2021.06.08

抵抗、祭り、そしてドラム【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音 vol.4】

UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ・ヴィトンやナイキなどのファッションブランドとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしMVや映画制作をする。

vol.4 抵抗、祭り、そしてドラム

『ボイス・オブ・ナガ』
ナガ族/ROLLERS Recordings
『ナガのドラム』
井口 寛/ROLLERS Recordings
『SUN∞』
サーファーズオブロマンチカ

 ミャンマー国軍の弾圧によって、日々ミャンマー市民の死者たちが増えているニュースを目にしては、胸が押しつぶされそうになる。遠くはない国で起きている圧倒的な暴力を前にして、自分の無力さに耐えられなくなるのだ。でも無力なりに、この現実をまずは知ることから始めたい。井口寛さんによる『ボイス・オブ・ナガ』は、ミャンマーの少数民族であるナガ族の生活音を記録したフィールドレコーディングが収められている。知らない言語による聴いたことのない歌声やログドラムによる演奏は、まだまだこの世界には未知なる美しい音であふれ返っているのだという感動を味わうことができる。同じくナガ族のドラム制作の過程を追ったドキュメンタリー映画『ナガのドラム』は、そんなナガ族の生活に迫り、ドラムを作る上での静かな熱狂を垣間見ることができる。叩き方によってさまざまな意味合いを持つ、この不思議なドラム音に魅了されて、国軍が弾圧をやめたらどんなにいいかな。ドラムにもすがる思いで考えてしまう。そして、このナガのドラムの音を聴いたとき、実験的なノイズサウンドを特徴とする、サーファーズオブロマンチカをふと思い出した。彼らのライブは、腐った社会に対する抵抗であり、そして同時に祭りのようでもあった。Vo.の宮原秀さんが祭りで指揮をとる村長のように手をあげて、熱狂でアタシたちを包み込む。すると、アタシたちは力を合わせて、巨大な木でできたドラムを運んでいるかのような気持ちになる。アルバム『SUN∞』はバンドの30年の歴史を見ることができる、終わらない闘いのようなベスト盤である。

Monthly Pick-up

『We’re All Gonna Die, But Here’s My Contribution』
Boyish
¥2,200/P-VINE
名門校バークリー音楽院で学び、今はニューヨークで活動するクィア女性のコンビが、本作で日本デビューを果たす。ふたりが奏でるのは、ドリーミーでサイケデリックなポップソングの数々。うまくいかない恋愛のこと、先が読めない時代のこと、たくさんの不安をそこににじませて、心の荷を軽くしていく。
『Daddy’s Home』
St.Vincent
¥3,300/Virgin Music LAS
アルバムごとにサウンドとペルソナを刷新し世界を驚かせてきた、奇才シンガー・ソングライターの4年ぶりの新作。前作『Masseduction』のとげとげしい感触から一転、今作を包むのは70年代ファンクのメロウで温かなグルーヴだ。日々生きにくさを感じている人たちに寄り添う彼女のまなざしも、終始やさしい。

SOURCE:SPUR 2021年7月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI.  text(Monthly Pick-up): Hiroko Shintani edit: Ayana Takeuchi

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