カオスな頭の“宇宙” をのぞいてみた。コリーナ・ストラーダを知っているか

今、感度の高いモードラバーを夢中にさせているブランド、コリーナ・ストラーダ。まるで大人の遊園地のような、はたまたおとぎの国のような。カオティックで唯一無二の世界観。デザイナーであるヒラリー・テイマーのNYのスタジオを訪ね、その頭の中に入ってみよう。

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interview with Hillary Taymour

 昨年9月に行われたコリーナ・ストラーダの2020年春夏のランウェイ。新時代を祝福するにふさわしく、自由奔放なスピリットがほとばしっていた。マンハッタンの公園にしつらえたキャットウォークに登場したのは、デザイナーであるヒラリー・テイマーの家族や友人、彼女が敬愛するアーティストたち。人種、体型、年齢、ジェンダー、セクシュアリティもさまざまな面々が色とりどりのサイケデリックなプリントをまとい、青空の下を生き生きと闊歩する。その様子は60〜70年代、ベトナム戦争下のアメリカに起きたヒッピームーブメントにおけるフラワーチルドレンを彷彿させた。ヒラリーのクリエイティビティの源泉を知るべく、チャイナタウンにあるデザインスタジオを訪ね、インタビューを試みた。

バランス感覚に長けた現代版ヒッピーたち

「コリーナ・ストラーダのファンは革命的なスピリットを持っている人が多いんです。現代版ヒッピーといってもいいかもしれない。今、私たちの身の回りに渦巻く環境問題やたくさんの社会問題。それらに直面しても沈黙することなく、デモにも積極的に参加するような人々です。でも、古くさい服を着ているわけじゃない。そのバランスが実に今っぽいと感じます」

 ショー会場の座席には彼女の友人であるアクティビストでSlow Factoryを主宰するセリーヌ・セマーンによるサステイナブルなライフスタイル目標が書かれたリリースが置かれていた。“肉は少なめに、もっと野菜を食べよう。庭を作り、自分で食べ物を育ててみよう。料理もしてみよう。できるだけ公共交通機関を使い、ガソリンで動く車には乗らないようにしよう。地元の掃除ボランティアにも参加してみよう”などなど、すぐに実践できそうなアイデアが書かれている。

「今、私たちができる環境問題へのアプローチを提案したかったんです。会場にはニューヨーク州北部の農場と提携したグリーンマーケットを設置しました。野菜などの食材も、誰がどのように育成したかといった背景を知ることが大切だという思いからです」

 今、環境問題をテーマとしたサステイナブルなコンセプトを掲げるのはファッション業界ではトレンドのようにもなっている。しかし、常に新しい服を製造し、購入と消費を促すファッションのシステムと環境保護はそもそも共存が難しいのではないか?

「確かに、今私たちは服を作りすぎています。だから来季からは、過去ベストセラーだったアイテムも再登場させる予定です。たとえば数シーズン前のスウェットを、新たなスタイリングで見せる。いつも新品を買う必要はない、という提案をしていきたいのです」

 この2020年春夏コレクションからは、スウェットとTシャツ以外はすべてデッドストックの生地を使用して生産する予定。ショーというプラットフォームが新作を見せるだけでなく、新たなスタイル、生き方の指針を見せる場としての機能も持ち始めている。

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デザインスタジオはマンハッタンのチャイナタウンに。彼女のアイデアがぎっしり詰まったおもちゃ箱のような空間だ。「チャイナタウンのおばあちゃんたちの着こなしには、いつもインスパイアされる」とヒラリー。2020年秋冬では、スタッフ全員で一緒に描いた大きな家の絵がそのままプリントに。photography:Chloé Horseman

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SNSなどで人気のリース・ブルスタイン(上)との協業コレクションも準備中。この春ジャーナル スタンダードから発売。

2020年春夏コレクションではヒラリーの家族や友人など個性豊かなモデルたちが起用された(左から2枚目の左が、本撮影も担当した友人のフォトグラファー、チャーリー・エングマンの母、キャサリン)。会場には店頭に並べるには不出来とされた不揃いな野菜や果物を定期配送するプログラム「Misfits Market」と提携してグリーンマーケットがしつらえられ、ショー終了後は観客たちに無料提供された。

着想源は幼い頃の自分、リトル・ヒラリーかもしれない

 メッセージ性を持ち、アーティストたちと協業しながらコレクションを発表する手法は、90年代後半から2000年代初頭のNYダウンタウンのデザイナーたちからの影響も感じられる。

「その頃私は13歳くらいでまだ子どもだったから、そんなことなんて知る由もなかった! LAに住んで、お尻に蝶々がついたフランキーBかミス シックスティのジーンズにチューブトップを着てブリトニー・スピアーズなんかを歌っていました。ラインストーンがついたキラキラのベルトに、チェッカー模様のVANSを履いて。振り返れば、今作ってるものと共通点が多いかも。でもその頃はジュニア向けブランドはほとんどなかったから、着たいものがあまりなくて。当時の自分=リトル・ヒラリーが着たかったもの。もしかしたら、それが一番大きなインスピレーションかもしれません」

 子どもの頃の夢を尋ねると、「早く大人になりたかった。昔から大人びていて、周りになじむのが難しい子どもだったんです。私の両親は昔は本当に保守的で、しつけが厳しかったから、医者か弁護士、金融系の仕事に就くように育てられました。成績はよかったんですが、やっぱり途中でドロップアウトして、FIDMでファッションデザインを学ぶことに」と振り返る。

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コリーナ・ストラーダの2020年春夏コレクションのサンプルを、特別にNYから取り寄せて撮影! 現代版ヒッピーと楽園をイメージ。photography:Takako Noel〈L MANAGEMENT〉 styling: Fusae Hamada hair & make-up: Tori. model: JACQUES, Oksana, Beni flower arrangement: Alexander Jyulian neon art: ifax!

(上)性別も年齢も超えて着られるのがコリーナの魅力。サイケデリックな柄の長袖シャツに、デッドストック生地の半袖シャツをレイヤリング。半袖シャツ¥32,000/ジャーナル スタンダード表参道店 長袖シャツ・パンツ・スニーカーは参考商品(以上すべてコリーナ・ストラーダ) その他/スタイリスト私物

(中)タイダイのスウェットはコレクションする人もいるほどの人気アイテム。胸元にフラワーモチーフのビジューがきらめく。スウェット¥53,800(予定価格)/grapevine by k3 メッシュ素材パンツ・スニーカーは参考商品(以上すべてコリーナ・ストラーダ)

(下)ベロア地のドレスにも、ヒラリー・テイマーの童心あふれるペイントがほどこされている。ブルードレス¥56,000/ジャーナルスタンダード 表参道店 ブルゾン・スニーカーは参考商品(以上すべてコリーナ・ストラーダ) 靴下/スタイリスト私物

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コミューン的家族とつくるサステイナブルな世界

 ルックブックの撮影はもちろん、春夏のショーではスタイリングも手がけた、写真家のチャーリー・エングマン(本記事のポートレート撮影も担当)との出会いは約10年前。きっかけはcraigslistというオンライン掲示板だ。

「インターンを募集していて、彼はその応募者だったんです。今思えば、オンライン史上最高にロマンティックな出会いだったかもしれない。デートのカテゴリーではなかったけど(笑)」

 最近ではチャーリーの母、キャサリンも、モデルとしてルックブックやショーに参加している。

「彼女は心の奥底から母性オーラが出ているような人! モデルとして来ているからヘアメイクの椅子でじっとしていてほしいときも、現場のみんなを思いやって、気づけばワインやクッキーを用意していたりする。撮影やショーにおいては、不安というものが彼女には微塵も存在しなくて、自由そのもの、みたいな人なんです」

 もしかしたら、キャサリンはみんなのお母さんなのかもしれない。家族という言葉の意味や定義がコリーナ・ストラーダの周りでは、とてもフレキシブルに感じられてくる。

「そのとおり。キャサリンは私の“お母さん”でもある。今の時代ふたりのお父さんがいる家庭もあるし、ひとりのお母さんと子ども、犬、という場合もあるかもしれない。 2020年代、家族の形はもっとおおらかでいい」

 確かに2020年春夏のショー(テーマはコミュニティ)では、新しい家族、そして愛の多様性が示唆された演出も印象深かった。

 これから始まる新たな10年間、私たちにはどのような未来が待っていて、コリーナ・ストラーダは、どのように進化していくのだろう。

「私ひとりだけの力では世界をサステイナブルに変えられない。だから、ほかのデザイナーやブランドとも私たちのスキルや物作りの手法を共有したい。そして大きな会社とより大きな規模でコラボレートしてみたいんです。そうすれば、グリーンな物作りのコミュニティをより広げることができるから」

Profile
Hillary Taymour(ヒラリー・テイマー)はNYベースのブランド、「Collina Strada」のデザイナー。LA出身。2008年、バッグブランドとしてスタートし、その後NYに移住してからはウェアも含めたフルコレクションとして発表している。創業時からサステイナブルなコンセプトを掲げ、2019年度はCFDA/VOGUE基金にもノミネートされた。ブランド名は彼女のニックネームから。
https://collinastrada.com

SOURCE:SPUR 2020年4月号「コリーナ・ストラーダを知っているか」
photography: Charlie Engman interview & text: Akiko Ichikawa

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