今まで取材したモード業界者の中で誰がもっともカッコよかったかと聞かれたら、バイレードの創設者・ベン・ゴーラム氏と即答しています。こんにちはとソファから立ち上がったときの予想以上の長身に面くらいつつ、元バスケットボール選手と聞いて納得。カナダとインドをルートにスウェーデンで育ったコスモポリタン。モダンでエキゾチックな香りの世界に触れるとき、彼自身の物語を追体験する気分になるんです。
最新作がデ ロス サントス。この作品、一言で表現するのなら、「めちゃくちゃおしゃれな土の匂い」。異国の森を散策したときに大地から匂い立った湿気、または大自然の精霊が、ベンの視座を通すとここまで洗練された空気となるのだな、としばしボトルに見とれます。
ハーバル調のクラリセージと爽やかな西洋スモモが一瞬だけキラリと輝くのですが、香りの主役はあくまでミステリアスなインセンストーン。バルサミックなラブダナムとパウダリーなイリスが瞑想を思わせる落ち着いたムードを薫らせながら、アニマリックなアンブロクサンとムスクが、野趣あふれる個性をビシバシ加えているんですよ。そして、すべてを包み込むパロサント。スピリチャルな鎮魂歌のように、心地よい苦味を漂わせながら、静かに儀式を支配していく――静かだけれど、ものすごく力強いフレグランスです。
ヴェルベットの苔を踏みしめながらたった独りで森を歩く情景を想像しながら、最後にベンに会った場面を思い起こします。それは、パリで開かれたOFF-WHITEとのカプセルコレクションのお披露目パーティ。ヴァ―ジルとベン、共に幸せな笑顔をたたえていたふたりの光景が、脳裏をよぎりました。もしかすると、この香水は過去を顧みながら大切な友人との思い出を刻み込んだ日記なのかもしれません。
メイクアップのカテゴリーでもバイレードは躍進中。こんなルックスなのにヴィーガン処方、という意外性を付いたマスカラが最近のイチオシです。
部内にもファンが多いこの商品、絶妙な曲線を描いたシリコンブラシが、しょぼついた地毛もグワシと掴み、天に向かってぎゅんぎゅんアップ。ネオン色のルックスは迷子になりづらいし、オブジェみたいなパッケージデザインはグリップ力に優れていて実は理にかなっているんです。
光と影、喪失と再生、未来と過去。相反するものから生まれるモダンな創造力こそが、バイレードに惹かれる理由に違いありません。
おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。
