脆さと強さが同居する、エレン・ペイジの魅力

『JUNO/ジュノ』(07)での来日取材時。ヴィンセント・ギャロ監督作『ブラウン・バニー』(03)について、エレン・ペイジが何か言いかけて、「あ、やべ」って顔で言葉に詰まったことがありました。その場が一瞬沈黙したあと、みんな大笑い。きっとあの悪名高いセックスシーンについて話そうとしたんでしょう。

そんなふうに思いのままに正直で、感情がすぐ出てしまうところは、俳優としてもキャラクターとしてもエレン・ペイジの魅力の一つです。見ているとまるで小さな子どもみたいに、心のなかでいろんなエモーションがくるくる入れ替わっている感じ。2014年にLGBTのイベントでカムアウトしたときにはスピーチの声が震えるほど緊張していて、彼女の決断を心から応援したくなりました。

もうすぐ公開される『ハンズ・オブ・ラヴ』は、そんなエレンの個人的な信条をサポートする一作でもあります。前半は二人の女性が出会い、恋に落ち、一緒に暮らしはじめるラブストーリー。後半は一人がガンを患い、残される者に「配偶者」としての社会的保障を勝ち取ろうとする――という実話の映画化です。時折メロドラマチックにはなるのですが、それでもエレン・ペイジとジュリアン・ムーア、それに二人を支えるマイケル・シャノンの演技の迫力に引き込まれました。

夏からNetflixで配信されているオリジナル作品『タルーラ』でも、エレン・ペイジ演じる主人公は別の形で年上の女性と絆を紡ぎます。役柄は車上で暮らす半分ホームレスのような若い女性、タルーラ。彼女はひょんなことから他人の赤ん坊を連れ去ってしまい、「これは私と元カレの子ども」と偽って、その元カレの母親の家に転がり込みます。タルーラだけでなくこの映画の女性たちはみんな人生に失意を抱えていて、でも他の誰かを守ろうとするときに初めて自分に向き合い、強くなろうとする。そのなかで大人でも子どもでもあるような、エレン・ペイジの個性が光っています。大作だけでなく、小規模な映画になるほど「どんなことやってるんだろう?」とチェックしたくなる俳優の一人です。



『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』
監督/ピーター・ソレット
出演/エレン・ペイジ、ジュリアン・ムーア、マイケル・シャノン
11月26日より、新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
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『タルーラ~彼女たちの事情~』
監督/シアン・ヘダー
出演/エレン・ペイジ、アリソン・ジャネイ、タミー・ブランチャード
Netflixにて配信中

映画ライター 萩原麻理プロフィール画像
映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。