黒と白だけで構成される、唯一無二の版画世界。「ヴァロットン―黒と白」、三菱一号館美術館で開催中

19世紀末のパリで活躍したナビ派の画家にして、黒一色の革新的な木版画で知られるフェリックス・ヴァロットン。その世界有数の版画コレクションを誇る東京・丸の内の三菱一号館美術館では、2023年1月29日(日)までの会期でヴァロットンの魅力に迫る「ヴァロットン―黒と白」を開催中だ。

19世紀末のパリで活躍したナビ派の画家、フェリックス・ヴァロットンの展覧会「ヴァロットン―黒と白」が、現在、東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中。三菱一号館美術館が誇る、世界有数のヴァロットンの版画コレクションの全貌を紹介する、またとない機会だ。

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フェリックス・ヴァロットン 《嘘(アンティミテI)》 1897年 木版、紙 17.9×22.5cm 三菱一号館美術館

ヴァロットンは1865年スイス・ローザンヌ生まれ。1882年に16歳でパリのアカデミー・ジュリアンに入学、サロンに肖像画などを発表するようになった。当初はドライポイントやエッチングで家族や知人、敬愛する過去の巨匠の模写などを制作していたが、1891年に友人で師でもあった画家、シャルル・モランらの手解きで初めて木版画に挑戦している。翌年には『芸術と思想』誌に紹介記事が掲載されたり、薔薇十字会展に参加したりしたことから、彼の版画はフランスのみならずヨーロッパ中で話題に。ヴァロットンは芸術家による創作版画(エスタンプ・オリジナル)の機運が高まるなかで、木版画復興の立役者となった。

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フェリックス・ヴァロットン《学生たちのデモ行進(息づく街パリⅤ)》1893年 ジンコグラフ 三菱一号館美術館

20代の頃のヴァロットンはパリの街路や公園を歩き、そこで見る同時代の流行や文化を多く描いたが、最も関心を寄せたのは群衆や社会の暗部を露呈する事件などだった。本展には7点の連作からなる〈息づく街パリ〉をはじめ、多分に政治的メッセージを含む作品も展示。時代の空気を感じることができる。

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フェリックス・ヴァロットン《お金(アンティミテ Ⅴ)》1898年 木版、紙 17.9×22.6cm 三菱一号館美術館

1893年初めには、ピエール・ボナールやモーリス・ドニといったパリの若い前衛芸術家たちのグループ、ナビ派に遅れて仲間入り。ただ、ボナールやドニ、ケル・グザヴィエ・ルーセルやエドゥアール・ヴュイヤールらが主に多色刷りのリトグラフ(石版画)を手がけたのに対し、ヴァロットンは黒一色の木版画を作り続けた。彼のブラック・ユーモア溢れる視点と、卓越したデザインセンスは、絵画や版画と並行して手がけていた挿絵などにも大いに反映されている。

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フェリックス・ヴァロットン《怠惰》1896年 木版、紙 17.8×22.1cm 三菱一号館美術館

ヴァロットンは1894年頃から版画でも油彩でも、室内画を多く手がけるようになる。彼は対象を単純化し、黒と白でドラマティックに対比させることで、演劇の舞台のような密室の緊張感を描き出すことに長けていた。一方で、家具や調度品などの装飾的なアクセントの表現も見事。《怠惰》はその真骨頂と言える。

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フェリックス・ヴァロットン《有刺鉄線(これが戦争だ!Ⅲ)》1916年 木版、紙 三菱一号館美術館

1899年の結婚を機に、パリの富裕層の仲間入りを果たしたヴァロットン。当初は絵画のみに打ち込むと宣言したが、時折版画作品も手がけていた。自身も小説を書いた彼は、『にんじん』でお馴染みの作家で親しい友人だったジュール・ルナールの作品に多くの挿絵を提供したりもしている。第一次世界大戦の勃発後は再び積極的に版画制作に取り組むようになるが、1917年には従軍画家として前線へ。今回展示されている連作〈これが戦争だ!〉は、悲劇的な現実への画家のマニフェストでもある。

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フェリックス・ヴァロットン《アンティミテ》版木破棄証明のための刷り 1898年 木版、紙 三菱一号館美術館

本展では希少性の高い連作〈アンティミテ〉〈楽器〉〈万国博覧会〉〈これが戦争だ!〉の揃いのほか、約180点のコレクションを一挙初公開。また、三菱一号館美術館と2009年より姉妹館提携を行うトゥールーズ=ロートレック美術館開館100周年を記念した、ロートレックとの特別関連展示もある。ヴァロットンとロートレックが同じ主題を扱いながら、全く異なる視点で作品を制作しているのがわかる比較展示もあり、非常に面白い。

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展示空間の一部。ヴァロットンの絵が壁面などにフィーチャーされていたり、アニメーションが効果的に使われているなど、展示方法にも見どころがいっぱい。

本展は音声ガイド(¥800)にも力が入っている。ナビゲーターは声優・俳優の津田健次郎が担当。サラウンド録音による立体的な音声で、ヴァロットンの世界に没入させてくれる。この音声ガイドは「三菱一号館美術館音声ガイドアプリ」(iOS/Android)で配信。下記のホームページよりスマートフォン、タブレットに一度ダウンロードすれば、会期中はいつでも視聴可能だというのも嬉しい。グッズ売り場も充実しており、特にポストカードを簡単かつ本格的に額装できるフレームも販売しているので、是非チェックしてほしい。

なお、三菱一号館美術館は2023年4月10日(月)より2024年秋頃まで、修繕工事のため長期休館となる。19世紀末に日本の近代化を象徴したジョサイア・コンドル設計の建築もしばらく見納め。今のうちに、改めてその魅力に触れてみては。


「ヴァロットン―黒と白」
会期:〜 2023年1月29日(日)
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで(金曜と会期最終週平日、第2水曜は21:00まで)
休館日:月曜、12月31日(土)、1月1日(日・祝) ※但し1月2日(月・休)、1月9日(月・祝)、1月23日(月)は開館
入館料:一般 ¥1,900、高校・大学生 ¥1,000、小・中学生 無料
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://mimt.jp/vallotton2/

 

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