【PART1】蟹江憲史教授に聞く、大学でSDGsを学ぶ意義とは?

企業や自治体のアドバイザーを務めると同時に、現在は慶應義塾大学大学院の政策・メディア研究科教授として学生にSDGsへの向き合い方、解決へのアプローチ策を教える蟹江憲史さん。その道の第一人者が実践する教育方法とは?

研究と教育を同時に行えることこそ、大学の強み

慶應義塾大学蟹江憲史教授1

―――慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスでは、いつ頃からSDGsを取り上げ始めたのでしょうか?

蟹江憲史さん(以下K) 僕はSDGsが国連サミットで採択された2015年に慶應義塾大学で教壇に立ち始めたのですが、当時はまだほとんどの学生がその言葉を知りませんでした。そこで、まずは認知度を高めるために学内の関連する至る場所に、“キャンパスSDGs”と題してSDGsのアイコンのステッカーを貼って、どのくらい認知度が上がるかを研究したんです。実験を行う前の認知度が18%だったのに対し、最終的には83%に。そこがスタートですね。これまでは地球環境政策という授業の中でSDGsについて触れることが主でしたが、2023年4月にはグローバルガバナンスという科目が設置され、SDGsを正面から学ぶ授業を行うことになっています。そこでは国際的にSDGsの気運が高まることによって、どのようなアクションが生まれているのかといったことも取り上げたいと思います。例えば、ノルウェーでは政策の力で、ここ数年で急速に電気自動車が普及しています。こういった、SDGsにおいて一番大切なトランスフォーメーション(=変革)の現状などを取り上げて、議論したいと考えています。

―――SDGsに向き合う上で、大学はどのような役割を担っているとお考えですか?

K やはり研究だと思います。意外とSDGsと研究が結びついていないケースが多いので。サステイナビリティにおいてはモノをストーリーとして捉えることが重要なのですが、例えば廃棄物を扱う人は廃棄することだけしか見ていなくて、それをどうリユースするかを考えられている人が少ない。研究と教育を結びつけてその視点を養うための場として、大学が最適なのではないでしょうか。だから僕は、ゼミの研究においても、コンソーシアムで企業の方達と共同グループをつくることにおいても、すべてに“x(エックス)SDG”というテーマを設けています。何か×SDGs。元々あるものをいかにサステイナブルにしていくかを考えることが重要なんです。

実践>座学。独自の教育方針

慶應義塾大学蟹江憲史教授2

―――SDGsを学ぶ意欲を持った学生は増えてきていますか?

K 着実に増えていますね。僕のゼミは現在20〜30名を定員としているのに対し、応募はその倍ほど。シティグループ証券から寄付をしてもらって“金融×SDGs”をテーマに行っている授業も定員30名ですが、応募が多いため抽選としています。僕が教えている中には、起業して食べられるスプーンを開発した学生もいました。柔軟な発想を持っている生徒がこのキャンパスには多い印象ですね。

―――講義ではどのようなことを教えているのですか?

K 慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスでの講義は実践的な研究を通して学ぶことが特徴なので、ゼミでさまざまな企業や自治体と協力し、ディスカッションすることに重点を置いています。以前僕のゼミでは、JALのサステナブルチャーターフライトに学生を参加させたことがありました。飛行機そのものだけでなく飛行場を走っているトーイングカーもカーボンニュートラルにする、機内食にサステイナブルな食材を使う、ダイバーシティを考えて障害を持った方のために手話を導入する……。学生視点のアイデアを提案してフィードバックをもらったり、搭乗者の方達とセッションを設けたり、議論を通して学ぶことが大切なのではと。

ゼミを超えて、活動は大学全体規模へ

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xSDGコンソーシアムのミーティングの様子。

―――自治体とはどんな連携を?

K 神奈川県からは、xSDGコンソーシアム(SDGsの目標達成へ向けて自治体や企業とコラボレーションする共同事業)を設立した2018年頃にお声がけをしてもらって、共同で指標を設けて国連に報告できるフォーマットを作りました。また静岡市とは、まずはSDGsの認知を広げることから始め、彼らとも指標を作ってSDGs宣言を制定し、事業所や団体などによるSDGs活動を促進しています。

―――ここまでお話にあがった研究には、蟹江先生のゼミ生以外の学生は参加できないのでしょうか?

K 残念ながらそうですね。ただ僕は、慶應義塾大学のSDGs実現へ向けて全学部から選抜された学生が専門家からアドバイスを受けながら議論する塾生会議のアドバイザーも務めていて、そこでは2050年の大学の姿を一年かけて考えて塾長に提言する、という講義を行いました。キャンパス全体で脱炭素に取り組む、実践的に学ぶためにキャンパスをアフリカに作るなど、おもしろいアイデアがたくさん出ました。提言して終わりにするのではなく、実現するにはどうすればいいかを今揉んでいるところです。

自身も熱望する、対社会人のSDGs講座

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―――最近は多くの雑誌がSDGsを取り上げるようになり、『SPUR』でも環境だけでなく女性のエンパワーメントや人権問題を取り上げる機会が増えました。

K 人権も脱炭素も生物多様性も貧困も、それぞれが独立しているようですべてが繋がっている。それを示す上でSDGsという概念は便利だと思うんですよね。

―――学生にとっても狭き門である蟹江先生の講義を、社会人の私たちが受けられる機会はあるのでしょうか? SDGsという言葉は頻繁に耳にしますが、いざ学ぼうと思った時に何から始めていいのかわからなかったり……。

K たしかに継続的に学べる社会人のためのSDGs講座があったらおもしろそうですよね。単発の講義や講演は都度行っているので、興味を持った人はぜひ受けてもらいたいですね。僕自身も勉強できる場を作りたいと考えているので、ぜひ『SPUR』でファッション×SDGsの講座を企画してください(笑)。

蟹江憲史プロフィール画像
蟹江憲史

2015年より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表。国連持続可能な開発会議(リオ+20)日本政府代表団顧問など、SDGs関連を中心に政府委員を多数務める。著書に『持続可能な開発目標とは何か』(ミネルヴァ書房)、『SDGs(持続可能な開発目標)』(中公新書)、『SDGs入門 未来を変えるみんなのために』(岩波ジュニアスタートブックス)などがある。
HP:https://kanie.sfc.keio.ac.jp/

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