【辛酸なめ子レポート】ピカソとポール・スミスの才能の相乗効果でサプライズ感あふれる展覧会

「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」展が国立新美術館で開催。この展示名から、ピカソとポール・スミスは生前親交があり、ピカソの絵をモチーフにした衣装を展示しているのかと思いましたが、概要を見たら全然違ったコンセプトでした。敬愛しているピカソの作品にインスピレーションを受けたポール・スミスが会場のレイアウトを考案、という予想外の企画。時空を超えた天才同士のコラボに期待が高まります。

「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」展が国立新美術館で開催。この展示名から、ピカソとポール・スミスは生前親交があり、ピカソの絵をモチーフにした衣装を展示しているのかと思いましたが、概要を見たら全然違ったコンセプトでした。敬愛しているピカソの作品にインスピレーションを受けたポール・スミスが会場のレイアウトを考案、という予想外の企画。時空を超えた天才同士のコラボに期待が高まります。

【辛酸なめ子レポート】ピカソとポール・スの画像_1
セクション0の「トロンプ・レスプリ(精神を欺くもの)」

セクション0の「トロンプ・レスプリ(精神を欺くもの)」は、アッサンブラージュという手法で作り出されたオブジェ作品を展示。ピカソが好きな「牡牛の頭部」です。

パリ国立ピカソ美術館が所蔵するピカソの名作、というだけでも十分見応えがありますが、ポール・スミスが手がけたレイアウトや壁の色が素敵で、展示室を移動するたびに高揚感が。最初のセクション0の部屋「トロンプ・レスプリ(精神を欺くもの)」は、白い壁に自転車のサドルが並んでいて、さっそくピカソから、別視点からの物の見方を教えてもらったようです。サドルとハンドルを組み合わせることで、「牡牛の頭部」を形作っています。
「10代の頃の私は自転車競技の選手だった」というポール・スミスにとって、個人史やフランスの自転車競技の歴史ともリンクする大事な作品だそうです。フランスはサドルやハンドルのデザインがおしゃれで、日本のママチャリとは一味違います。

セクション3「バラ色の女性たち」

セクション3「バラ色の女性たち」は、ピカソがピレネー山脈のカタルーニャ側にある辺鄙な村ゴソルで、女性の絵を多く描いていた頃の作品が展示。

セクション2は「青の憂鬱」。1901年秋、ピカソは、親友カルロス・カサヘマスが命を絶ったショックから、深い青で孤独や憂鬱を表現するようになりました。深緑のシックな壁の色が「青の時代」と共鳴し、虚ろな表情のピカソの「自画像」がこちらをぼんやりと見ているようです。生気のない顔色とヒゲとこけた頬で老け込んで見えますが、この頃ピカソは20歳。でも、その後の作風の変化や精力的な創作ぶりを思うと、どんな人にも運気やバイオリズムが低迷するときがあって、その時期にいかに自分と向き合えるかが人生で重要だということがわかります。

セクション3「バラ色の女性たち」は一変してピンク色の明るい部屋。1906年秋、ピカソは女性をモチーフに、形態と空間を単純化する実験を続けていました。有名な「アヴィニョンの娘たち」に至るまでの習作も展示。原キュビスムが生まれようとする可能性があふれている展示室です。



セクション5「アッサンブラージュとコラージュ」

セクション5「アッサンブラージュとコラージュ」は、大量生産品や日用品を用いたコラージュの技法を用いた作品を展示。コラージュ作品にも卓越したセンスが表れています。

セクション4「キュビスムの実験室」は、アフリカ・オセアニアの美術や古代イベリア美術から影響を受けて、方向転換したピカソの作品を展示。キュビスムの芸術家たちは、自然の風景から日用品、人間などをモチーフにしていました。グレーとベージュのキュビスムに合わせた絶妙な茶色の壁もおしゃれです。

セクション5「アッサンブラージュとコラージュ」の部屋の壁は、ピンクやグリーン、ベージュなどの花柄のパッチワーク風の壁で、同じプリントの服がポール・スミスにあったら買いたくなるほど素敵です。ピカソとキュビスムの作家たち(ジョルジュ・ブラック、フアン・グリス、ジャン・メッツァンジェなど)は、大量生産品や日用品を用いたコラージュを制作。2次元にとどまらず、最初に出てきた自転車のサドルのようなオブジェ作品も生み出しました。「口髭の男」「グラスとタバコの箱」「パイプを持った男」など、渋い色調で、絶妙な構図でコラージュしているピカソのセンスに圧倒されます。太い線で輪郭を描いていた初期のキュビスムよりも洗練された印象です。

セクション6「古典主義の画家」

セクション6「古典主義の画家」。1910年代末から20年代初頭にかけて美術界を席巻した「秩序への回帰」と呼ばれる時代の波に、ピカソも乗っていたのを感じさせます。

セクション6「古典主義の画家」は、キュビスム色が姿を消し、古典主義的な具象表現に戻ったピカソによる人物画やデッサンを展示。白い壁紙がクラシカルです。ボール・スミス氏によると「昔のパリの官展(サロン)の壁」に着想を得たそうです。この頃、プライベートではロシア貴族の娘で踊り子のオルガ・コクローヴァと結婚し、長男が生まれています。家庭を持って、少し守りに入りたい時期だったのでしょうか。家族を描いたデッサンのタッチが優しくて幸せ感があふれています。また、オルガを描いた肖像画がかなり美しくてリアルなタッチなのはリクエストされたのかもしれません。

セクション7「子ども時代」の、ブルーと黄色の菱形の壁も新鮮でした。アルルカン(道化師)に自己を投影していたピカソ。この壁の柄は「アルルカンに扮したパウロ」という息子を描いた作品の服と同じです。親子二代のアルルカンマインドとその勇気を堪えるような空間デザインです。「アルルカンに扮したパウロ」が一部彩色されておらず、あえて未完成のままになっているのは、「仕上げる」というのは「おしまいにする」ことで、「子どもの世界がずっと続くように」という願いが込められているそうです。ずっと未完成のサグラダ・ファミリアが生きている建築と言われるのと同じかもしれません。

【辛酸なめ子レポート】ピカソとポール・スの画像_6
セクション9「ストライプ」

セクション9「ストライプ」は、1930年代にストライプ模様を実験的に用いていた頃の作品。「泣く女」は、戦争の苦しみも感じさせます。

セクション8は「闘牛」。ピカソにとって欠かせないモチーフです。壁は真っ赤というのも、生と死の表現にマッチしています。ラフなタッチでシルエットだけで描かれた闘牛シーンでも十分激しさが伝わってきて、神がかった画力を実感。

セクション9「ストライプ」は、実験的にストライプ模様を用い、女性たちの肖像を描いた作品が展示。顔の影や髪、帽子などに縦や横、斜めの線が描き入れられています。背景がストライプな作品も。展示室の壁の色もグリーン、イエロー、ネイビーのカラフルなストライプです。有名な「泣く女」のモデルになったのは写真家・画家のドラ・マールでピカソの愛人でした。「読書」のモデル、マリー=テレーズ・ワルテルは、17歳で45歳のピカソと出会い、若くして愛人になったそうです。「古典主義の画家」セクションでは結婚して幸せそうなピカソでしたが、いつの間にこんな……。作風と同じく、常に変化や刺激を求めてしまうのでしょうか。

セクション13「ピカソのボーダーシャツ」

セクション13「ピカソのボーダーシャツ」は、ピカソの自己プロデュース力が表れているボーダーシャツの実物も展示。海辺のバカンス感もあり、自由な印象です。

セクション12は「草上の昼食」。1950年代、エドゥアール・マネの傑作「草上の昼食」の再解釈に取り組んでいたピカソ。青々とした草のような壁に、「草上の昼食(マネに基づく)」などが展示されています。男性は着衣だったマネの絵と違って、全員が全裸のバージョンもあり、ジェンダーの平等意識を感じました。

セクション13「ピカソのボーダーシャツ」では、メディアが形づくったピカソ像を表現。ふと上を見ると、大量のボーダーシャツが下がっていました。ピカソのトレードマークでもあり、自画像「喫煙者II」でも自分に着せています。成功しても、カジュアルな仕事着を身につけることで、親近感を与えていました。ポール・スミスも「ピカソがボーダーシャツを着る? ほとんどパーフェクトすぎる!」「とにかくシンプルなのが素晴らしい」などとテンション高めにコメントしています。ちなみにポール・スミスのオンラインショップを見たら、太めのボーダーのTシャツが出ていました。やはりデザイナーにとって定番のアイテムなのでしょう。

セクション14「晩年」

セクション14「晩年」は、1961年以降南仏で創作活動していたピカソの作品を展示。ワイルドでラフなタッチが魅力です。

セクション14は「晩年」。ピカソは最晩年でも並外れた創造性をほとばしらせていました。90歳を越えても、ワイルドなタッチで人物画などを描いていたピカソ。晩年の作品を、グロテスクだと批評する声もあったそうですが、プリミティブなタッチで人間の本性を描きだしているように見えて、ピカソの洞察力に戦慄しました。

展覧会のポスターを壁中に展開したセクション15

展覧会のポスターを壁中に展開したセクション15「展覧会のピカソ」。「ポスターの集積」に着想を得たポール・スミスによる圧巻の展示空間です。

セクション15は「展覧会のピカソ」。亡くなったところで終わるのではなく、世界的な名声を表す数多くの展覧会ポスターを並べることで、観る人が最後にポジティブな気持ちになれる構成です。ポール・スミスのピカソへのリスベクトが感じられます。生前は交流がなかったそうですが、もしかしたらピカソが、自分の作品を今風にセンス良く展示するならポール・スミスしかいない、と天国で采配したのかもしれません。

「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」
期間:~ 2026年9月21日(月・祝)
時間:10:00~18:00 (日~木)10:00~20:00(金・土)※入館はいずれも閉館時間の30分前まで
休:毎週火曜日 ※8月11日(火・祝)は開館、8月12日(水)は休館
会場:国立新美術館 企画展示室2E
東京都港区六本木7-22-2
https://www.nact.jp/exhibition_special/2026/picasso_paulsmith/


辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデ ザイン専攻卒業。アートやアイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。主な著作は『江戸時代のオタクファイル』(淡交社)『女子校礼讃 』(中央公論新社)『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)など多数。Twitterは@godblessnamekoです。