京都の巨大地下空間でアンビエントに没入。圧巻の【AMBIENT KYOTO 2023】へ #深夜のこっそり話 #1832

京都市内で開催中のアンビエント・ミュージック(環境音楽)をテーマにした展覧会「AMBIENT KYOTO 2023」に行ってきました。昨年大好評だったブライアン・イーノ展に続く、2度目の開催。今年は出展アーティストが4組に増えたほか、ミニマル・ミュージックの巨匠、テリー・ライリーやコーネリアスのライブも開催されるなど、規模も内容も格段にスケールアップしています。チケット完売につき、行きたかったテリー・ライリーのライブは泣く泣く断念したのですが、2会場で開催されている展覧会は、どちらもじっくり堪能することができました。

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昨年に引き続き、会場となった京都中央信用金庫 旧厚生センター。キービジュアルがクラシックな建築にマッチしています。

広大な地下工場跡に響きわたる、坂本龍一さんの『async』

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広大なスペースに響く坂本さんの音楽と、巨大スクリーンに映し出された高谷史郎さんによる迫力ある映像

圧巻だったのが、京都新聞ビル地下1階の印刷工場跡で展開されている「坂本龍一+高谷史郎|async - immersion 2023」。2017年に発表された坂本龍一さんのアルバム『async』をベースに、アーティストの高谷史郎さんとのコラボレーションにより制作されたインスタレーションです。「あまりに好きすぎて、誰にも聴かせたくない」。アルバム発表当時、坂本さん自らそうおっしゃった名盤が、幅26.4メートルの巨大LEDパネルに映し出された映像とともに、広大な地下スペースに響きわたります。

35台のスピーカーが設置された、贅沢極まりない立体音響空間です。家のスピーカーやイヤホンではとうてい感じることのできない、繊細ながらも波打つような迫力あるサウンド。そしてそれに呼応するように投影される、森林や湖、空などの映像には、ノイズでかき消されていくような演出が施されます。美しくもあり、同時に恐ろしくもある『async』の世界に没入し、魂が震えるというよりも、うねるような感覚を覚えました。

現場でしか味わえない「非同期」的体験

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没入感のあるサウンドと映像に、時間を忘れてしまいます。

五感がフルに刺激され、恍惚状態のまま、あっという間に2時間。『async』は60分のアルバムなので、2回リピートしたことになるのですが、2周目を聴き終えて、音と映像が一致していないことに気がつきました。同じ曲でも、1周目と2周目では流れる映像が違っていたんです。つまり、その場で体験する音と映像の組み合わせは、そのときだけのもの。『async』が「非同期」を意味することからも、そのズレに気づいた瞬間に、えも言われぬ感動がこみ上げました。

歴史を感じる空間との見事な共鳴

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かつては新聞印刷の輪転機が据えられていた、インダストリアルな空間も最高でした。

会場となった京都新聞ビル地下1階は、2015年まで40年にわたり、朝夕刊を刷っていた場所。かつて新聞の印刷工場だったことを物語る、ほのかに漂うインクのにおいや、歴史を感じさせる黒電話、壁に飛び散ったインクの痕跡。時の流れが止まったような空間に、まるで輪転機が回るように広がっていく極上のサウンドと映像。その場のすべてのものが、見事に共鳴し合っていました。近年の視聴覚芸術の中でも最高傑作といえる内容だと思います。

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インクの付いた指紋跡がそこかしこに。黒電話が置かれたままになっているのもグッときました。
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黒川良一さんが手がけた映像とシンクロする、バッファロー・ドーターの「ET(Densha)」。斜めに仕切られた空間と立体音響も刺激的でした。

もうひとつの会場、京都中央信用金庫 旧厚生センターで展示されている、コーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一さんらの作品も、実験的でとても面白かったです。流れる音楽も環境の一部とするアンビエント・ミュージックの定義を拡張するような、光と映像の演出。心地よくも刺激的なエクスペリエンスでした。ひとつひとつ感想を書いていると紙幅がいくらあっても足りないので、ぜひ現場で体感してみてください。「AMBIENT KYOTO 2023」は、12月24日までの開催です。

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エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

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