毎年春に開かれる「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」が今年も始まった。14のメインプログラムのほか、公募型のものも合わせると、200以上の展示が京都市内各所で開催されている。ここでは、アーネスト・コール、森山大道、ファトマ・ハッスーナ、キム・ウンジュの展示を紹介する。

キョウトグラフィー(KYOTOGRAPHIE)は、京都で開催される国際写真祭。2026年で14回目を迎えた。寺院や町家など京都市内の名所を舞台に、国内外の作家の展示をはじめ、さまざまなイベントが開催されている。会期は5月17日(日)まで。

【KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026】写真はどこまで社会を映し出せるのか

毎年春に開かれる「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」が今年も始まった。14のメインプログラムのほか、公募型のものも合わせると、200以上の展示が京都市内各所で開催されている。ここでは、アーネスト・コール、森山大道、ファトマ・ハッスーナ、キム・ウンジュの展示を紹介する。

キョウトグラフィー(KYOTOGRAPHIE)は、京都で開催される国際写真祭。2026年で14回目を迎えた。寺院や町家など京都市内の名所を舞台に、国内外の作家の展示をはじめ、さまざまなイベントが開催されている。会期は5月17日(日)まで。

INDEX

沈黙のモノクロームが語る、南アフリカの抑圧の記録。アーネスト・コール「House of Bondage(囚われの地)」/京都市京セラ美術館本館南回廊2階


アーネスト・コール「囚われの地(House of Bondage)」の展示風景

多人種・多民族国家でありながら、分断の歴史をもつ南アフリカの特別プログラム「SOUTH AFRICA IN FOCUS」から。

1948年から1990年代前半まで、アパルトヘイト(人種隔離政策)下にあった南アフリカでは、公共施設や交通機関、居住地区、仕事、結婚相手など、日常のあらゆる側面が人種で隔離されていた。異なる人種が交わる唯一の機会は、黒人が使用人として、白人の主人のために働くときだけだった。

京都市京セラ美術館本館南回廊2階では、アパルトヘイトの実態を克明に記録した写真家、アーネスト・コールさんの日本初の展示「House of Bondage(囚われの地)」が開催されている。

アーネスト・コール「囚われの地(House of Bondage)」の展示風景

「EUROPEANS ONLY(ヨーロッパ人専用)」と書かれたベンチに腰掛ける白人女性と、その背後で地べたに座る黒人男性。白人専用地区にいたとして警察に逮捕され、手錠をかけられた黒人。机も椅子もない教室で、過密状態のなか勉強をする黒人の子どもたち。モノクロームの写真群が、当時の差別や抑圧の実相を静かに語る。

アーネスト・コール「囚われの地(House of Bondage)」の展示風景

1940年、南アフリカで黒人の両親のもとに生まれたアーネスト・コールさんは、20歳のときからフォトグラファーとして秘密裏に取材を重ね、当時の人びとがどんな日々を生きていたのかを数年かけて記録し続けた。

しかし白人政権による取り締まりが厳しくなり、身の危険を感じた彼は、1966年にアメリカへ亡命する。その後わずか1年というスピードで、写真集『House of Bondage』(1967)を出版した。そこには、南アフリカで黒人がどのような苦難を強いられているかを一刻も早く世界に知らしめたいという、彼の切実な思いがあった。

アーネスト・コールの写真集「House of Bondage」の展示風景

本展のキュレーターを務めるマグナム・フォト(パリ)のグローバル・カルチャー・ディレクターのアンドレア・ホルツヘルさんはこう述べる。「『House of Bondage』は、南アフリカで黒人として生き、正義を追い求め、アパルトヘイトのことを世界に知ってもらいたいと願ったひとりの人間による証言であり、告発でもあるのです」

アーネスト・コール「囚われの地(House of Bondage)」の展示風景

展示は『House of Bondage』と同じ15の章からなり、アーネスト・コールさん自身が書いたテキストと写真で構成されている。隔離を想起させるゲートやフェンスによって、連続する窮屈な空間が生み出され、アパルトヘイト下で行動や感情までもが制限された当時の社会状況を体感できる空間になっている。

アーネスト・コール「囚われの地(House of Bondage)」の展示風景

ある1枚の写真に心を揺さぶられた。黒人の乳母が、白人の子どもを我が子のようにしっかりと抱きしめている。その親密なポートレイトから感じ取れるのは、差別や憎悪ではなく、純真な愛情だ。アーネスト・コールさんはこの写真について、こう綴っている。

「使用人は愛することを禁じられてはいない。子どもを抱いた女性はこう語る。『私はこの子を愛しています。いずれこの子も、母親と同じように私を扱うようになるでしょう。それでも今、この子は無垢なのです』」

アーネスト・コール「囚われの地(House of Bondage)」の展示風景

1967年に『House of Bondage』が出版されると、アーネスト・コールさんは祖国から追放された。次第にホームレス生活を送るようになり、1990年に49歳の若さでひっそりと亡くなった。本書が南アフリカで初めて公開されたのは彼の死後、1994年のことだった。

会場内では、本人の貴重なインタビュー映像を見ることもできる。最後に、彼の揺るぎない信念と覚悟が伝わる言葉を引いておく。

「南アフリカの過酷な状況を、国連が変えてくれると思っていた。でも国の外に出てみて、その考えは間違っていたことに気づいた。アパルトヘイトは、国連にとっては数多ある問題の一部に過ぎなかった。国を変えるのは国連じゃない。変化をもたらすのは、その国に生きる私たち自身なのだ」

アーネスト・コール「House of Bondage|囚われの地」
会場:京都市京セラ美術館 本館 南回廊 2階
京都市左京区岡崎円勝寺町124
開館時間:10:00–18:00 ※入場は閉館の30分前まで 
休館日:4月27日(月)、5月11日(月)
料金:大人¥1,000、学生¥500 (学生証要提示)

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イメージとは何かを問い直す60年。森山大道「A RETROSPECTIVE」/京都市京セラ美術館本館南回廊2階

森山大道「A RETROSPECTIVE」の展示風景

約60年以上のキャリアの中で、「写真とは何か」という根源的な問いに向き合い続けてきた森山大道さんの大回顧展「A RETROSPECTIVE」は圧巻だ。京都市京セラ美術館本館南回廊2階で開催中。キュレーションは、ブラジルのモレイラ・サレス研究所のチアゴ・ノゲイラさんが手がけた。

3年にわたるリサーチをもとに構成された本展では、戦後の日本の都市社会の急速な変化を写し出した1960年代の初期作品から、「アレ・ブレ・ボケ(荒れた粒子、ブレた被写体、ボケたピント)」という独自のスタイルを追求した『写真よさようなら』(1972年)、色彩豊かなカラー写真を積極的に取り入れた『プリティ・ウーマン』(2017年)など、現在に至るまでの多様な写真表現を時系列でたどることができる。

森山大道「A RETROSPECTIVE」の展示風景

会場には4つの部屋が連なり、200点以上におよぶ写真作品が壁を埋めるように展示されている。そしてすべての部屋をつなぐのは、森山大道さんの書籍や雑誌がずらりと並ぶ鑑賞用テーブルだ。彼の写真表現をめぐる議論の土壌となった紙媒体が、本展においては重要な位置を占めている。実際に手にとって読めるものも多いので、じっくりと鑑賞してほしい。

森山大道「A RETROSPECTIVE」
会場:京都市京セラ美術館 本館 南回廊 2階
住所:京都市左京区岡崎円勝寺町124
開館時間:10:00–18:00 ※入場は閉館の30分前まで 
休館日:4月27日(月)、5月11日(月)
料金:大人¥1,500、学生¥800 (学生証要提示)

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戦争の真実と向き合ってほしい。ファトマ・ハッスーナ「THE EYE OF GAZA」/八竹庵(旧川崎家住宅)

ファトマ・ハッスーナ「THE EYE OF GAZA」の展示風景

2025年4月16日午前1時、パレスチナ・ガザ地区のフォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナさんは、イスラエル軍による空爆で家族6人とともに殺害された。

「ガザの眼」と呼ばれていた彼女は、破壊されゆくガザの現状を正面からとらえると同時に、その中でも確かに生きている人びとの強さと尊厳を映し出した。写真には不正義と闘う力があると信じて撮り続けていた。

ファトマ・ハッスーナ「THE EYE OF GAZA」の展示風景

八竹庵の蔵を舞台にした暗い空間に、彼女の遺した貴重な作品がスライドショーで投影される。会場内には軍用飛行機や爆撃の音、ファトマさんの声が響き、戦地の緊迫感が伝わってくる。

2階に置かれていたiPhoneの画面に映る、ファトマ・ハッスーナさん

暗闇の中2階へ上がると、1台のiPhoneが置かれてあった。画面には、ファトマさん本人と、彼女のドキュメンタリー映画『手に魂を込め、歩いてみれば』を制作したセピデ・ファルシ監督とのビデオ通話の記録が映し出される。

「ガザを離れたい?」と尋ねる監督に対して、ファトマさんはこう答える。「今すべきことをしないでいつやる? この苦しみをすべて記録できる人は、ほかに誰がいる? ガザから出たいけど、ガザには私が必要なの。皆に真実と向き合ってほしい」 

2023年10月以降、イスラエル軍によって8万人ものパレスチナ人が殺害された。ファトマさんのように命を奪われたジャーナリストは200人を超える。セピデ監督は、「世界はただ死を見ているだけ。これこそが大きな裏切りではないだろうか」と訴える。

写真と対話で構成される本展は、ガザで失われた多くの命を追悼する場でもある。本展の開催期間中、アップリンク京都では『手に魂を込め、歩いてみれば』が限定上映されている。あわせて観てほしい。

ファトマ・ハッスーナ「THE EYE OF GAZA」
会場:八竹庵(旧川崎家住宅)
住所:京都府京都市中京区三条町340
開館時間:10:00–19:00 ※入場は閉館の30分前まで
料金:入場無料

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KYOTOGRAPHIEのサテライトイベントとして同時開催されているのが、公募型のコンペティションであるKG+SELECT。国内外の応募者の中から選出された10組のアーティストが、20万円の制作補助金を受け、くろちく万蔵ビルでグループ展を開催している。過去最多の400件を超える応募の中から選ばれた、今年のファイナリストの展示をひとつ紹介したい。

5・18民主化運動の記憶と傷痕に光を当てる。キム・ウンジュ「Light Unhealed」 /くろちく万蔵ビル

キム・ウンジュ「Light Unhealed」 の展示風景

1980年5月18日から27日にかけて、韓国の光州市で起きた5・18民主化運動。当時の軍事独裁政権に抵抗した市民を、戒厳軍が武力で鎮圧し、多数の死傷者を出した。公式発表されている死者数は約200人だが、行方不明者も含めるとそれ以上と推定され、韓国現代史における最大の悲劇として知られている。

キム・ウンジュ「Light Unhealed」 の展示風景

写真家のキム・ウンジュさんは、5・18民主化運動を生き抜いた人や、犠牲となった人と向き合い続けてきた。深い傷を抱えて生きてきた人びとの記憶をたどるプロジェクトは、15年にわたる。

キム・ウンジュさんの写真集「Light Unhealed」

©︎Kim Eun Ju / Three Books

昨年出版された写真集『Light Unhealed』には、33人のポートレイトと証言が収録されている。一人ひとりの写真は、実際に家族が亡くなった場所や自分自身が被害を受けた場所で撮影された。因縁の地に再び立ってもらうのは、決して簡単なことではなかっただろう。キムさんはこう振り返る。

「民主化運動の被害を受けた女性たちが集う『5月の母の家』に何度も通い、信頼関係を築いていきました。私のプロジェクトを理解し、撮影を承諾してくださっても、現場に行くとフラッシュバックを起こし、震えが止まらなくなる方もいらっしゃいました。それでも、私が撮るのをやめようとすると『撮ってください』とおっしゃったのです。記録として残すことの重要性を感じてくださっていたのだと思います」

キム・ウンジュさんの写真集「Light Unhealed」

©︎Kim Eun Ju / Three Books

つらい記憶を胸に秘め、痛みとともに生きてきた人びとに、光を照らす。ウンジュさんのプロジェクトは、これからも続いていく。

キム・ウンジュ「Light Unhealed」
会場:くろちく万蔵ビル
住所:京都府京都市中京区百足屋町374-2
開館時間:10:30-18:30 ※入場は閉館の30分前まで 
料金:入場無料

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KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026


会期:2026年5月17日(日)まで
会場:京都市内各所 ※インフォメーション町家:八竹庵(旧川崎家住宅)
パスポート料金:一般 6,000円(オンライン:5,800円)・学生 3,000円(学生証要提示)