9人の選者が推薦する良作。沖縄を知るための作品案内

沖縄で生まれた人、沖縄に暮らす人、沖縄を描いた人……縁のある方々が教えてくれたその地を知ることができる13作品。多面的で複雑な社会を理解するための"一歩"がここに

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「LIQUID」代表 村上純司さん

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『NOSÉ KOJIRO BLOCKHEAD』能勢孝二郎著(東洋企画印刷/5,500円)

復興を支えた建築資材をアートに

コンクリートブロックを使った作品で知られる沖縄の彫刻家の作品集。「戦後、米軍によって基地や施設が建設された沖縄。台風の脅威がある地で、米軍が選んだ素材がコンクリートでした。以後、沖縄の復興とともにコンクリート建築が浸透し、今日の風景をつくっています。この資材を彫刻の素材に見立てた能勢さんの作品はエネルギッシュで、チャーミング。美術作品に昇華した視点と芸術性に感銘を受けました。作品には戦後の沖縄の歴史や文化、人々の精神性までもが映し出されている。能勢さんの作品は公共の場にも数多く展示されているので、この本を片手に(重いですが)ぜひ巡礼を」

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『TOM MAX 1941-2015』真喜志奈美著(Luft shop/3,300円)

戦後沖縄の矛盾と葛藤を描く

TOM MAXの愛称で知られ、沖縄を拠点に活動したアーティスト・真喜志勉。1970年代から約50年にわたり、沖縄の現状を映し出してきた彼の作品集。長い戦後を歩み、基地の島としてさらされてきた沖縄の社会背景を読み解くことができる。「戦争や基地の問題を扱った社会的なメッセージや、戦後の沖縄の変遷を感じさせる作品の中に、ジャズをはじめとしたアメリカの文化や美術への憧れを窺わせる。シリアスさと無邪気さの相反する複雑な感情による表現が、真喜志さんの作品の魅力です。これらの作品と当時の資料をまとめた彼の生き様から、沖縄の文化や日常に触れることができます」

PROFILE
むらかみ じゅんじ●1976年生まれ、東京都出身。2017年、沖縄に移住。"飲む"をテーマにした専門店「LIQUID」を開業。専門店に焦点を当てた街のフェスティバル「KOZA SUPER MARKET」のほか、沖縄県内外でさまざまな企画を行う。

『沖縄タイムス』記者 又吉朝香さん

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『はじめての沖縄』岸 政彦著(新曜社/1,430円)

対話から見えてくるそれぞれの沖縄

沖縄に惹かれた社会学者が、沖縄県民と会話を重ねて、まとめた論考集。「特に印象的なのは県内の大企業に就職した"沖縄の安定層"の人の話。彼女は沖縄に米軍基地があるからこそ、外国人と話す機会や外国の文化があり、いいことだと考えている。しかし、別の日に彼女がふと、『沖縄ってほんと植民地だからね』とこぼす。私は友達と基地について深く議論することは少ないのですが、なんとなく米軍基地について賛成する人や反対する人、どちらでもない人に分断されるときがあります。深く議論しないからこそ、考え方が違うと距離を取ってしまうことがある。しかし、考え方が違っても通じる思いはある。もっと友達同士で会話を深めたいと思った一冊」

PROFILE
またよし あさか●1994年、沖縄県生まれ。琉球大学法文学部を卒業後、2020年に沖縄県の新聞社「沖縄タイムス社」に入社し、記者職として勤務。現在は経済班の農業担当として野菜価格の推移や農林水産物などの出荷状況を取材。

漫画家 今日マチ子さん

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『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』上間陽子著(太田出版/1,870円)

過酷な現実に向き合う少女の肉声

過酷な環境から脱出し、自分の居場所を見つけようとする女性たちの声を綴る本書。「家出少女をテーマにした作品『かみまち』を制作するにあたって、家出を経験した人たちに話を聞きました。低年齢から暴力にさらされること、安定しない家庭環境、話しづらい壮絶な体験。何度もめまいがしました。その一環で手にしたこの本は、現代の沖縄の少女たちの記録。私は以前、『cocoon』という沖縄戦での少女たちに着想を得た漫画を描きました。銃弾から逃げる少女たちと、現代の暴力から逃げる少女たちが重なる。それは、"普通"という恵まれた環境で育ってきた自分の驕りと向き合うことになり、沖縄と本土との違いも突きつけられる。彼女たちの存在を認め、朝を迎えるまでの物語をたどること。痛みを伴うけれど、向き合い続けたい」

PROFILE
きょう まちこ●東京都出身。沖縄戦に着想を得て描いた漫画『cocoon』は国外でも発売され、劇団「マームとジプシー」によって舞台化。近著『Distance わたしの#stayhome日記』もTV番組に取り上げられるなど話題に。

琉球大学准教授 山里絹子さん

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『「米留組」と沖縄 米軍統治下のアメリカ留学』山里絹子著(集英社/946円)

かつての敵国へ渡った留学生の思い

「米軍統治下時代の沖縄で、米国陸軍の奨学金を得て、アメリカに留学した沖縄の若者たちがいました。1000人余りの若者は"米留組"と呼ばれ、戦後の沖縄社会のリーダー的存在になります。沖縄戦で敵国・アメリカと戦った元少年兵。戦火を逃れ疎開先のお寺で聴いたラジオ英語講座。米軍基地内で働き憧れたアメリカの生活様式。戦争で荒廃した郷里への思いを胸に海を渡った"米留組"が見たアメリカとはどのような世界だったのか? 留学先での学びを帰郷後どのように生かしたのか? 復帰50年を迎える今、"米留組"の語りから、沖縄と私たちの未来をともに考えたいという思いから執筆しました」。留学経験者たちの貴重な証言と一次史料をもとに構成。

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『The Teahouse of the August Moon』監督:ダニエル・マン(Warner Archives/2,153円)

文化のギャップを描いた喜劇

米軍統治下の沖縄を舞台にしたハリウッド映画。「架空のトビキ村を舞台に、民主化政策を遂行しようとするアメリカ軍と沖縄の住民との間に繰り広げられる異文化接触と葛藤をユーモラスに描いた作品。沖縄や沖縄の人々に対するエキゾチックなまなざしが見られますが、アメリカ軍人が住民から逆に民主主義を教わる展開は風刺映画としても楽しむことができます。日本語字幕はありませんが、原作の翻訳版『八月一五夜の茶屋:沖縄占領統治一九四五』(彩流社、2012年)と併せて読みながら、アメリカの沖縄に対するまなざしを分析するのも興味深いです」。村に派遣された軍人をグレン・フォード、通訳をマーロン・ブランド、現地の芸者を京マチ子が演じる。

PROFILE
やまざと きぬこ●1978年、沖縄県生まれ。琉球大学法文学部を卒業後、ハワイ大学マノア校大学院社会学部博士課程修了。現在は琉球大学国際地域創造学部准教授。専門分野は、アメリカ研究、社会学、移民・ディアスポラ、戦後沖縄文化史、ライフストーリーなど。著書に『島嶼地域科学という挑戦』(共著・ボーダーインク)ほか。

『CONTE MAGAZINE』編集長 川口美保さん

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『太陽の棘』原田マハ著(文春文庫/704円)

終戦直後の沖縄で育まれた友情

戦後、首里儀保町にあった「ニシムイ美術村」に集う若き芸術家たちと、基地に派遣された青年米軍医との交流を描く。「沖縄は戦後、アメリカの支配下にあった歴史を持ち、いまだ基地問題に揺れています。そのことに触れずに沖縄は語れません。この小説には、戦火で焼け尽くされた土地で必死に生きる人々の暮らしぶり、困窮する生活の中でも創作を続けた芸術家たちの情熱が描かれています。登場人物たちは、アメリカと沖縄、支配する側と支配される側でありながら、アートを通して、心を通わせていく。戦後の混沌とした中での人間の生きる強さと輝きに胸が熱くなります」

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『琉球人の肖像』垂見健吾著(スイッチ・パブリッシング/9,800円)

"顔"を通して知る沖縄の歩み

沖縄を拠点に活躍する写真家が、地元の人々の顔に惹かれ、30年をかけて撮り続けたポートレート集。「前半は沖縄本島、琉球弧の島々に生きる人たちをモノクロームで撮影した作品。本土の人たちとは違う顔だちは、島がかつて琉球王国という大和とは違う国だったことを物語ります。そして、写真集後半は鮮やかなカラー写真。撮影場所は沖縄だけでなく、ハワイやニューヨーク、東京など。琉球王朝の時代から、戦前、戦後、日本復帰を経て、沖縄にはさまざまな国の血や文化がさまざまに混じり合ってきた。そんな沖縄の歴史を、今を生きる人々の"顔"を通して知ることができます」

PROFILE
かわぐち みほ●1973年生まれ、福岡県出身。雑誌『SWITCH』の編集者として約20年にわたり、数多くの特集を手がける。2014年に沖縄に移住。現在、首里でカフェ「CONTE」を営みながら、雑誌『CONTE MAGAZINE』を発刊。最新号の特集は沖縄で自然とともに生きる人々の取材を行なった「森へ来なさい。~森から生まれ、森に還る~」。

琉球舞踊家 宮城茂雄さん

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『琉球舞踊「諸屯」(しゅどぅん)syudon なら国際映画祭 for Youth 2021』YouTube配信:なら国際映画祭

琉球王朝文化の華から歴史を知る

琉球王朝時代から伝承される琉球舞踊。「『諸屯』は、琉球舞踊を代表する演目です。男性士族やその子弟のみに受け継がれ、8・8・8・6の悠長な琉歌で舞うという特徴を持ち、日本の伝統芸能、中国や東南アジアなどの芸能の影響を受けて発展しました。『諸屯』で身につけている装束は沖縄の染め物の紅型ですが、モチーフは大和(本土)の桜。また、音楽のベースとなる三線は中国の三弦をルーツに持ち、それが日本本土に渡って三味線につながる。こういったところからも琉球(沖縄)がたどってきた歴史を感じることができます」

PROFILE
みやぎ しげお●1982年、沖縄県生まれ。宮城流二代目家元・宮城能造に師事。琉球舞踊宮城流師範、組踊立方として舞台活動を展開。沖縄国際大学、沖縄女子短期大学では非常勤講師を務め、琉球芸能についての講義を担当。伝統芸能の普及発展に努めている。

タレント ryuchellさん

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『アメリカンビレッジの夜 ―基地の町・沖縄に生きる女たち』アケミ・ジョンソン著(紀伊國屋書店/2,530円)

基地の街が内包する矛盾と葛藤

日系4世の米国人女性ジャーナリストが沖縄米軍基地に関わるさまざまな立場の女性を取材。基地に反対か、賛成かという二項対立で語り切れない、現実が浮かび上がる。「僕が青春を過ごしたアメリカンビレッジの隣には米軍基地があります。この本はその基地と、沖縄県民の関わりについて書かれています。僕の友達には基地に勤めている人、そこで働く家族がいる人や、米兵と結婚した人が大勢います。沖縄では、米兵と結婚する女性は、"アメジョ"と呼ばれることがあり、それに誇りを持つ方もいますが、大半は否定的なニュアンスで使われる。そんな環境で育った沖縄県民は、メディアで報道される米軍基地のニュースを、一つの角度からでなく、さまざまな角度で見て、それぞれの思いと葛藤を抱えている。そんなリアルな沖縄を知ることができる一冊です」

PROFILE
りゅうちぇる●1995年生まれ、沖縄県出身。米軍基地のある沖縄本島中部で育つ。高校卒業後に上京した後は「愛」をテーマにメディア出演や楽曲活動などで活躍。2016年にモデルのpecoと入籍し、一児の父となった現在はSDGsや育児にまつわる発信が注目を集める。

VONS副代表 脇 詞音さん

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『夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま』琉球新報取材班著(朝日新聞出版/1,540円)

貧困の実態を"知らない"ことにしない

深夜の街を徘徊する沖縄の中学生、高校生に焦点を当ててまとめたルポルタージュ。「沖縄の若年層に広がる貧困、暴力の実態がまざまざと描かれている作品。ページを読み進めるたびに、"自分は何も知らずに生きていたのか"と鳥肌が立つ。自分が留学していたアメリカには、学生が食料を募り、貧しい人々に再分配する活動が広がっています。沖縄には、助け合うという意味の方言"ゆいまーる"がありますが、その精神は失われつつあるのではないかと。今日食べるものがない。そんな子どもたちを助けたいと思い、VONSに参加するきっかけになった本です」

PROFILE
わき しおん●2001年、沖縄県生まれ。アメリカ留学中に、フードドライブのボランティアを経験。帰国後、学生団体VONSに参加。沖縄県内各地でフードドライブ活動を行うほか、児童センターなどで異年齢が交流できるイベントを計画。@vons.mug20

劇作家・演出家 藤田貴大さん

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『水納島再訪』橋本倫史著(講談社/1,760円)

離島のリアルを地続きで捉える

沖縄本島北部の本部半島沖合に浮かぶ水納島。人口50人余りの離島に通いながら、島民の声を拾い、ありのままの風景や流れる時間を記録。「沖縄について書かれた本は貧困や過疎、子どもの非行などに焦点を当てて深く切り込んだものも多い中、橋本さんは島の姿をニュートラルに描く。そこがいいなと思います。離島ならではの不便さや人口減といった現状はあるものの、そこに生きる人たちは僕たちと同じように生活を営んでいて、水納島が抱える課題はどこにでも起こりうる。 そういう著者のまなざしに共感します。個人的には最近、水というキーワードで沖縄を探り直していて、その点でも数々の面白い発見がありました」

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『沖縄01外人住宅 OFF BASE U.S. FAMILY HOUSING』撮影:岡本尚文(ライフ・ゴーズ・オン/5,250円)

写真だからこそ伝わる沖縄の姿

沖縄とアメリカ、日本。そして、自分の関係を模索しながら撮り続ける写真家。本作では、在日米軍軍人のために建てられた"外人住宅"にフォーカス。「外人住宅=アメリカ統治下に置かれていた歴史とつながるが、岡本さんの目線はそこから一歩引いていて、ここがどこなのかわからなくなる。僕も岡本さんも沖縄からしたらよそ者だけど、知れば知るほど沖縄を描きたくなる。それぞれ、自分との距離を測りながら表現をしている感じがします。岡本さんが夜の沖縄を映し出した写真集『沖縄02 アメリカの夜 A NIGHT IN AMERICA』もおすすめです」

PROFILE
ふじた たかひろ●1985年生まれ、北海道出身。2007年より劇団「マームとジプシー」を主宰し、今日マチ子の漫画を舞台化した『cocoon』で第23回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。今春、沖縄でのワークショップとリサーチをもとにした新作『Light house』を那覇と東京にて上演。

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