2026.09.29

性欲がわかないのはなぜ? セックスレスやオルガズム障害など、セックスセラピーに寄せられる7つの悩みを専門医が紐解く

「セックスセラピー」にはどんな悩みが寄せられ、専門医はどのように解決に向けて導くのだろう? 話を聞いたのは、性医学と心理療法をベースにカウンセリングを行う性機能専門医・木村将貴先生。木村先生が代表を務めるカウンセリングルーム Esolveでは、2020年の開業以来、1,000人以上の相談に対応してきた。

性欲低下、性嫌悪、性交痛・挿入障害、オルガズム障害、セックスレス、気乗りしないセックス、そして産後の気持ちの変化。パートナーにも打ち明けにくい7つの悩みを切り口に、セックスセラピーで悩みをどう紐解き、どのような選択肢を提示しているのかを聞いた。


「セックスセラピー」にはどんな悩みが寄せられ、専門医はどのように解決に向けて導くのだろう? 話を聞いたのは、性医学と心理療法をベースにカウンセリングを行う性機能専門医・木村将貴先生。木村先生が代表を務めるカウンセリングルーム Esolveでは、2020年の開業以来、1,000人以上の相談に対応してきた。

性欲低下、性嫌悪、性交痛・挿入障害、オルガズム障害、セックスレス、気乗りしないセックス、そして産後の気持ちの変化。パートナーにも打ち明けにくい7つの悩みを切り口に、セックスセラピーで悩みをどう紐解き、どのような選択肢を提示しているのかを聞いた。


INDEX

▼お話を伺ったのは……

木村 将貴先生プロフィール画像
セックスセラピー「カウンセリングルーム Esolve」代表 性機能専門医木村 将貴先生

男性不妊、性機能を専門とする泌尿器科医であり、「カウンセリングルーム Esolve」代表のセックスセラピスト。Esolveでは、性科学分野の第一人者である先生の本や知見をもとに10年以上かけ独自の行動療法を確立。男女の様々な性の悩みに現代的・医学的なアプローチで寄り添い、最適な解決策を提案している。

「カウンセリングルーム Esolve」公式サイト

【相談1|性欲低下】 28歳・女性ひとりでの相談

〈お悩み内容〉
日々の忙しさからか、気づいたらパートナーとのセックスがなくなっていました。そもそもその気になることもなく、性欲を感じなくなっているのですが、これはおかしいことなのでしょうか? また、治したくなったら治せるものですか?

性欲低下

編集部:「性欲低下」といっても身体的なものか、心理的なものなのか、どのように紐解かれていくのでしょうか?

木村先生:身体と心、そしてパートナーとの関係性。この3点を中心にカウンセリングをしていきます。

性欲低下の場合は、その背景に身体的な要因が隠れているケースも少なくないため、まずは薬の服用や性交痛の有無など身体の状態を聞きます。ピルを服用していると、ホルモンバランスの関係で性欲が低下することがありますし、性交痛など身体に痛みを伴う性的な経験というのはトラウマになります。

編集部:心の状態が関連することもありますか?

木村先生:やはり、環境は大事ですよね。労働時間が長かったり家事育児に追われて忙しかったりすると、スキンシップが面倒になりやすい。なので、セックスをしたいのであれば、できるような環境を整えられるように具体的なアドバイスをします。

性欲の起こり方は男性と女性で違うことが性科学的に実証されていて、男性は一直線なんです。性的に興奮してペニスが勃起し、射精に至る。しかし、女性の性反応のメカニズムを研究した「バッソンの円循環モデル」によると、性欲からはじまるわけではない。相手との親密さなど関係性を育んだのち、刺激を心地よく感じ、性欲が生まれ、オルガズムの有無に関わらず行為そのものに満足感を得るという考え方です。この循環が働いているかどうかを診察では検証します。

【相談2|性嫌悪】26歳・女性ひとりでの相談

〈お悩み内容〉
パートナーのことは好きで大切に思っているのですが、どうしても性的な接触に抵抗感や拒否感があります。「なぜ自分はこう感じるのか」が自分でもわからず、はぐらかしたり断ったりするたびに相手を傷つけている気がして悩んでいます。

性嫌悪

編集部:性嫌悪とはどのような症状なのでしょうか?

木村先生:「sexual aversion」といって、性行為や性的な接触全般に対して、強い拒否感や不快感を抱き、性的な接触を避ける心理的反応です。性欲低下とも異なりますし、性に対する不安や恐怖が中心となる精神的な問題、産後のセックスへの嫌悪感と必ずしも同じではありません。アセクシュアルは他者に対する性的惹かれを基本的に感じないセクシュアリティであり、性嫌悪とは異なる概念です。この言葉も定義が異なり、そもそも性的なことを考えたくないといった意味が近いです。

性について考えたくもないような方が、なぜ相談に来るのかというと、パートナーシップの解決が目的。相手のことを大事に思うからこそ、なんとか改善したいという方が大半です。そういうときは、系統的脱感作法という認知行動療法で、性に対していいイメージを持てるように取り組み、段階的に慣れていってもらいます。

【相談3|性交痛・挿入障害】48歳・女性ひとりでの相談

〈お悩み内容〉
数年前から、挿入すると痛みを感じるので、セックスを避けるようになりました。しばらくしないでいることで、どんどん挿入自体に不安を感じるようになっていて。でも、またできるようになりたいという気持ちはあります。

性交痛・挿入障害

編集部:性交痛は身体的な問題が大きいのでしょうか?

木村先生:50歳前後の方だとGSM(閉経関連尿路性器症候群/更年期以降に生じる外陰部や腟の不調)という婦人科系の疾患の可能性が考えられます。挿入がなくても痛みを感じる場合は、婦人科の受診をおすすめしています。

そうでない場合は、セックスの仕方に問題がある可能性が考えられます。骨盤底筋が痙攣して性交痛が生じている場合は、セックスへの不安や恐怖心があることも。リレーションシップを見つめ直し、行動療法でアプローチしていきます。

その時に大事なことは、すぐに挿入しないことです。まず、婦人科系の疾患がないことを確認して、身体と心の準備を整えたうえで、段階的にスキンシップをしてもらいます。

編集部:身体的なことだけでなく、心理的なことも関係してくるのですね。

木村先生:気乗りしないセックスをして、不安から痛みが生じている可能性もあります。「痛くて嫌だ」という意識が強い場合には、認知行動療法でそもそもの思い込みをやわらげていきます。男性の場合は、心理的要因によって勃起が難しくなる「心因性ED」という症状もあります。お互いの気持ちを理解して、セックスへの不安を和らげるようなアプローチをする必要があります。

【相談4|オルガズム障害】33歳・女性ひとりでの相談

〈お悩み内容〉
セルフプレジャーではオルガズムを得ることができるのに、セックスになると得られません。これまでずっと「オルガズムに達しているふり」や「感じているふり」をしてきたのですが、本当はやめたいと思っています。相手が変われば違う結果なのか、自分の身体の問題なのか、そもそも行為が苦手なのか、理由を自分で見分ける方法などはありますでしょうか? また、どうしたらセックスでもオルガズムを得られるでしょうか?

オルガズム障害 オーガズム障害

編集部:オルガズム障害とは、性的な刺激があっても絶頂感(オルガズム)に達しない、性機能障害の一つですよね。

木村先生:実は、性行為中にオルガズムに達する女性は約3割しかいないと言われています。なので、「達しないことは特別ではない」「私が悪いと思う必要はありません」という話を必ず伝えます。

この相談の場合は、セルフプレジャーでオルガズムを得られるので、パートナーとのセクシュアリティの開示が不十分である可能性が考えられます。セックスにまつわる「これが好き」「あれは嫌い」といった話ですね。あとは、女性が自由に動きやすく、緊張が解けるようなスローセックスを心がけるのも手です。この場合も、オルガズム障害に関する行動療法で段階的にアプローチしていきます。
また、オルガズムにそもそも達したことがない人は、一人でオルガズムを得られる練習をしてみましょう。

編集部:セクシュアリティを開示するために、Esolveでおすすめされていることは?

木村先生:セクシュアリティの開示で問題になるのは、性に対する固定観念にとらわれてオープンに話しづらいことや、話をする中で自信を失って殻に閉じこもってしまうことです。性について語りやすくするために「セキララカード for adults」という、対話のきっかけをつくるカードをおすすめしています。会話のきっかけとなるさまざまな質問が書いてあるのです。性や身体など、直接聞くのが恥ずかしいことも、カードをきっかけに話せたという声も聞きます。

【相談5|セックスレス】30歳・カップルでの相談

〈お悩み内容〉
キスやハグはするのに、セックスをしなくなりました。一緒に暮らし始めたことで、きっかけやタイミングがわからず、家族のようになっていることで気恥ずかしさもあるのが正直なところ。レスを解消したいのか、したくないのかもわからず、自分たちではどうしたら良いかわかりません。

セックスレス

編集部:「セックスレス」には様々な原因があるかと思いますが、どのようなところから紐解かれるのでしょうか?

木村先生:原因が何であるのか、根本を突き止めるところからはじまります。男性の機能障害なのか、女性の性交痛や性嫌悪なのか。身体の問題であれば婦人科や泌尿器科の受診をお勧めしますし、心理的な問題であれば行動療法や心理カウンセリング、カップル間での関係不和の場合は関係調整をするところからはじまります。何年もセックスレスの状態から、いきなり性行為を再開するのは難しいですよね。少しずつ、お互いの気持ちも確認しながら進めていきます。

日本性科学会に所属するある研究者が、セックスレスの原因の統計をとっています。結論として、日常生活における女性の負担が大きくなるほどセックスレスになりやすいという結果が出ました。ここでも、お互いが心地よいと感じる頻度やスタイルの着地点を見つけて、日々の生活も見直しながら段階的にステップを踏みましょう。

【相談6|気乗りしないセックス】42歳・女性ひとりでの相談

〈お悩み内容〉
相手の誘いを断るのは悪いなと思い応えていますが、本当はセックスをしたくありません。でもそもそも、セックスの「好き・嫌い」なども話しづらくて、ちゃんと伝えられず我慢してすることもあります。どう切り出して相談したら良いでしょうか?

気乗りしないセックス

編集部:木村先生には以前、気乗りしないセックスの悩みについてこちらの記事で答えていただきました。どんなことが原因として考えられるのでしょうか?

木村先生:まず、セクシュアリティの開示ができていないことは大きいと思います。そのうえで、なぜ気乗りしないのか、原因を探る必要があります。性交痛など身体的な問題なのか、不安や相手との関係など心の問題なのか、対話を通して原因を探っていきます。

我々に相談をしたということは、気は乗らないけれどパートナーと良好なリレーションシップを築きたいと思っているはず。なので、性について対等な関係を築けるように、ここでも「これだったらいいよね」とお互いが満足する性の着地点を見つけていきます。当事者の二人だけでなく、第三者のセックスセラピストが入ることでオープンマインドになり、折り合いポイントを見つけやすくなることもあります。

【相談7|産後の気持ちの変化】35歳・カップルでの相談

〈お悩み内容〉
出産後、全くセックスをしたいという気持ちにならず、夫から誘われるたびに断っています。夫のことを嫌いになったわけではないのですが、全然そういう気持ちになれません。二人目も考えているのですが、心と身体がついていかず、どうしたらいいか悩んでいます。

産後の気持ちの変化

木村先生:我々が受けるセックスレス悩みの原因の3分の1くらいは、産後の気持ちの変化です。子どもができて、家事・育児に追われるとセックスをする気持ちになれず、そのままスキンシップがなくなっていく。だからといって、無理やり男性が誘ってしまったら悪化します。なので、まずはふたりの性に対する理想を確認します。

したいけど気持ちがのらないという場合は、環境を変えることも提案しますね。家以外の場所でもいいですし、自宅の寝室の設計を変えてもらう。できれば、お子さんは別で寝てもらうのが理想です。

編集部:産後に、性に対する価値観が変わることもあるのでしょうか?

木村先生:母親になることで、自分自身のセクシュアリティが変化するんです。多くの人は子ども中心の生活になって、性的なことに関心がなくなっていく。ほかにも、産後うつなど心理的な変化も大きいです。

僕が必ず伝えているのは、出産後に男性が家事・育児に関わるかどうかが、パートナーシップに大きく関係するということ。産後の性機能には、パートナーの家事・育児参加と自分の産後のボディイメージが関わっているという論文もあるくらい。なので「セックスレスになりたくなかったら、産後とにかく家事・育児をしてください」とお伝えしています(笑)。

医学的には産後6週間でセックスできると言われていますが、社会心理学的には違います。産後の大変さは6週間では終わらないと思うし、その部分をどれだけ二人で一枚岩になって一緒に頑張れるかが鍵を握っています。