰り返し行われてきました。細く高いゴシックのアーチが連なる身廊には、金色のシャンデリアが一直線に吊られ、静かな緊張感が漂っています。

アウグスティーナ教会のパイプオルガン

後陣の上部、オーケストラスペースに据えられた荘厳なパイプオルガンを弾くペーターさん

ペーターさんに促されて階段を上がると、ロココ様式の飾り彫刻に囲まれた巨大なパイプオルガンが現れました。金色の装飾と銀色のパイプが林立する姿は、どう見ても18世紀そのもの。ところが、オルガニストでもある彼が演奏を始めると、その中身は想像以上にモダンでした。4段の鍵盤の左右には音色やパイプを切り替える木製のストップがぎっしり並び、コンソールにはプリセットボタンや小さなディスプレイが埋め込まれています。ペーターさんは手鍵盤と足もとのペダル鍵盤を行き来しながら、あらかじめ組んでおいたストップの組み合わせを一瞬で呼び出していきます。「見た目はロココ、中身は21世紀ですよ」とにこやかに笑う彼を見て、教会音楽もハイブリッドになっているのだと実感しました。

ハプスブルク家の人々の心臓が安置されたアウグスティーナ教会のロレート礼拝堂

ミサを待つ間に見学したロレート礼拝堂。ハプスブルク家一族の54人分の心臓が安置されています。下段左側、トリコロールのリボンが巻かれた壺は、ナポレオンとマリア・ルイーズのあいだに生まれたライヒシュタット公のものだと言われています

アウグスティーナ教会でのミサが始まる前の様子

ミサの開始前にそっと撮影。たくさんの人が集まっています

ハプスブルク家の人々の心臓が安置されている地下のロレート礼拝堂から再び身廊へ戻ると、空間はミサを待つ静謐な気配に満たされつつありました。

ミサが始まると、ペーターさんがタクトを振る聖アウグスティヌス合唱団とオーケストラは、観客ではなく祭壇に向かって音楽を捧げます。この日のメインプログラムはモーツァルトの「戴冠ミサ」ハ長調。ザルツブルク大聖堂のミサのために作られ、その後は皇帝の戴冠式やコンサートでも演奏されてきた曲ですが、ここでは本物のミサ進行に寄り添う典礼音楽として厳かに響き渡ります。

ウィーン市街を走る二頭立て馬車

アウグスティーナ教会周辺を含む中心部には2頭立ての馬車がたくさん! 

この教会において、モーツァルトの音楽は、特別な名曲というより、受け継がれてきたミサの一部として静かに息づいているのだと感じたひとときでした。

Augustinerkirche

住所:Augustinerstraße 3 1010 Wien
電話番号:+43 1 533 70 99

旧王宮厩舎が“街ごと美術館”に。ミュージアムクォーターとレオポルド美術館

ウィーン7区、旧王宮厩舎をリノベーションしたミュージアムクォーター(MQ)は、いくつもの美術館とギャラリー、カフェが集まる巨大なカルチャーパーク。

ウィーンのカルチャー複合施設、ミュージアムクォーターの中庭

広い石造りの中庭にカラフルなベンチが並び、その周りをレオポルド美術館やMUMOK(近代美術館)など、大小さまざまな文化施設が取り囲んでいます。といっても、「美術複合施設」というより、街の“リビングルーム”にアートが常設されているような感覚に近いかもしれません。

単に美術館が隣接して建っているのではなく、ベンチで日光浴する観光客、打ち合わせ中のクリエイター、小さな子どもを連れた家族、展覧会後の一杯を楽しむローカルが、同じ中庭を自然にシェアしているのです。

アートを楽しむだけでなく、歴史的な宮殿エリアと、若いクリエイターたちが集まる7区の住宅街をつなぐハブとしても機能しています。街の中心部にあって、とても活気のあるスペースでした。

MuseumsQuartier Wien
住所:Museumsplatz 1 1070 Wien
電話:+43 1 523 58 81
https://www.mqw.at/

別の日に、MQの施設のひとつであるレオポルド美術館にも行ってきました。

ウィーンのレオポルド美術館外観

エゴン・シーレの世界最大級のコレクションを誇る美術館ですが、あまり詳しくなかった「ウィーン世紀末」や分離派に触れられる『WIEN 1900』展が気になり。帰国後に調べたことも含め、私的見どころをご紹介します。

ウィーンのレオポルド美術館で開催中の『WIEN 1900』展ポスター

19世紀末のウィーンは、ハプスブルク帝国の崩壊(1918年)を予感しながら、美術・音楽・思想が同時に沸騰した時代でした。分離派が保守的な画壇に反旗を翻し、フロイトが無意識の存在を言語化し、建築家ヴァーグナーが装飾を問い直す。本展は、その熱量を絵画だけでなく、家具・ファッション・写真・音楽資料を横断して見せる展示です。

展示の入口には、ブラームスの楽譜が置かれています。なぜここに? と思ったのですが、添えられたキャプションを読むと、1897年4月3日、ブラームスがウィーンで息を引き取り、クリムトを中心とする若い芸術家たちが「ウィーン分離派」の結成を宣言。ロマン派音楽の巨人がこの世を去った日に、20世紀の美術革命が生まれる。このドラマチックな偶然に、一気に引き込まれました。

クリムトのゾーンには、ブルク劇場の天井画以降〜分離派結成の初期の作品が揃います。特に気になったのが、クリムトのパートナーでありファッションデザイナーでもあったエミーリエ・フレーゲの存在。彼女が手がけたリフォームドレスの実物も展示されていて、分離派が美術の権威に反旗を翻したのと同じ精神が、ファッションの領域でも共鳴していたことがわかります。ちなみに、クリムトといえば、のゆったりしたシルエットのスモックも、彼女のデザイン理念から影響を受けているのだとか。


エミーリエの活動からもわかるように、分離派を構成するのは絵画だけではありません。「ウィーン工房」をはじめ、建築・家具・生活用品・グラフィックデザインまでを網羅した総合芸術運動としてのさまざまな一面を鑑賞することができます。

そしてレオポルド美術館が誇るシーレのゾーンに入ると、空気が変わります。人体も建物も、シーレの視線の前では同じように歪み、同じように生々しい。有名な自画像の前に立つと、見られているのがこちらか向こうかわからなくなります。時間の関係で駆け足での鑑賞でしたが、当時の空気を感じ取れたような気がして、足を運んでよかったスポットです。

Leopold Museum
住所:Museumsplatz 1 1070 Wien
電話:+43 1 525 70 0
https://www.leopoldmuseum.org/

ビーダーマイヤー様式の路地で、“暮らしのウィーン”に触れるシュピッテルベルク散策

ローカルのガイドさんに連れられ、ミュージアムクォーターから路地を一本奥へ。石畳のゆるやかな坂道が続くシュピッテルベルク地区は、ウィーン中心部にいながら別の町に迷い込んだような感覚を味わえます。

ウィーンのシュピッテルベルク地区、Spittelberggasse

石畳のSpittelberggasse。ビーダーマイヤー建築が連なっています

歴史地区がそのまま残り、住宅と小さなギャラリー、ヴィンテージショップやカフェが入り交じるコミュニティといった雰囲気。平日の午後だったのもあるのか、かつてマリア・テレジアが取り締まりを命じた歓楽街だった過去もあるとは、この静けさからは想像もつきません。

ところが、シュピッテルベルクは路地を曲がるたびに意外な表情を見せてくれます。

バロック様式の玄関扉、建物の壁面を埋め尽くすストリートアート、ツタが生い茂る中庭のカフェ、ファサードの奥に潜む現代アートのギャラリー。数百年の時間が不思議なバランスで同居している、まさにウィーンの歴史と今を同時に体感できるエリアです。

「これからの美術館」のあり方を模索する私設ミュージアム、ハイディ・ホルテン・コレクション

ウィーン国立歌劇場のすぐ裏、王宮庭園に面した一角に建つハイディ・ホルテン・コレクションは、19世紀以降の美術や現代アートを網羅的かつコンパクトに体験できる私設ミュージアムです。

ウィーンのハイディ・ホルテン・コレクションの建物入り口

通りに面した門を抜けて、歴史ある邸宅を全面改装した建物に入ると、個人コレクションとは思えないほど充実したラインナップに驚愕! クリムトやシーレはもちろん、エドヴァルド・ムンク、マルク・シャガール、パブロ・ピカソといった巨匠と、ゲルハルト・リヒター、マーク・ロスコ、ロイ・リキテンスタイン、ジャン=ミシェル・バスキア、アンディ・ウォーホルなど、展示されていない作品も含めると所蔵作品は800点以上。カタログをめくると、私が知る現代アーティストたちの作品がほぼ収蔵されているのではないかと思うほどでした。

ウィーンのハイディ・ホルテン・コレクションの1階展示スペース

取材時、子どもたち向けのワークショップが行われていました。みんな熱心に話を聞いています

もちろん一定の距離を取るとはいえ、自然光も差し込む開放的な空間で鑑賞する作品は、なぜか親しみやすく感じられるのが不思議。


来館者の投票で選ばれた人気作品を展示する常設展『KLIMT ⇄ WARHOL』展に加え、取材時には、人間と動物の関係を20~21世紀の美術を通して多面的にたどる企画展『Animalia. Of Animals and Humans』展(〜2026年8月30日)が開催されていました。

美術館の新ディレクター、ヴェレーナ・カスパー=アイゼルトさんが掲げるのは、女性作家や女性の視点をより強く打ち出し、社会的な問いを展示に組み込み、教育や対話型のプログラムを充実させること。名作を保存・展示するだけでなく、コレクション、展覧会、教育を同じ重みの柱として位置づけ、社会や未来と結び直す姿勢です。また、美術館はコレクションの成り立ちに関しても誠実に向き合い、1945年以前の所蔵品を中心に来歴調査を進め、独立専門家の知見をもとにした調査結果の継続的な公開を公式ウェブサイトで表明しています。

ヨーロッパにおけるアート収集のスケールの大きさと、アートが社会や経済と切り離せない存在であること、そしてアートには未来を拓く力があることに思いを巡らせるひとときとなりました。

ハイディ・ホルテン・コレクション

Holla Hoop《CO₂ntext》2025年

なお、中庭の地面はカラフルなペインティングが施されており、これも気候変動をテーマとしたアート作品。使われている塗料が太陽光を反射し、地面の温度を下げる効果があるそうです。

Heidi Horten Collection
住所:Hanuschgasse 3 1010 Wien
https://hortencollection.com/

訪れる前は断片的なイメージしか持っていなかったウィーンですが、実際に街を歩いてみると、歴史や芸術は美術館や教会の中だけにあるものではなく、人々の日常の中に自然と溶け込んでいました。足場の上から見上げたクリムトの原点、ミサの日常に溶け込むモーツァルト、市民の暮らしと共存するMQやシュピッテルベルク、そして歴史と現代社会を問い直すハイディ・ホルテン・コレクション。伝統を大切に守りながらも、常に新しい表現や生き方を受け入れてきたこの街の懐の深さこそが、ウィーンの真の姿なのだと今では感じます。 

次回は、そんな街で出合ったグルメとおみやげをご紹介します。

MATSUEプロフィール画像
エディターMATSUE

旅はプランを詰め込むタイプなので、どちらかといえば、マイペースに動けるひとり旅派。醍醐味は「そこでしか体験できないもの」に触れることで、美術館や建築巡りは欠かせない。ヨーロッパの街に1年ほど滞在した経験はあるものの、ウィーンを訪れるのは今回が初めて。