2021.10.24

モードを愛するあの人はアートと暮らす

とんでもなく価値のある作品に埋もれ、混沌としながらも独自の美意識を感じさせる家。どの作品も掲げる場所に理由のある、秩序だったアパルトマン。二人のデザイナーの自宅でのアートの楽しみ方は、対照的だ。でも、作品を選ぶ基準は共通している。ハートに響いたら、迷わないこと

Fashion Designer: Sueo Irie

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大理石のテーブルの上に置いたのは、ジャン=ミシェル・オトニエルの巨大なガラス玉ネックレス。アーティスト本人とも長いつき合いで、本品は彼のキャリアの初期に購入。

飾らずに、ただ囲まれていたい。とても私的なアートの愛し方

入江末男●大阪出身。1970年にシベリア鉄道で、パリへたどり着いた。70年代後半に高田賢三を手伝い始め、’83年には自身のブランド「イリエ」をスタート。現在もサンジェルマンにショップを構える。

 

アート作品へのひと目惚れは、恋愛で感じるドキドキのよう

「僕はシンプルにアートのファン。好きなものは集めて身の回りに置いておきたくて。テレンス・スタンプの映画『コレクター』(’65)で主人公が執拗に蝶を集める、そんな感じ」。著名な作品を無数に所有する入江さんは謙遜して、こう語る。
きっかけは、1970年代後半のニューヨークで。遊びに行った際、友人にウォーホルの「ファクトリー」に連れて行ってもらったり、ギャラリー「ロバート・ミラー」でメイプルソープやギルバート&ジョージらの作品を目にして興奮した、と回想。この時期に最初に購入したのがブルース・ウェーバーの一連の写真だとか。入江宅で珍しく壁に飾られた作品は、これらの思い出の品々だ。「ギャラリー然ときれいに陳列するのは好きじゃない。床に置いているほうが生活の一部になって、パーソナルな感じがするでしょう? 複数を重ねて置くと確かに全貌は見えないけれど、ときどき順番を変えて、すべての作品にまんべんなく愛情を注ぐんだ」と、部屋中に鈴なりになったアート作品を愛おしそうに眺めて、続ける。「今の社会は情報にあふれているけれど、僕はこれからも作品にひと目惚れしたときに感じる、恋愛のときめきのような気持ちを大切にしていきたい」

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1 写真家フランソワ・アラールによるコラージュは、入江さんごひいきのアーティスト、サイ・トゥオンブリーの絵のディテール写真。70年代末から懇意にしているギャラリー「イヴォン・ランベール」で購入した2 足の踏み場がないリビングには、トム・サックスのあまりにも有名な作品が、所狭しと並ぶ。いずれもパリの老舗ギャラリー「タデウス・ロパック」で購入
3 ルイーズ・ブルジョワやバスキアのドローイング(床に置いた2点)からベッティナ・ランスによるケイト・モスのポートレート、Acne Studiosとのコラボもしている若手アーティストや、グラント・レヴィ=ルセロのピッチャー。寝室にはいつでも見たい、大好きなものを集めて

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4 階段の壁には、ブルース・ウェーバーの一連の写真が。下は左からボブ・ウィルソンのドローイング、アニー・リーボヴィッツの写真、そしてイリエへ、と直筆サイン入りのジャン=ミシェル・バスキアのドローイング
5 愛犬、ピカソ。ニューファンドランド犬を選んだのは、ブルース・ウェーバーのこの写真に影響されて
6 暖炉の上のちょっとしたスペースにも、作品がぎっしり。目をくりぬいたポートレートはダグラス・ゴードンの作

Fashion Designer: Alexis Mabille

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リビングルーム。壁に立てかけた大きな写真は、水面の花の接写。ファッションフォトグラファー、ジル・ベンシモンのパーソナル・ワーク《Watercolour》からの一点で、数年前にパリのギャラリー「ラロック・グラノフ」での展覧会の際に購入したもの。蚤の市で見つけたジャン・リュサによる1950年代のタペストリーを使い自身がデザインしたソファと、偶然にも色がマッチ。

不調和という調和。ハイブリッドな空間

アレクシ・マビーユ●1997年から9年間、ディオールでコスチューム・ジュエリーを担当。2005年に自身の名を冠したブランドを開始。独学でインテリアデザインも手がけるようになり、現在はBeaubow Parisの名前でレストランの内装も手がけている。

家にアートを飾る。それは驚きと感動に満ちた、大好きな瞬間

「アートのあるインテリアの可能性を探るようになったのは7年前、このアパルトマンに引っ越したとき」と、アレクシ・マビーユは語る。本で見て影響を受けたのは、異なるスタイルを融合させた、故ロジェ・ヴィヴィエの1970年代のアパルトマン。

「僕のリビングルームでも、ディエゴ・ジャコメッティのランプに見るクラシック・アートの厳格さと、コンテンポラリーな要素の自由さを対比させてみたんだ。それぞれのよさが際立つと思うから」

好奇心旺盛でオープン、しかもネットワークが広い彼は、あらゆる方法で過去から現在まで、多様なアートを探し続ける。求めるのは、驚き。どこかで見て気に入り購入した作品も、家で見るとまた違った印象かもしれない。情報源は友人から偶然立ち寄ったギャラリー、果てはインスタグラムまで。「とはいえ最高なのは、アーティストからじかに創作のプロセスを聞くこと。ジェームズ・ブラウンと話して、彼が自ら壁に作品をかけてくれたときは、本当に感動したね。壁にエモーションを飾る、その瞬間がとても好きだ」と、アレクシ。彼いわく、家は住む人のエスプリを体現する。ここではすべてが適材適所で、彼の不調和という"調和への探究心"を示唆している。

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photo:Francis Amiand

1 アレクシ・マビーユ。"Vogue"のガッシュは、セシル・ビートンの作
2 リビングの壁には、ジェームズ・ブラウンの絵画《オヴァール》を。数年前にギリシャ・パトモス島でのバカンス時に知り合い、その後、彼のアトリエを訪問。作品はギャラリー「カーステン・グレーヴ」で購入したもの
3 寝室の壁一面を覆う書棚でピンクの枕カバーと呼応するお尻の形のオブジェは、若手アーティスト、マリー・ヴィック作。左のデッサンは長年の友人、マリー・ベルトラミ

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4 写真は一カ所に集めて。上はフランソワ・アラールが撮影した、ヴィラ・マラパルテ[映画『軽蔑』(’63)のロケ地]。椅子の上、右は前述マリー・ヴィックが、ロックダウン中に撮った母との"対話"シリーズ。左はファッションブランドとのコラボレーションも多い写真家で現代アーティスト、ダミアン・ブロティエールのコラージュ。もともとは友人のミュージシャン・デュオ「アーロン」のレコードジャケットのための作品だ
5 キッチンとその奥のランドリー・ルームには、20世紀初頭のアートが。花のデッサンは、クチュリエのポール・ポワレが設立した造形アートの女学校、エコール・マルティーヌの生徒によるもの。棚の上の像やレリーフは30年代の彫刻家マルセル・ルナールがブロンズ像の制作時に使用した流し型。リヨンでの競売で競り落とした
6 26歳という若きアーティスト、リュシアン・ビトーによる光るボード《レゾノンス》。友人の誘いで見たパリのギャラリー「スーパーズーム」での展覧会で、即購入

SOURCE:SPUR 2021年11月号「モードを愛するあの人はアートと暮らす」
photography: Julie Ansiau interview & text: Minako Norimatsu

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