#7 ティファニー・ゴドイとマスイユウのオンライン・モード対談

先シーズンのカープール対談から舞台をオンラインへ。ふたりが考える未来のモードとは?

ユウ(以下Y) ティファニーとファッションウィーク中に会えなかったのは初めてかも。
ティファニー(以下T) 初めて! 変なファッションウィークだった。

デジタル・ファッションウィークの評価は?

 デジタル・ファッションウィークは楽しめた?ハイブリッドフィジタルって呼んだほうがいいかな?
 疲れたね。映像が始まるのを待つのはショーを待つのと変わらないけど。ディスプレーの前にずっと座って眺めているのはきつい。
 わかる! 昨年6月のロンドンコレクションは全部オンタイムで見たけど、最後のコンテンツが終わるのは日本の明け方頃。昼夜逆転生活よ!
 フィジカルの力強さを再認識したよね。会場にいる人たちがイベントを撮影し、すぐにソーシャルメディアやウェブに拡散する。デジタルだとブランド自身のプラットフォームが中心。そしてオーディエンスも、次の動画があがったらすぐに関心が移ってしまう。
 デジタルは万人に開かれているけど、スクリーンショットを撮ったり、録画アプリを使ったり、確かにポストするのは面倒臭い。
 デジタルでただ画像や映像を見せるだけでは、一方通行だよね。
 ところで好きなデジタル・プレゼンテーションはあった?
 ラフ・シモンズが加わったプラダはみんなを興奮させただけでなく、ファッションの未来を見せてくれたと思う。ランウェイのフォーマットだけどカメラワークが面白いし。それにふたつの方法でオーディエンスとつながっていたよね。世界中で映画のプレミアのようなスクリーニングを配信し、もうひとつはミウッチャとラフ、ふたりのクリエイティブ・ディレクターによる双方向なトーク(3)。フィジカルとデジタルを同時開催する新しい姿だと思った。
 ルイ・ヴィトン(6)もいくつもの次元で見せていたよね。招待いただいたのにロンドンからパリに行けなくて残念だった。でも、グリーンスクリーンを背景にした会場(7)が、デジタルでは映像を合わせたまったく違う世界観になっていたのを見て、悲しみは和らいだわ。ティファニーは現場にいたよね?
 3つのポイントがあったよ。ひとつは会場。15年間の工事を終えて、老舗百貨店サマリテーヌの跡地にできた複合施設が舞台に。現地に行けるのは楽しみだった。ふたつ目は、パリに来られなかったゲスト用に、バーチャルシートが用意されていたこと。3つ目はデジタルで見ているオーディエンスへのリミックス映像の素晴らしさ。もちろん、ジェンダーを超越したコレクションも最高によかった。
 正直、デジタルはどれも3分以内の映像がいい(笑)。インスタグラムなら1分、ティックトックなら15秒。小さなディスプレーで長時間の映像は見られなくなってるのかも。
 バーバリーは、無観客のコンセプチャルなショーを独自にライブ発信していたね。
 なんだっけ、バーバリーが提携した新しいの? ツイッギーみたいな名前の(笑)。
 ツイッチでしょ? ゲーマーに大人気の。ブランドは新しいプラットフォームを模索している感じはあったよね。
 ティックトックなんて、前回の対談のときにハイファッションには浸透しないって言ったけど、ロックダウンを通して台頭したね。ラグジュアリーもどんどん取り入れている。
 セリーヌはメンズのショーでティックトッカーをモデルとして起用(9)。レディスもすごくリアルで、LAのモールを歩いているティックトックジェネレーションを見ているようだった。ティックトックがブランドに与えた影響の最たるものかも。
 ティックトックはラグジュアリー化しようとしていて、ファッションウィークを通して#tiktokfashionをすごく推していると、ブライアン・ボーイが教えてくれた。イメージづくり先行で、インフルエンサーの早着替え頼みって感じのコンテンツばかりだったからね。あれはもう勘弁してほしい!
 そうね、ラグジュアリーブランドのクリエイティブ・ディレクターが自らカメラの前で踊るとは思えないしね(笑)。
 とはいえ、各ブランドのフォロワー数が安定してきたから、インフルエンサーに頼らず自身のアカウントから発信が可能になってきているのも確か。JW アンダーソン(1)は前回のインスタグラムから、ティックトックライブでの公開にシフトしていた。
 彼は天才的に発信に長けていて、新しい手法を次々に取り入れている。メンズから続けているshow in a box"(2)って、すごくアナログだけど今の気分。
 一方通行であるファッションショーに対して、受け手にもクリエイティブな経験をしてほしいという思い、すごく共感できる。

1・2 オスカー・ワイルドに着想した新作を紙人形に。デジタルで発表しつつ、箱入りのコレクションブックを配布し、フィジカルにも訴えるアイデアが見事

3 各国エディターの質問に答えるふたり

4 スタイリングはロッタ・ヴォルコヴァ

5 ウィズ・コロナ時代を象徴するマスクを全ルックに採用したリック・オーエンス

6・7 "フィジタル"で複次元的にショーを展開。洋服ではノンバイナリーな カッコよさを新たに創造した

コレクションに求めるのはリアリティかファンタジーか?

 デザイナーが今の状況に対して、ほとんど提案をしなかったことにすごく違和感を覚えた。どんなマスクやフェイスガードをつけたらいいか、どのようにつけたらカッコいいか、みんな知りたいと思っているのに。
 確かに! ショールームにはマスクがあったけど、ランウェイでも映像でも見ることはほぼなかったかも。世相を反映しているものといったら、スウェットパンツのようなリラックスウェアだけ。
 アプローチはふたつに分かれていたと思う。リラックス系のリアルクローズとファンタジーワールド。パリの1日目に見たジャンポールゴルチエ出身のクラブキッズ、ヴァイサントは、ファビュラスな現実逃避だった。リアルとファンタジーのふたつをミックスしたリック・オウエンス(5)は、自身をデコレーションするような感じだったけど、機能性も兼ね備えていてよかったよ。
 ミラノはミレニアル世代のデザイナー、新任のニコラ・ブロニャーノによるブルマリン(4)がキレッキレだった! ブランドが絶好調だった90年代のキッチュな部分を、ラグジュアリーのフィルターに通した感じ。
 FUN! てことじゃないかな。エミリオ・プッチとトモ コイズミのコラボレーション(10)もすごくポジティブだし。
 まさに、ポジティブチェンジ! ミラノのヴィテリはサステイナブルな若手グループ。古びたアーケードにスペースを持っていて、地下空間をクリエイターに提供。そのコミュニティに新しさを感じた。

8 ペイントを服にも施した

9 ティックトックが生んだE-boyスタイルが新鮮

10 トモ コイズミらしいラッフルでプッチ柄を表現

実は今まで以上に現場はフィジカルを求めていた

 僕はクリストファー・ケイン(8)が最高に素晴らしいと思った! コレクションのベースになったのは、ロックダウン中に毎日描いたポートレート。ガーメントにはプリントだけじゃなく、ハンドメイドのアイテムも。
 ロックダウンの間にデザイナーには考える時間があったから、すごく強いコレクションも多かったよね。
 ロンドンではフィジカルとデジタルの間にアポの枠があって、デザイナーが対面で説明してくれる機会が。デジタル、デジタルって言っているけど、実はロンドンはこれまで以上にフィジカルだったんだよね。
 それってすごくインティメイト。デザイナーは話がしたかったのかも。メディアやバイヤー、みんなが集まってパンデミックで稀薄になってしまった関係を再構築していた。小さなプレゼンや展示会は癒やしのようなもの。
 デザイナーといえば、普段は顔も出さないコム デ ギャルソンの川久保玲さんがニュース番組のインタビューを受けたことはすごく衝撃的だった。世界中のファッショニスタが即ストーリーズにあげていた。
 日本で久しぶりに見せた、コム デ ギャルソンも、ジュンヤ ワタナベも、ノワール ケイ ニノミヤも、コレクションだけでなくショーの演出もすごくよかった!
 ロエベのジョナサン・アンダーソンやステラ・マッカートニーも、ズームでプレス向けのインタビューを敢行。ステラはサステイナブルに対するマニフェストA-Zについて話していた。映像を撮ったノーフォークのお庭が素敵だったなぁ。

11 ナイジェリアの職人が手がけるファブリックが主役

12 さまざまな家族写真でカラフルな新作を発表した

13 コロナ禍の最前線で働く女性に着想。クチュールの技法で仕立てている

ポスト・コロナ時代に必要なファッションとは?

 1017 ALYX 9SMのマシュー・ウィリアムズによるジバンシィのデビューコレクションは、意外にもアナログな見せ方だった。ムッシュ ジバンシィだけでなく、ジョン・ガリアーノやアレキサンダー・マックィーン、リカルド・ティッシ、これまでのメゾンの歴史に目を向けていたのは面白かった。ただ、今のインスタグラムはケンダル・ジェンナーやジジ・ハディッド的なセレブフォーカスでちょっとプレ・コロナ感が否めない。
 ポスト・コロナのファッションに必要なことってなんだろう?
 ファッションのエリートイズムはもう古い。オーディエンスが雛壇ではなく並列だったミュウミュウは、ポスト・コロナ的。なんのしがらみもない若手をサポートしていたグッチフェストの寛大さもそう。バレンシアガがVRゲームで新作を発表したけど、そのインタラクティブさも今っぽい。
 事前録画された映像がだらだら配信された一部のメゾンのデジタルを見ていると、インタラクティブの重要さは感じたね。
 伝えることがある、何かを背負っているデザイナーは、すごくポスト・コロナ。アフリカ出身のケネス・イゼ(11)は現地でのコレクションづくりを通してコミュニティをサポートしているけど、コロナ禍では500倍大変だったと言っていた。
 社会問題に立ち向かっているベサニー・ウィリアムズ(12)も苦労したみたい。昨シーズンに続きホームレスやその危機にある母子をサポートするチャリティ機関と組んで、子どもたちが描いたイラストをプリントやパッチワークに落とし込んでいた。でも、多くは現実を忘れたいのか、コロナ禍を感じさせるコンテンツがほとんどなかったように思う。そんななか、ロンドンのハルパーン(13)はドクターからバスドライバーまで、大変な時期のパブリックサービスを支えてくれた女性たちをモデルとして起用し、感謝の気持ちを伝えていたことが忘れられない。
 デカダントな作風だけど、ロックダウン中には医療従事者のためにガウンを縫って提供していたよね。
 コロナ禍を通してファッションに思いやりという言葉が生まれたと思うよ。来シーズンは一緒にショーを見て、顔を突き合わせて対談ができるよう願ってる!

エディター YU MASUI

マスイユウ●ファッションジャーナリスト。各都市のコレクションをレポートするほか、さまざまなファッションプライズにも参画。今シーズンはロンドンとミラノで現地取材を行なった。
Instagram: @yumasui

エディター TIFFANY GODOY

ティファニー・ゴドイ●ファッションジャーナリスト。日本やアメリカなど世界各国のメディアに寄稿。本誌にて「現代モード辞典」を好評連載中。現在はパリをベースに活動。
Instagram: @tiffanygodoypresents

photography: JW Anderson(1・2), PRADA(3), IMAXtree/AFLO(4〜9, 11〜13), Megumi Takahashi (10) text: Yu Masui

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