見る人の恋愛観を試すような『ロブスター』

レオやらオスカーやらが話題な今、ちょっとへそを曲げて、へそ曲がりな映画を紹介します。海外のコピーは「型破りなラブストーリー」なのですが、「型破り」では済まない強烈な一作。タイトルが『ロブスター』なのは、「動物に変身する時は何になりたいですか?」と聞かれた主人公が、「ロブスターです」と答えるから。主人公は「いいチョイスですね」と褒められます。

そんなふうに観客はいきなりカフカ的設定に投げ入れられるのですが、どうやらこの映画の社会ではカップルであることが義務付けられているよう。何かの理由で独り身になってしまった男女は、ホテルのような施設に集められ、また相手を見つけるための再教育を毎日施されます。45日経っても見つけられなければ、動物に変身させられる。最初の質問はその時のためのものです。

そんな強制的な社会が片方にあるなら、もう片方にあるのがレジスタンス。社会から逃げ出した人々は森で暮らしながら、転覆を図っています。で、こっちは自由なのかというと、恋愛もセックスも禁止。同様に厳しいルールに従って、グループで共同生活を送っています。

とまあ、とにかく「恋愛」「カップル」「セックス」や、一人では暮らしていけない人間のあり方を、ギリシャ人監督のヨルゴス・ランティモスは次々奇妙なユーモアで解剖していきます。これが彼の最初の英語作品なのですが、そこにこれだけのスター俳優が集まったばかりか、「スターらしくない姿」を見せているのにもびっくり。小太りなコリン・ファレル、角刈りのベン・ウィショー、武闘派レア・セドゥなんて他では見られません。だからこそ一層笑えて、ぎくっとするようなムードを醸しています。

個人的には後半の森の場面よりも、前半のホテルの場面が印象に残りました。セミナーのように「カップルになる利点」「相手を見つける方法」が淡々と説明されるのですが、されればされるほどカップルになりたくなくなってくる。まあ、(特に動物に対して)残酷なシーンもあったりするので全員にはおすすめできないのですが、見た人とはじっくり語り合いたい気がします。私が論点にしたいのは「人を好きになるきっかけ」。恋愛観によって意見が分かれそうです。

『ロブスター』
監督/ヨルゴス・ランティモス
出演/コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、レア・セドゥ、ベン・ウィショー
2016年3月5日、全国順次公開

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映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。