なぜ女性の“オバケ”が多いのか? ホラーとジェンダーを映画監督・安里麻里さんと作家・背筋さんと読み解く

幽霊という言葉から思い浮かぶのは、白装束に長い髪を振り乱した「女」。古くからなぜ女性が化け物にされてきたのかを、さまざまな視点から分析する

幽霊という言葉から思い浮かぶのは、白装束に長い髪を振り乱した「女」。古くからなぜ女性が化け物にされてきたのかを、さまざまな視点から分析する

INDEX

1.ホラーの作り手に聞く、女と恐怖の話

ホラー作品を多く手がける映画監督の安里麻里さんと作家の背筋さん。恐怖の使い手は、物語におけるジェンダーをどう見ているのか?

なぜ女性の“オバケ”が多いのか? ホラーの画像_1
©1998「リング」「らせん」製作委員会

©1998「リング」「らせん」製作委員会

女性の幽霊には男性の願望が表れている

――ホラー映画を多く手がける安里さんと作家の背筋さんは、お仕事を通じて交流があるそうですね?

背筋 はい。昨日も連絡をしていたんです。二人とも普段ジェンダーを気にして作品を作ってないから「明日の対談、どうしよう?」って話していました。

安里 実は以前、ヨーロッパのソフトウェアの会社から取材を受けたときも「日本では江戸時代の幽霊画なんかを見ると、女性の幽霊が多いけれどなぜか」と聞かれて。言われてみると、そうなんですよね。

背筋 『四谷怪談』のお岩さんとか、『番町皿屋敷』のお菊さんとかですね。

安里 そう。で、考えてみると、昔は社会の中で女性は虐げられていたので、ひどい目にあって亡くなった女性が恨めしや~と出てくることにリアリティがあったんじゃないかと。そして男性のほうも女性に悪いことをしたという自責の念があったから、幽霊が女性の姿をしていることが多かったのではないかと思いました。

背筋 それと、昔は怪談を作るのも語るのも男性だったわけですよね。だから「女の人にはこうあってほしい」という男性の視点や願望が、無意識かもしくは自覚的に女性の幽霊に託されていたんじゃないかと。たとえば恋人に身請けされる約束をしていた遊女が裏切られて川に身投げした。その遊女の幽霊が、夜な夜な柳の下に現れるみたいな話がよくあります。そこには、女性は亡くなったあとも自分のことを思い続けてほしい……という男性の願望が投影されているんじゃないでしょうか。

安里 女性からしたら「そんなことあるんかい!?」って感じですけれど(笑)。現代でもホラー作品の監督は、男性が多いから、そういう男性の願望が定型化しているところがあるのかもしれないですね。

『近畿地方のある場所について』

背筋著 KADOKAWA/1,430円

『近畿地方のある場所について』

背筋さんのデビュー作。現実と物語の境界を曖昧にした構成により恐怖がより身近なものに。自ら謎解きする感覚も味わえる。

 

女性のほうがビジュアルで幽霊らしさを出しやすい

――作品を作るときにジェンダーは意識しないというお話でしたが、あえて性別にこだわった作品はありますか?
安里 『劇場版 零~ゼロ~』(2014)という作品は、学校の寮で生徒が集団で呪いにかかるという話でした。このときは幽霊をホラーっぽい印象ではなくて、白昼夢のようなイメージで、美しく描写したかったんですね。それで男性ではなくて中条あやみさんをはじめ、少女たちをたくさん使って撮りました。

背筋 安里さんの話を聞いていて思ったんですけれど、女性の幽霊が多いのはビジュアルをつくりやすいというのもあると思います。女性は男性に比べると普段から身ぎれいにしていることが多いから、洋服や髪型などの装いを崩すことで奇妙さ、不穏さを演出しやすいんですよ。

安里 確かに髪の毛をボサボサにするだけで異常な雰囲気が出るし。

背筋 黒髪ロングの女性が前傾姿勢になっただけで不穏に見えてしまう。一方、男性の場合、服装では変化を出しづらい。だから日本の幽霊描写で男性が出てくるときは、だいたい制服を着ているんです。警察官とか警備員とか。

安里 女性の幽霊のほうが圧倒的にコスパがいいかも(笑)。小説でもそうですか?

背筋 私はデビュー作『近畿地方のある場所について』を書いたとき、女性の霊、男性の霊、子どもの霊と、あえてさまざまな性別・年齢の霊が出てくるようにしました。偏りがないほうが幽霊になった理由が多様になると思ったからです。
ただやっぱり文章でも女性のほうが幽霊らしさを描写しやすいんですね。白いワンピースの女性が泥だらけになって井戸から出てきた――と書けば、みんなが頭の中に同じ像を思い描くことができるけれど、男性だと服装ひとつとってもひと手間かかるように、段取りや説明が必要になるので。

安里 わかります。でも、女性の幽霊のほうが怖さを出しやすいからとか、それを狙って性別を決めることはないですよね。

背筋 ですね。あくまで描きたいテーマがあって、それを表現するにはどんなキャラクターがいいかを考えるのが先ですね。

――お二人が影響を受けたホラー作品で、ジェンダーの要素が感じられるものは何かありますか?

背筋 私はやっぱり映画『リング』(1998)です。主人公の女性は、呪いのビデオを観てしまった息子を助けるために、最後、恐ろしい決断をするんですね。一方、呪いのビデオに出てくる貞子も、生前は母との関係に複雑な事情を抱えています。母と子の絆の強さや歪みは、ホラーとすごく相性がいいなと思いました。

安里 『リング』は、原作の小説では父親が主人公なんですよね。映画では主人公を母親に変えたことで世界観がガラッと変わって、一気にホラー味も増したし、物語が普遍化したように感じます。

背筋 そうですね。父性が母性より劣るとか、そういうことではなくて、母と子が深い愛情のシンボルとして社会の中で記号化されているということでしょうね。

安里 私は黒沢清監督の映画『CURE』(1997)がすごく好きなんです。催眠術によって人々の心の奥底に眠る憎悪が呼び覚まされるというサスペンス映画です。その中に女性の医師が出てきて、小さい頃から「女のくせに」「女は男より劣っている」と言われ続けてきたために、潜在的に男性に対して憎しみを抱えていたことが催眠術で露わになっていくんですね。それがすごく真に迫っていて。ホラーやサスペンスは、人の心の闇を描きやすいんだなと思いました。
今の時代でも女性が生きる中で受ける圧迫感とか恐怖って、男性が受けるものより深いような気がするんです。いくら女性が強くなったとはいえ、体力的には男性に劣るし、暴力はやはり弱者に向かうので。

背筋 だから女性や子どもが追いつめられる場面に多くの人は共感するんでしょうね。それは母子の絆同様、時代を問わないものだと思います。とはいえ、ホラーにおける性別の役割が固定化されないように作り手は気をつけないといけないと思っています。

『CURE』

安里さんの師匠でもある黒沢清監督のサイコ・サスペンス。連続猟奇殺人事件を追及する刑事と、事件に関わる謎の男を描く。

 

背筋さんプロフィール画像
背筋さん

2023年『近畿地方のある場所について』で作家デビュー。実録を装ったモキュメンタリーブームを巻き起こし、2024年「このホラーがすごい!」国内編1位を獲得。著書に『穢れた聖地巡礼について』『口に関するアンケート』など。

安里麻里さんプロフィール画像
安里麻里さん

2004年、長編映画の監督デビュー。『呪怨 黒い少女』(2009)、『リアル鬼ごっこ』シリーズ、『バイロケーション』(2014)などホラーやアクションを手がける。2019年『アンダー・ユア・ベッド』がヒットし、ロンドン・イースト・アジア映画祭などに出品。

2.民俗学から見る、伝承の中の女の化け物

怪談や奇譚など、伝承に登場する女の妖怪。それらが生まれた背景を専門家に聞いた

危険を伴う妊娠・出産。亡くなった妊婦は妖怪に

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姑獲鳥

「そもそも妖怪の大多数は性別を問わず、生み出されてきたと思います」と言うのは、民俗学の視点から妖怪、怪異を研究している安井眞奈美さん。
「そんな中でも雪女、蛇女、砂かけばばあ……など明らかに女性として描かれている妖怪や幽霊もいますので、そこから、当時の女性たちが置かれた社会的な背景について、考えてみることができます」

まず挙がったのが、妊娠・出産という女性特有の、命の誕生にまつわる妖怪だ。
「たとえば『姑獲鳥』は、難産で亡くなった女性の霊が妖怪化したもので、近世の妖怪画によく登場します。血に染まった腰巻をまとい、赤子を抱いて水辺に立っていて、通りすがりの人に、髪の毛をとかしたいから、赤子を抱かせようとしたりする妖怪です。

また妊産婦が亡くなった後、お墓の中で赤子が産まれる〝墓中誕生〟の伝承もあって、そこから生まれたのが、『子育て幽霊』譚です。亡くなった母親の幽霊が夜な夜な子どものために飴を買いに行くという話が伝わっています。

昔は妊娠・出産は、おめでたいだけではなくて、母親にとっても赤子にとっても、今以上に命の危険を伴うものでした。そして妊産婦が亡くなると成仏できず、その家に禍いをもたらすとも考えられていたんですね。母親の赤子への強い執念や無念に思う気持ちが、成仏できなくする――といった想像が、このような妖怪や幽霊を生み出す背景にあったと思います」

一方、女性が怨みや嫉妬から妖怪へと変化したり、生霊となったりして男性を狙う物語も近世には多く生み出されていった。
「その代表が、能や歌舞伎の『道成寺もの』として知られる僧侶・安珍と清姫の物語です。安珍にだまされた清姫が怒り狂って大蛇になり、安珍を焼き殺すという話です。伝承における女性の嫉妬や執着心は、そのくらい強力なものであり、女性の嫉妬には解決の道がないと考えられていたんですね。

嫉妬に狂った女が蛇になる〝女人蛇体〟は、日本各地の怪談集でよく見られます。この背景のひとつには、当時、物語の書き手や語り手に女性よりも男性が多かったことが挙げられます。その中で生み出されていく物語は、女性の嫉妬というものが非常に好まれた素材のひとつでしたので、定型化されていったということがあると思います」

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蛇女

ちなみに「蛇に狙われる女性」というのも伝承によく登場するテーマだとか。
「特に女性器に蛇が侵入する、という伝承は古くから存在していて、襲われた女性は亡くなったり、蛇の子を宿したりします。近代になっても、農作業の休み中に昼寝をしていると、蛇が性器に入って抜けなくなった、という言い伝えが各地に広がりました。当時はまだ女性が着物の下に下着をつけていなかったので、あたかも実際にあった話のように、そこに尾ひれがついて語られていったんですね。もしかしたら女性を襲ったのは男性で、それが蛇に置き換えられただけかもしれません。いずれにしても、無防備であれば女性は狙われる、といった性に対する当時の人たちの意識のありようがうかがえます」

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山姥

社会から逸脱したものとして、女性の妖怪が描かれることも少なくないと言う。
「山に棲む鬼女『山姥』はその代表格です。かつて貧しい山村などで〝姥捨て〟の伝承があったように、女性は老いると山に追われ、妖怪になると想像されたわけです。一方、山姥は負のイメージだけでなく、民話・金太郎の母としての性格もあり、人助けをするプラスのイメージもあります。しかし、女性は年をとると逸脱者になるという考えは差別的ですし、ある意味、女性であるがゆえに妖怪になったとも考えられます。

つまり男性社会においては、女性は常に他者であり、女性であるということが、すでに妖怪になる素地を含んでいるということです。他の妖怪に比べて、女性の妖怪のほうが、女性性や怪異性が強調される場合が多いのは、そのためだと考えられます」

男性中心の社会で、男性の目線で生み出されていった女の妖怪たち。こうした世界観は、現代のジェンダー観に何か影響を及ぼしているのだろうか。
「前出の〝墓中誕生〟はやがて英雄が誕生するための下地になっていきます。物語の中で、母親はどうして亡くなったのかというような記述は消えて、ただ英雄を産むだけの存在になるものもある。女性は、物語の背景にすぎなくなっていきます。

また近世に流布した〝血盆経〟という中国の偽経の経典があります。これが日本で独自に解釈されて、女性は出産や月経の血によって穢れているので、そのままでは血の池地獄に落ちるという教えを説いて、恐怖で女性の信仰心を高めようとしたんです。非常に女性蔑視的な考え方ですよね。

現代でも日本では何かと女性が周辺に追いやられてしまうのは、このような伝承の背景にある、女性は他者であるという意識が影響しているからかもしれません。ただ、当時の人々は、物語を生み出すことで理不尽な境遇や恐怖を受け入れてきたという現実がありますので、それを批判するのではなく、当時の人々の暮らしに注目して、この問題を考えていきたいと思っています」

安井眞奈美さんプロフィール画像
安井眞奈美さん

1967年、京都府生まれ。国際日本文化研究センター 教授。文化人類学、日本民俗学の視点から、妊娠、出産に関する習俗や妖怪・怪異を研究。著書に『狙われた身体:病いと妖怪とジェンダー』(平凡社)、『怪異と身体の民俗学:異界から出産と子育てを問い直す』(せりか書房)など。

3. Jホラーの中の主な女性の幽霊

1988年『邪願霊』

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Jホラーの源流と位置づけられる作品。お蔵入りになったアイドルの密着番組を再編したという体裁のフェイクドキュメンタリーだ。取材映像の中に映り込み続けている女性作曲家の幽霊はふんわりとしたセミロングヘアで、幽霊らしく見えないと感じる人も多いはず。

1998年『リング』

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見た者を1週間後に呪い殺すという「呪いのビデオテープ」が招く惨劇を描いた大ヒットホラー。怨霊として登場する貞子は念じるだけで人を殺せる恐ろしい超能力を持っており、長い黒髪を引きずりながら貞子がテレビから這い出てくるシーンはあまりにも有名。

2000年『呪怨』

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夫によって妻が惨殺された一軒家を舞台に、その家に住んだり立ち入ったりした者たちが次々と呪い殺されていくさまを描く。一軒家に取り憑く幽霊の伽椰子は生前、不倫を疑われ、息子・俊雄を不義の子であると思い込んだ夫に殺された悲劇的な過去を持つ。

2023年『ミンナのウタ』

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一度聴いたら伝染する"呪いのメロディー"を巡るホラー。続編『あのコはだぁれ?』にも登場する幽霊・高谷さなは自分の夢をかなえるため、生き物の断末魔をカセットテープに収めるという猟奇的な少女だ。無垢だからこそ恐ろしい、ホラー映画のニューヒロイン。

 

女性の幽霊は死と引き換えに怪物になり、復讐の力を得る

Jホラーにおける女性の幽霊の描かれ方の変遷を、ホラー映画における女性表象を研究する鈴木潤さんに聞いてみた。

「Jホラーの元祖と言える『邪願霊』(1988)には、アイドルのプロデューサーを務める男性との関係のもつれから自殺をしてしまった女性の作曲者が幽霊として登場します。その幽霊はプロデューサーへの取材映像に最初からずっと映り込んでいるのですが、彼女は自分を捨てた男性をにらみつけているようにも見えますし、さらに言えば、この作品をレンタルして観賞しているであろう、視聴者の男性たちをもにらみつけている存在なのです。

また、Jホラーの幽霊と聞いておそらく多くの方が真っ先にイメージするのが『リング』(1998)の貞子と『呪怨』(2000)の伽椰子・俊雄親子だと思います。『リング』の貞子はテレビ画面から這い出てきてその目力で観る者を圧倒する、まさに〝見る〟力を発揮する幽霊。『呪怨』の伽椰子は、作品の舞台となる家そのものに取り憑いている幽霊です。

実は伽椰子も貞子も、生前、非常に悲劇的な過去を背負っています。貞子の場合、最期は殺されて井戸に突き落とされていますし、伽椰子は夫に不倫を疑われ、無実の罪で殺されているんです。『そんな殺され方をしたら化けて出たくもなるよね』と言いたくなるような悲しいバックグラウンドを背負った女性たちが、亡くなって幽霊になったのち、手当たり次第に人を呪う怪物になることで一矢報いるだけの力を手に入れる。そういった構造がJホラーの典型だという印象を持っています。

ただ近年では、清水崇監督の『ミンナのウタ』(2023)、『あのコはだぁれ?』(2024)に登場する少女の幽霊・さなのように、自分の目的のためなら手段を選ばない、猟奇性と無垢さを併せ持った新たな幽霊像も生まれています」

なぜ、ホラー作品の中で女性の幽霊が多く登場するのか。鈴木さんはこう話す。
「日常生活の中で弱い立場に置かれがちな女性や小さな子どもが、“幽霊”という現実の秩序から外れた存在になった瞬間に、それまで強い立場に立っていたはずの男性たちをも凌駕する力を持つ。そういった展開に、秩序を壊されるような恐怖を感じる人が多いからではないでしょうか。

ホラー作品においては作り手の意図もさることながら、観客側の受け取り方もとても重要です。『私はどうしてこの映画が怖いんだろう』『どうしてこのシーンで泣けたんだろう』と考えてみることは、自分自身を深く知るきっかけにもなると思います」

近年はフェイクドキュメンタリー作品が一大ブームに。新たな潮流における幽霊は、今後どのように変化していくのだろうか。
「先ほどの『邪願霊』もお蔵入り映像を再発掘するところからスタートするフェイクドキュメンタリーだったことを考えると、まさにブームが一周したと感じています。ここからフェイクドキュメンタリーがどう発展していくのかは非常に楽しみです。

一方で女性幽霊について考えてみると、女性は幽霊、あるいは怪物にならないとこの社会に一矢報いることもできないのかという点は、同じ女性としても気になるところです。誰もが強くならなければならないのか、怪物になるためには必ず悲劇がないといけないのか、など思うところは多々あるので、私自身もホラーの中でどのような存在が恐怖の対象として描かれてゆくのか、ジェンダーの視点も踏まえながら引き続き作品を観ていきたいと思います」

鈴木 潤さんプロフィール画像
鈴木 潤さん

1991年、新潟県生まれ。開志専門職大学助教。博士(学術)。専門は映像文化論、メディア論。映画分野を専門とし、日本のホラー映画における女性表象を研究している。単著に『Jホラーの核心――女性、フェイク、呪いのビデオ』(ハヤカワ新書)、共著に『幽霊の歴史文化学』(思文閣出版)など。

4. ジェンダー視点で楽しむホラーガイド

ホラー作品の中で、女性はどのように描かれているのか?3名のクリエイターに新視点で楽しめる作品を挙げてもらった

幽霊の背景には"悲しさ"がある

『わたしたちが火の中で失くしたもの 』

マリアーナ・エンリケス著  安藤哲行訳 河出書房新社/2,915円

『わたしたちが火の中で失くしたもの 』

世界20カ国以上で翻訳されている、ラテンアメリカの"ホラー・プリンセス"による12の短編集。

『日本のヤバい女の子』

はらだ 有彩著 柏書房/1,540円

『日本のヤバい女の子』

日本の神話や古典、民話を、登場する女性の心情に寄り添いながら大胆に読み解くイラストエッセイ。

『貞子』

中田秀夫監督が久々に『リング』シリーズに復帰し話題となった一作。SNS時代に再燃する貞子の呪いを描く。

ジェンダーの視点からおすすめしたい作品として、2冊の本を挙げてくれた大前さん。「『わたしたちが火の中で失くしたもの』は小説だからこそできる幻想的な恐怖の物語なのですが、怖さだけではなく、女性に対しての過酷な状況をどうホラーとして語るか、という視点が感じられます。『日本のヤバい女の子』は、日本の昔話や怪談に登場する"女の子"が強いられてきた呪縛をひもとくように彼女たちの事情に寄り添ってくれる、すごく元気の出てくる本です」

映画作品では『貞子』が好きだという。「作中、『リング』シリーズの貞子の似姿のような少女が登場するのですが、今作での貞子は恐怖される存在というよりも、ただ彼女のことを守ろうとしているだけなんじゃないか、と自分には見えました」  

ホラー作品の意義は、「“びっくりする”“怖い”という身体的な反応によって、自分たちが漠然と世の中に感じている不安をホラーという別の形に置き換えてくれるところ」と「どうしてその恐怖や怨霊が生まれたのか、背景となる差別や抑圧が描かれているところ」。 「『死んでいる私と、私みたいな人たちの声』(河出書房新社)という、フェミニズムの視点から怨霊の誕生を描く小説を書いているときにJホラーをたくさん鑑賞しました。どうして彼女たちはそうなってしまったのだろう、という視点で見たとき、ホラー作品は自分にとって"恐怖"ではなく"悲しさ"そのものでした」

大前粟生さんプロフィール画像
大前粟生さん

1992年、兵庫県生まれ。小説家。著書に、映画化作品『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(河出書房新社)、日記小説『プレイ・ダイアリー』(朝日新聞出版)など。

ホラー作品の存在は人間の欲深さの象徴

サブスタンス

DVD発売中 ¥4,400 販売元:ギャガ ©2024 UNIVERSAL STUDIOS

『サブスタンス』
かつて一世を風靡したスターが若返り薬に手を出し、美と若さに固執する中で破滅してゆくさまを描く。

『雨月物語』
上田秋成の読本『雨月物語』をベースに川口松太郎らが脚色。第14回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞。

『ブラック・スワン』

ディズニープラス スターで配信中 © 2026 Twentieth Century Fox Film Corporation.All rights reserved.

『ブラック・スワン』
バレエ『白鳥の湖』の主演に抜擢され、不安と焦りに苛まれて変貌していくバレリーナの姿を描いたサスペンス。

映画『8番出口』(2025)の脚本など、自身でもホラー作品を手がける平瀬さんは、ホラーの魅力をこう語る。「観る人が最も恐怖を感じるのは、恐ろしいことが起こったときではなく、起こる前の予感に満ちた時間です。実は、恐怖という感情を生み出しているのは人の想像力。その事実に強い魅力と面白みを感じます。恐怖は本来ならば動物としての生存本能が生み出した防衛機能ですが、その感情すら快楽のために利用しようとする人間の欲深さを、ホラー作品の存在が象徴していると思います」

ジェンダー視点で印象に残っているホラーとして、変貌していく女性を描いた3作品を挙げる。「『雨月物語』で京マチ子が演じた絶世の美女・若狭は、美しさと恐ろしさを兼ね備えた幽玄なる恐怖の存在。『ブラック・スワン』では、恐怖するのも恐怖を与えるのも自分自身という新しいホラー構造を、ナタリー・ポートマンが見事に演じきっています。『サブスタンス』では、主人公と完璧な分身のふたりがそれぞれ感じる恐怖と、その状況を俯瞰して見る観客の感じる恐怖という、3種の恐怖が映画を支配しています」

恐怖とジェンダーが強く紐づいているのは、「性別に対する固定観念を利用し、異常性を演出しているためではないか」と平瀬さん。「そして、その演出が多くの鑑賞者に対して有効であるという事実もまた、現代のジェンダー論に通ずるテーマだと思います」

平瀬謙太朗さんプロフィール画像
平瀬謙太朗さん

1986年、サンフランシスコ生まれ。クリエイティブディレクター、脚本家、映画監督。『災 劇場版』(2026)、『泉京香は黙らない』(2026)では、共同で監督(演出)と脚本を務めた。

怪談には社会的役割から自由になるヒントがある

『X エックス』

DVD発売中 ¥4,290 販売元:ハピネット・メディアマーケティング ©2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

『X エックス』
テキサスの片田舎に住む殺人鬼の老夫婦を描く、古典的なスラッシャー映画へのオマージュに満ちた一作。

『女優霊』
Jホラーブームの先駆者となった中田秀夫と高橋洋が初めてタッグを組んだ、エポックメイキング的な作品。

『ラストナイト・イン・ソーホー』

4K UHD+Blu-ray発売中 ¥6,980 販売元:ハピネット・メディアマーケティング ©2021 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

『ラストナイト・イン・ソーホー』
異なる時代を生きるふたりの女性の夢と恐怖が交差する、エドガー・ライト監督が初めて手がけたホラー。

好きなホラー作品の作り手として『ウ”ィ”エ”』で知られる映像作家・音楽家のバーバパパさんを挙げるなど、新旧問わずホラーに造詣が深い、怪談師の深津さん。おすすめの作品にも、異なるジャンルの怖さを味わえる3作品を挙げてくれた。

「『X エックス』は往年のホラーへのオマージュをふんだんに取り入れた、上質かつ軽やかなスラッシャー映画です。心の傷を繊細に描くシーンとバカバカしくて疾走感のあるバイオレンスシーンのギャップが印象的で、最後まで生き残るファイナル・ガールとなる主人公が自分を貫くところは痛快でした。『女優霊』には、象徴的な存在である貞子のプロトタイプ的な幽霊が登場します。出てくる女性キャラが全員怖いのですが、男性の描かれ方とのギャップを観察してみると面白いと思います。『ラストナイト・イン・ソーホー』の、異性から性的な消費対象として扱われるグロテスクさは、見る人を選ぶレベルかもしれません。予想だにしない展開の連続で、あの女性が実は……という種明かしには驚きました」

『番町皿屋敷』や『四谷怪談』が編まれた江戸時代から、怪談の世界ではさまざまな差別構造とそれに反発する怨霊が描かれてきたと深津さんは語る。「国内外問わず多くの怪談やホラーの作品に、性別によって期待される社会的役割から自由になるヒントが隠されていると思います」

深津さくらさんプロフィール画像
深津さくらさん

1992年、茨城県生まれ。2018年より活動を開始。怪談師としての活動のほか、作家として『怪談びたり』『怪談まみれ』(ともに二見書房)などの作品を上梓している。