2020.10.29

リモートをきっかけに布ナプキンへ、突きつけられる女性性……それぞれのリアルな生理事情【インタビュー vol.1 後半】

まずは知ることから。部内有志のLINEグループをつくり、生理勉強会を実施

「旅先の屋久島で出会った女性たちに触発され、自分が所属するチーム内で生理やフェムテックに関する勉強会を行いました」と語る、メーカーでデザイン・企画職に就くKさん(仮名、31歳)。生理やフェムテックに関して興味を抱いたのはつい最近で、入社以来、女性が少ない環境のなか徹夜もいとわずがむしゃらに働き、気がつけば30代に。「このまま身体を酷使し、自分の身体に無関心のままで良いのだろうか?」と疑問を抱き、リフレッシュを兼ね自分を見つめ直すために屋久島へ。そこで出会ったのは、女性のライフスタイルを豊かにするために活動する、さまざまなバックグラウンドを持つ女性たちでした。

「旅先で生理について語りあったことをきっかけに、今まで気にしていなかった“生理”や“女性の身体”について、調べるようになりました。在宅勤務のタイミングを機に布ナプキンに変えてみたり、デリケートゾーンケアのコスメを使いはじめたりしました。また、リモートワークを導入したばかりだったので、ウェブ会議の練習も兼ね、チームの有志を集めて生理に関する勉強会を開くことに。会社全体で見ると男性の割合がかなり高いのですが、私がいる15人のチームでは、男性は部長と上司の2名のみ。女性が多く仲が良いとはいえ日頃から体のことをオープンに話していたわけではなく、勉強会をして初めて生理の辛さや不妊治療についてなど、お互いが抱えている悩みを知ることができました。最近はLINEグループをつくり、それぞれが得た情報を共有しています。

蓋を開けると皆何かしら女性特有の辛さを抱えているということがわかって、『これは男性上司にも共有してみたら何かが変わるかもしれない』と思い、勉強会で発表したことやフェムテック情報をまとめて上司に報告。まずはチーム内で『生理の日に辛かったら休む』を習慣化させることを目的にしました」

会社として生理休暇制度はあるものの、使えるのは有給休暇を消化した後という規則。さらに、男性が多い部署だと「生理休暇を使いたい」とは恥ずかしくて言い出せないのが現状だったそう。そんななか、Kさんの提案を受けた男性上司は「自分の奥さんも生理中辛いのに仕事を頑張っていて、大変そうだなと思っていた」と理解を示して、チーム独自の生理休暇がスタートしました。

「このチームからスタートしたものが、他部署の女性たちにも良い影響を与えて、辛さが軽減されたらよいと思っています」

生理が来る度に突きつけられた“女性性”

同じように社内でフェムテックに関する情報発信を行うようになったという、ITベンチャー勤務のNさん(仮名、33歳)。生理にまつわるプロダクトも積極的に試し、始まりそうな日と1日目は吸収型生理パンツ、2日目は月経カップ、3日目はナプキンを使い分け、終わりかけには再び吸収型生理パンツで過ごすようになったそう。そんな彼女は「変えていかなければいけないことも、知らないままでは変わらない。発信できる人が伝えていくべき」と語ります。

「私の会社は50名ほどの規模で社員の距離も近く、社内のチャットツールを使ってお互いの情報をシェアする文化があります。それは良いのですが、勤怠管理のシステムがなく有給休暇を取る際も上司と全体チャットになるべく細かく伝える必要があるんです。みんなが見ているチャットに直接書き込まなければならないので、生理休暇とは言い出しにくく現状は申請していません。そもそも、女性従業員ですら生理休暇の存在を知っている人が少ない。まずはそうした制度や生理そのものについて知ってもらおうと、社内チャットでフェムテックや女性の健康について情報発信をするチャンネルを開設しました」

発信を始めたきっかけは、男性上司からの心ない一言。「ベッドから出られないほど重い生理痛に苦しんでいた時、男性上司から『担当者がこんな状態では仕事は任せられない』と言われ自信を無くしてしまって……。そのときに救ってくれたのは女性の同僚たち。『それってひどいよね』という共感の言葉が痛みを和らげてくれたんです」

その一方で、今後仕事をしていく上で、生理は女性だけで悩み、解決していける問題ではないと痛感。「まずは自分の考えや状況をオープンにできる人からしていくことで現状を伝えていこうと決意しました」

さらに、その決心にはもう一つの背景が。現在、異性のパートナーと結婚しているNさんは、自身をLGBTQのQueer(クィア)と公言しています。自身の性自認について違和感を覚えたのは、初潮が訪れた小学生の頃でした。

「女性としての性自認が生まれるのに時間がかかったので、おそらく生理に対する違和感は人より持っていたのだと思います。経血を見る度に女性である事実を突きつけられているような気がして、身体的な辛さに加えて精神的にも毎月憂鬱でした。高校生の時には親しい間柄の人に性自認について話したり、大学生から新宿二丁目に通い始めたり、いろいろな人と話すことで、可能性を知っていく中、自分の気持ちと体がフィットするようになりました。生理のことを受け入れられるようになったのは、ほんの7、8年前のことです」

そうした経験から、Nさんの中で「知り、伝えることが大切」という気持ちが大きくなりました。「生理や性の話はデリケートな部分なので全ての人がオープンにする必要は全くありませんが、自分が他の人の話を聞いたり、話をすることで救われてきたように、話せる人がそれぞれの事情を話せば良いと思います。もしかしたら、多くの人はLGBTQと聞くと、メディアに出ている一部の人を想像するかもしれません。けれど、私のように普通に社会の中で生きている人もいる、ということを伝えたくて、微力ながらSNSで発信しています」

最後にNさんはこれから望む社会についてこう締めくくりました。「女性に限らず誰でもそうだけれど、元気な時とそうじゃない時ってあると思うのです。0か100ではなく、グラデーションの状態が受け入れられる世の中になれば良いですよね。最近は『働く女性』って応援されがちですが、応援されたからといって頑張るかどうかは自分で決めれば良い。頑張れないときでも無理するのではなく、支え合ってなんとかなる状態がベストだと思います」

生理の選択肢を広げ、語りあう

テクノロジーの発達によって、女性の心身の健康を取り巻く環境がダイナミックに変化する時代に、フェムテックという言葉が生まれました。生理用品や医療の選択肢、情報取得の手段も増え、ナプキンやタンポンに限らず、生理カップや吸収型生理ショーツ、低用量ピルの服用やミレーナ(子宮に装着する医療品)など、私たちは「生理について、自分自身で選べる時代」に生きています。その一方で今回のインタビューでわかったように、一人ひとり異なる私たちには、それぞれに違う“生理事情”があり、それぞれの悩みがあることもまた事実。

私たちの生理を取り巻く環境はまだ整っているとは言い難いし、全員の生理に当てはまる正解もありません。生理について語りたくなったときに安心して語り合えるように、まずは他ならぬ自分の身体の声、そして、目の前にいる人の声に耳を傾けることから始めてみませんか。


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photography:Chisato Hikita

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